噛みつき評論 ブログ版

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少額投資非課税制度は誰のため?

2013-04-29 10:45:12 | マスメディア
 証券会社とお付き合いのある方のところには既に「日本版ISA、少額投資非課税制度」の立派な案内書が送られてきていることと思います。やや複雑な制度ですが、各社とも図を使って要点をわかりやすく親切に説明しています。

 簡単にいうと14年の1月から始まる少額投資に対する優遇税制であり、上場株式と公募株式投信に投資する場合、年100万円までの投資が5年間、計500万円までは譲渡益と配当が非課税となります。一見、国民に対する思いやりと見えますが、実は無税にしてどんどん株や投信を買わせようという下心が透けて見えます。相手のためであるように見せながら、実は自分の利益を図る「おためごかし」の模範例です。

 モデルとなった英国のISA(Individual Savings Account)は1999年に導入されたものですが、大きく異なる点があります。それは英国版ISAでは預金も非課税の対象であり、実際には預金型が大半を占めていることです。

 英国版ISAが少額預金・投資の優遇策なのに対し、日本版では預金がなく株式・投信だけで、証券業界に対する優遇策という面が鮮明です。これでは国民のためという大義名分が成り立ちません。今後、株取引の未経験者に対し、新たな非課税枠をネタにして証券会社の営業攻勢が始まると思われます。しかも非課税枠は1年毎に増えていきますから、業界は期待に胸をふくらませていることでしょう。

 経済が高度成長した時期は別ですが、株式投資はほぼゼロサムゲーム(総額が一定で誰かが得をすれば別の誰かが損をするゲーム)と考えてよいでしょう。この数ヶ月、株価が回復したといえ、1989年末の日経平均38915円の4割にも達していません。東証一部の時価総額でみても89年末の約590兆円に対し13年3月末には約360兆円に過ぎません。この間はゼロサムよりさらに不利なゲームであったわけです。

 この「実績」を反映するかのように、私の知人には株や投信で損をした人が目立ちます。最終的に得をした人はなく、数千万から数億円の評価損、確定損を抱えています。もともと働かずして儲けようという魂胆ですから同情に値するものではありませんが、本人達は悔しい思いをイヤと言うほど味わっています。

 最終的に得をする人が少ないのは、心理的に勝ち逃げが難しいことがあります。大損をして資金を失う、あるいはもう懲り懲りと、最終的に負けてから株の世界から足を洗うケースが多いわけです。もともと資金力や情報収集力、分析能力に優れた機関投資家と互角に勝負するのは困難です。

 余裕のある人が博打(バクチ)をするのはまあいいとしても、少額の余裕しかない人を国が積極的に博打に誘うのはどうかと思います。全体のパイが増えない限り、彼らの多くは損をし、また一部は泥沼にはまることでしょう。これは証券業界の、証券業界による、証券業界のための制度であると私には思えます。

 この少額投資非課税制度は自民党政権時の2009年に構想され、その後民主党政権に交代した後、2010年に法制化されました。2009年ならリーマンショック後の証券不況対策としてそれなりの意味があったと思いますが、株価が回復してきた現在、何をいまさらという観があります。民主党も自民党も証券業界にはお優しいようです。またほとんど報道や解説をしないマスコミの無関心さも気になるところです。

繁栄と少子化

2013-04-22 08:29:59 | マスメディア
 マット・リドレーの英米でのベストセラー、「繁栄」は交換と分業という概念を軸にして人類の文明史を説明したものです。そのなかでリドレーは1800年頃の西ヨーロッパかアメリカ東部の、ある一家の暮らしを次のように描いています(要旨)。

「一家は村でも豊かなほうだが、父親の聖書の朗読は気管支炎による咳でたびたび中断する。肺炎の予兆で、この病気のために、やがて彼は53歳で亡くなる。炉の薪から出る煙は病状を悪化させる一方だ(とはいえ、彼は幸運なほうだろう。イングランドでさえ1800年の平均寿命は40年に満たなかった)。赤ん坊は天然痘で亡くなる。今、この子が泣いているのも天然痘のせいなのだ。かたわらの姉はほどなく嫁ぎ、酔いどれの夫の財産となる。母親は激しい歯痛に苦しんでいる。上の姉は隣家の下宿人に干し草小屋で孕まされてしまい、生まれてくる子は孤児院送りになる。ロウソクは高価なので明かりといえば、燃える薪の放つ光くらいだ。家族の中で演劇を見たり、絵の具で絵を描いたり、ピアノの演奏を聞(原文のママ)いたりしたことのある者は1人もいない。娘はそれぞれウールの服を2着、亜麻布のシャツを2枚、靴を1足持っているだけだ。父親の上着を買うのにひと月分の賃金がかかったが、今ではシラミだらけになっている。子どもたちは床に置いた藁のマットレスの寝床に2人ずつ寝る」

 リドレーは、古きよき時代にバラ色のノスタルジアを抱く人々に対し、現実はそんな甘いものではないよと、また、現在あたりまえのものとして我々が享受している豊かな暮らしをありがたく思いなさい、と説いているように聞こえます。

 一方、ケインズはかつて「21世紀初めには週15時間程度働けばすむようになる」と言いました。技術進歩によって生産性が上り、より少ない労働時間で生活を維持できるようになるという予言なのですが、これは見事に外れました。生産性の上昇は労働時間の短縮には使われず、ほとんどが豊かさの増大に使われました。ケインズは生産性が上昇すれば欲望も際限なく増大することを予想できなかったようです。

 ともあれ生産性上昇と欲望増大の結果として現在の豊かな暮らしが実現しました。たしかに物質やサービスの豊かさは十分すぎるほどですが、その一方、子供を育てるという点に関しては以前より良くなったとは思えません。私は1945年の生まれですが、当時、子供の数は4~5人が普通であり、母親は家事育児の専業主婦、働き手は父親だけというケースが中心でした。ひとりの働き手が妻と数人の子供、それに祖父・祖母まで養うことは珍しくありませんでした。

 しかし現在は、多数の子供を育てるのは経済的に困難とされます。高い生産性が実現し、その上多くの母親までが働いているにもかかわらず、子供を多く育てることが経済的に困難であるとは、考えてみれば不思議な話です(生産性の上昇がもたらした果実の使い方の問題ですが)。

 生産性が格段に低かった半世紀前は現在よりずっと貧しい暮らしでしたが、子供を育てる能力においてはずいぶん余裕のある社会でした。現在の高い生産性のもとでは、昔のように一家の働き手が1人という形態はより普及すると考えられますが、これはケインズの労働時間の減少予想と同様、当たらない予測であるようです。消費の欲望の大きさを見誤った結果でしょうけれど。

 現在、政府はより高い経済成長を目指すため、女性労働力を活用する方向で検討中と伝えられています。これはより多く働き、より多く消費するという現在の方向を推し進めるものです。まあ経済成長も悪くありませんが、いつまでもその一点張りではちょっと知恵がなさすぎると思う次第です。

北朝鮮とかけて鳩山元首相と解く

2013-04-15 09:47:31 | マスメディア
 心は「何をしでかすかわからない」であります。両者とも合理的な思考では行動を予測することができません。部分的な合理性はあっても全体としての合理性がない(これってよくあることですね)。国民を餓死させてまでも軍事を優先させる国は既に我々の思考の域を超えています。

 マスコミは北朝鮮の脅しに大賑わいです。多くのコメンテーターが登場し、北朝鮮の挑発の狙いは米国を交渉のテーブルに引き出すことだ、などとまことしやかに語られますがどうもしっくりきません。理性で測れない国に対し、評論家連中が束になってもまともな予測は無理だろうと思われます。

 軍事学の入門書には国が戦争を始めるにはまず戦争計画に基づいて現役兵の数倍にもなる予備役の召集、動員、武器弾薬食糧など物資の集中などをしなければならないと書かれています。これらは大規模な動きを伴うもので、隠すのは困難です。こうした動きがない以上、北朝鮮がいま本気で陸戦を伴う戦争を始めようとしている可能性はごく小さいと一般的には考えられます。何をするかわからない相手なので断定はできませんが。

 あとは少数のミサイルがどこかへ飛んでくるか、ということですが、核を使わない限り大騒ぎするような大きい被害の出る可能性はほとんどないでしょう。被害に遭うとしても宝くじに当たるよりも低い確率だと思います。

 戦争が起きるという懸念が株式や為替市場にはあまり影響を与えている様子はありません。韓国の株価は低調ですが、これは円安の影響であるとされています。投資家の総意としては戦争をほとんど心配していないわけです。マスコミがそろって戦争を騒ぎ立てているのと対照的です。冷静さの点で、投資家はマスコミより数段上でしょう。マスコミ並みに冷静さを欠くような投資家は既に淘汰されている筈ですから。また戦争関連銘柄にも顕著な動きは見られません。

 北朝鮮の脅威を大袈裟に報道すれば視聴率がとれる反面、脅しがよく効いたと北朝鮮の戦略に自信を与えることになります。一方、近隣国による軍事的脅威が現実のものと映れば、集団自衛権の見直しや抑止力の増強、憲法改正問題に道を拓きます。いずれも左翼メディアの忌み嫌うところです。視聴率(利益)をとるか、それとも政治的主張をとるか、悩ましい二律背反です。

 しかし実績から推測すれば彼らは迷わず視聴率を優先するでしょう。看板の表側は政治重視、裏側は経済重視というわけです。

 北朝鮮と鳩山氏、どちらもあまりに「非凡」であり、普通人の頭では理解できかねる存在です。ならば北朝鮮の今後の行動を鳩山氏に予測をしてもらってはどうでしょうか。鳩山氏と北朝鮮は「非凡」同士、一脈、相通じるものがあるかもしれません。

メルトダウンは防げた?

2013-04-08 10:04:37 | マスメディア
 福島第一原発の事故についてはご丁寧にも国会事故調、政府事故調、東電事故調、民間事故調と4つの調査委員会があり、それぞれ報告書が出ています。4つも委員会を作ったのは「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる」ということでしょうか。まあそれはともかく3月10日に放送されたNHKの「メルトダウン原子炉冷却の死角」は事故直後の対応に焦点を当てたもので、それまでの疑問に応えるものでした。事故拡大の要因は多岐にわたりますが、これは見逃されていた重要な問題に光を当てた貴重なものと思われます。

 4つも調査委員会があるのになんでNHKが、という気がしますが、番組の制作者も4つの報告書をもの足りなく思っていたのでしょう。内容は原発運転の技術レベルの低さを示すもので、深刻です。番組は、上手く対応していればメルトダウンは避けられた可能性があるとして、2つの問題を指摘します。1号機の非常用冷却装置(アイソレーション・コンデンサー)が働いていると誤認したことと、3号機の外部注水で55%もの大量の漏れが後で見つかったことです。もし漏れが25%以内ならメルトダウンは避けられていたと計算されています。

 1号機は誤認のためにせっかく用意された冷却装置を使わないままメルトダウンに至ったわけですが、必要な基礎知識があれば避けられる可能性がありました。冷却装置は原子炉の熱を、外部タンクの水を加温・蒸発させることによって大気中に逃がす仕組みです。蒸気は建物に設けられた穴から出るのですが、停止から約2時間後、ここからモヤモヤと蒸気が出ていたのを見て冷却装置が働いていると判断したそうです。

 原子炉を停止すると核分裂反応は止まりますが放射性同位体の崩壊熱が残ります。崩壊熱は運転停止直後では運転時出力の7パーセント程度ですが、時間と共に急速に減少し、1時間後には2%弱、1日後には1%弱となります。1号の熱出力は138万kwなので、停止2時間後ならその1~2%の熱を逃す必要があります。仮に運転時が138万kw、崩壊熱がその1.5%とすると毎時33トンの水を蒸発させる必要があり、大量の蒸気が発生します。蒸気量は毎秒約15.6立方メートル(100℃)にもなるのでモヤモヤではなくモクモクです。

 事故後の東電の内部検証会議でもこのモヤモヤ蒸気の判断については人によって意見が分かれる状況だったといいます。ヤカンで水を沸かしているとき、モヤモヤと湯気が上っている状態を見て、これは下でガスが燃えていると判断するようなものです。モヤモヤは火が消えてからです。

 上記の計算は高校理科の知識で十分可能です。内部検証をまとめる東電の全体会議で、ある幹部が「自分達には基本的な技術力が不足していた」と発言していましたが、大いに「共感」致します。

 ルーティーンの仕事をマニュアル通りに進めていれば問題は起こらず、問題点が露呈することもありません。しかし想定されない事態が起きたとき、頼れるものは基本的な技術力と装置に関する理解です。3号機の冷却水漏れもポンプの構造を知っていれば避けられた可能性があります。

 4つの事故調が現場の対応や技術力に言及しなかったのは不可解ですが、もしかしたらあまりに初歩的なことなので隠したかったのかもしれません。数年前、原発反対運動の高まりを受けて原子力学科を志望する者が激減し、その結果、技術レベルの低下が起き、それが事故を招くかもしれないと書きましたが、それが現実になった観があります。非常に残念なことですが。

参考記事 原子力学科の学生数が十分の一以下に…反原発報道の大戦果?

司法制度改革審議会の罪状

2013-04-01 10:03:03 | マスメディア
 司法制度改革審議会が2001年に提出した法曹3000人計画はついに破綻が確定しました。朝日新聞は3月28日「法曹養成 破れた理想」という見出しを掲げましたが、破れたのは理想ではなく妄想というべきです。当時の合格者数から3倍、それ以前からは6倍という大幅な増員の根拠が薄弱であり、遠からず破綻を来たすことが予想できました。

 現実を理解しない人たちによって作られたこの計画は実施されてようやくそれが机上の空論、あるいは妄想であったと証明されました。このバカバカしい証明には10年を超す年月と多くの代償が必要となりました。

 「社会の隅々まで法の支配を」というのが理念であったのですが、日本が無法社会ならともかく、むしろ争いの少ない住みやすい社会であり、この理念は初めから見当違いです。彼らが目指したのは津々浦々まで弁護士や検事が配置され、社会の隅々まで法の支配が行き渡る社会、但木元検事総長が法化社会と呼ぶ社会です。ちょっとうがった見方をすると、これは法の支配の代行者である法曹の権力強化を狙ったものではないかという気がします。また法というものを過大な期待をもつ(あるいは崇める)一種の観念論の匂いもします。

 それはともかく、難関とされてきた司法試験でも合格者を一挙に何倍にもすれば質が低下するのは当然のことです。そして需要が急増する理由があるわけがないので就職難が起きることも容易に予想できます。にもかかわらず実行されたことで多くの代償を払うことになりました。

 チャンスとばかり、雨後の筍のように出現した74校もの法科大学院に高い授業料を払った卒業生のうち7割以上が不合格となり、数万人の若者の前途を狂わせることになりました。そして法科大学院自体も多くが絶滅の危機に瀕しています。

 最近の合格者は2000人前後ですが、それでも司法修習を終えた弁護士志望者の3割近い542人が弁護士登録をしていないそうです(昨年末)。深刻な就職難が現実のものとなり、合格者さえもその前途は不確かなものとなっています。

 弁護士の過剰は「新たな仕事の創造」を促します。消費者金融業者に対する過払い金返還請求は弁護士業界の特需となりましたが、請求を代行する一部の法律事務所が消費者金融業者と裏で結託し、返金額を減らして「効率的に和解」して双方が利益を得ていたという報道がありました。債務者だけがバカを見るというわけです。

 またブラック企業が話題になっていますが、その違法行為に手を貸すブラック士業と呼ばれる弁護士、社会保険労務士が存在するそうです。弁護士数の急増で仕事がないために違法行為に加担してしまうということです(文芸春秋4月号)。違法行為に加担という意味は実質的な違法行為を違法とならないようにする「専門的」な仕事のことでしょう。「法化社会」とはこのようなものであったのでしょうか。

 仕事がない連中が多く発生すれば、こうした新たな仕事の創造に向かうのは自然のことで、これは弁護士全体の信用を傷つけます。弁護士が信用できなければ恐ろしくて仕事など頼めません。

 このように罪深い法曹3000人計画ですが、誰も責任をとらず、釈明すらありません。司法制度改革審議会の会長であった佐藤幸治京大名誉教授のコメントが朝日に載っていますが、「法曹人口の大幅な増員やいまの養成制度は、グローバル化する世界で日本が地位を築くために必要だ」と、全く反省する様子が見られません。

 他にも副会長の竹下守夫一橋大学名誉教授、弁護士の中坊公平氏、作家の曽野綾子氏、日本労働組合総連合会副会長の木剛氏(いずれも当時)ら13名が審議会の委員として関わったのですが、誰ひとり結果に責任を負いません。審議会というのは重大なことを実質的に決めながらその責任はゼロという、実に便利な制度であります。

 猪瀬直樹氏は道路関係四公団民営化推進委員に就任の際、周囲から猛反対を受けました。審議会などにこのような骨のある人物が就任するのは例外で、通常は制御可能(コントローラブル)な人物が選ばれます。

 司法制度改革審議会を実質的に主導したのは学会・法曹界の偉いセンセイ方で、他は「広く意見を集めました」と申し訳するための人選と思われます。主導したセンセイ方からは、如何にしてこの迷惑な妄想が作られたか、改めてお聞ききしたいものです。

参考資料 司法制度改革審議会意見書(2001年6月12日)