噛みつき評論 ブログ版

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不適格首相の再発防止を

2012-11-26 10:10:36 | マスメディア
「小欄にご登場いただくたびにポイントがたまるとすれば、一等賞はこの人だろう。鳩山由紀夫元首相が政界を引退するという。ポイント還元セールではないが、今日ばかりは去りゆく常連さんにペンの切っ先が甘くなるのは仕方がない◆心の優しい人だとは思う。目の前にいる相手をとにかく喜ばせたい一心で、米大統領には『普天間』移設を約束し、沖縄県民には『県外』移設を約束する。どちらにも罪な嘘をついた形になり、日米関係はひび割れた◆稀有の人だとは思う。歴代首相のなかに、似たタイプの人はいない◆政府の反対を押し切り、百害あって一利なきイラン訪問で不評を買った。『首相』の務まらなかった人はいても『元首相』まで務まらなかった例をほかに知らない◆ ・・・・。」

 これは11月22日の読売「編集手帳」の最初の部分です。ペンの切っ先のどこが甘くなっているのかわかりませんが、「稀有の人」の描写にはしばらく笑いが止まりませんでした。

 さて、大きな事故や事件が起きたとき、責任者が謝罪と共に口にする決まり文句は「再発防止に努めます」であります。同じことが何度も起きては困るので、これは当然のことです。大きな損失が生じた大事故・事件であれば徹底的な原因究明が行われ、再発防止が図られます。

 首相の選任ということについても同様で、これから何人もの「稀有の人」が出てこられては困るわけですから、有効な再発防止策を講じる必要があります。「稀有の人」は首相個人の人物の問題として捉えられ勝ちですが、それを生み出したシステムの問題、構造の問題として捉える必要がありましょう。

 「稀有の人」はさほどの頻度で出現することはないとしても、准「稀有の人」級の人はかなりの頻度で出現しているからです。さらには東条英機のような超有害人物が選出される可能性もないとはいえません。

 それには、その人物が如何にして党内の支持を得て、選抜されたかという理由が明らかにされる必要があります。例えば、小遣いをもらったので反対できなかった、他に有能な人材が誰もいなかった、支持者全員の目が曇っていた、マスコミが祭り上げたために人気があった、あるいは組織上の理由などがある筈です。その後、不適格な大臣が多数輩出したところをみると人材説も有力な候補ですが、マスコミの関与も捨てられません。

 ともかく、ふさわしい人物を首相に選出するという政党の最も重要な機能が「完全に不完全」であったことは確かです。他の大事故・事件と同様、首をそろえて謝罪した上、第三者から成る調査委員会による原因究明調査をされては如何でしょうか。この「事件」は直接の死傷者こそないものの、国と国民が被った損失は計り知れないものであり、そして民主制度の根幹にもかかわることですから。

民主党政権へのレクイエム

2012-11-19 10:02:08 | マスメディア
「高速道路無料化」「消費税増税はしない」「ガソリン税暫定税率廃止」「16.8兆円の財源捻出」「最低でも県外」「私には腹案がある」「トラスト・ミー」「首相を辞めれば議員も辞める」・・・どれも守られなかった約束で、多重の嘘つきであったことになります。

 とりわけ鳩山先生のご活躍が目立ちますが、このような民主党の「伝統」が続くなか、野田首相が辛うじて嘘つきにならなかったことを喜びたいと思います。もし野田氏までが嘘つきになったなら政治に対する不信感はさらに深刻になっていたことでしょう。

 解散を歓迎する向きも多く、読売や毎日なども社説で解散を評価しています。嘘をつかないという一般社会ではあたりまえのことをしただけで賞賛される世界というのはなかなか羨ましいですね。これも政治への期待水準を大きく引き下げた鳩山氏らのご尽力のおかげです。

 各紙が解散を評価する中で、朝日だけは『「異常な選挙」の自覚もて』と題した社説で、今回の選挙は違憲状態の選挙であるとし、そんな政権は正統性を欠く、そう批判されても仕方がない、と述べています。解散のもつ大きい意味より違憲状態の選挙という小さな負の面の方に関心があるようです。まあ森を見るより木を、そして明るい面よりも暗い面ばかりを好む人もいらっしゃるわけですが。

 今回の解散には大義が見えないという意見がありますが、決してそうは思えません。無能さが明確になった政権が退場するというだけでも十分な大義があります。また国民に嘘をついて選ばれたという点で正統性の問題があります。政権の委任は国民との契約であり、そこに虚偽があれば契約の正統性が疑われます。一票の格差も正統性を疑う問題ですが、現実には虚偽契約の方がはるかに影響の大きい問題です。

 さて解散が決まってから民主党には離党者が相次ぎました。党の中核である鳩山氏まで離党を検討中と伝えられています。次の選挙では民主党の惨敗がほぼ確定したかのようですから、もっともなことと思われます。自らの生き残りをかけて、なりふりかまわぬ姿は逞しく生命力に溢れていますが、しかしその見苦しさは避けようがありません。

 民主党の中核的な理念は何であったか、今でも明確に思い浮かばず、バラマキが得意な政党という印象があるだけです。民主党は選挙に当選するための選挙互助会といわれていました。選挙に利用価値がないと思われれば蜘蛛の子を散らすように四散するのはごく当然の成行きです。おそらく1ヶ月もすれば民主党の惨めな姿を見ることになるでしょう。

 小選挙区制によって幸運な大勝利を得た政党が僅か3年余で、皮肉にもその小選挙区制によって惨敗を喫す、とてもドラマチックであり中選挙区制では望めないことです。この盛者必衰の模様をテレビで観戦する分には面白いのですが、ドラマチックとは不安定の別名であり、単純に喜んでよいことではありません。

 企業は人なり、と言われますが、政党は人なり、と言い換えてもよいと思います。技術や資産も重要な要素である企業に比べ、政党は人がすべてといってもよいほどで、これは3年余りの民主党政権を観察して実感したことであります。そして前回選挙で民主党を持ち上げたメディアの判断の誤り、識見の低さが明らかになりました。安易にメディアを信用してはいけないというのが今回の教訓であると言えましょう。

防衛力を削減せよと言う朝日新聞

2012-11-12 10:14:35 | マスメディア
 「環境変化に応じ防衛政策を見直すのはいいが、近隣諸国がどう受け止めるか、無用の摩擦を生み外交の妨げにならないか。とりわけ平和国家としてのブランド力を失うことにならないか。(中略)
 英国やドイツは国防予算の大幅カットや、兵員や装備の削減に踏み切ろうとしている。日本も人員縮小や給与体系などの見直しに踏み込んではどうか」

 これは2年前の2010年11月19日の朝日新聞の社説にある記述で、尖閣諸島での中国漁船衝突事件から約2ヵ月後、日中の緊張状態が続いていた時期のものです。形の上では「新防衛計画の大綱」に対する批判となっていますが、真の意図は防衛力の削減にあるようです。

 具体的に言うと、首相の諮問機関が提言した「部隊や装備の大きさよりも、即応力や機動力に重点を置く動的抑止という新たな考え方や、武器輸出三原則の緩和や沖縄周辺の離島防衛強化など」に対する反論と言えますが、とりわけ離島防衛がお気に召さないのでしょう。

 実は同月22日の拙稿でもこの社説に言いがかりをつけて、次にように書きました。

「19日の社説では英国やドイツを例にとり、日本の防衛力縮小を主張しています。しかし05年の国防費のGDP比は英国2.3%、ドイツ1.4%、フランス2.5%、米国4.0%などに比べ日本は最低水準の1.0%ですから、ベースがまったく異なります。軍事的脅威が減少している西欧諸国に対し、軍事力を急拡大させている中国や核兵器の配備を企む北朝鮮に隣接する日本とは環境が大きく異なります。これらの条件の差異を無視して防衛力の削減を主張するのは実に不誠実な態度です」

 不誠実な態度と書きましたが、いま思うと非常に危険な考えであると思われます。隣国との間で緊張が高まっているときに防衛力を削減して「仲直り」を目指すのもひとつの考えかもしれません。自から銃を捨て、戦う意思のないことを示すというわけです。

 しかしいいチャンスだとばかり撃ってくる相手もないとは限らないわけで、そうなれば戦争を誘発することになります。他国からの攻撃が絶対にないといえない限り、防衛力は軽視してはならないものです。戦争ともなればその被害は朝日の恐れる原発事故の比ではありません。

 将来、隣国にどんな性格の政権が生まれるかを確実に予測することは不可能です。アジア製のヒットラーが生まれないとは断言できません。そして一度防衛力を削減してしまえば短期間で復元することはできません。防衛力は万一の攻撃に備えるもので、たぶん攻撃されることはないだろうという楽観的な前提で防衛努力を放棄する国はないでしょう。

 周囲に領土的な野心をもつ国がない欧州諸国でも国防費のGDP比は日本よりかなり高いのはそれが必要という認識があるからです。領土的な野心をもって軍事力を増強している隣国があり、しかも話もまともに通じない国となると、リスクはずっと高いと見るべきでしょう。

 朝日は社説で防衛力の削減を主張しているわけですから、それは十分に検討された、新聞社としての総意であると考えられます。社説は2年前ですが「気が変わりました」とも聞かないので、現在も不変であると思われます。緊張状態における防衛力削減は国民を危険にさらす可能性が高く、その主張を生みだした異常な見識は問われるべきでしょう。

 非武装中立を目指す社民党と共通するところがありますが、こちらは支持率が1%にも満たない政党の主張であり、どこの世界でも人口の1%程度の変わり者がいるのは仕方がありません。しかし800万の販売数を誇る大新聞が変わり者の集まりであればその影響は大きく、困った問題であります(相手国にとっては実にありがたい存在なのですが)。

 朝日の主張は「東シナ海を友愛の海に」と唱えた鳩山氏にも通じています。その鳩山内閣は呆れられて自滅し、民主党自体も風前の灯となっていますが、この新聞社は健在です。ドジを踏めば政党は責任をとらされますが、メディアは国の方向を左右しても責任をとらなくて済む、まことに結構なお立場であります。

経済学と政治学の「効能」

2012-11-05 10:08:57 | マスメディア
 イタリアで地震予知に失敗した学者ら7人が6年の禁錮刑を受けるというニュースがありました。東日本大震災の時期も想定の数十倍という規模も全く予測できなかった日本の地震学者はさぞ肝を冷やしたことでしょう。イタリアの過激な判決の可否はともかく、地震学の有効性に厳しい目が注がれるようになりました。これを機会に世に存在する数多の「なんとか学」の有効性について考えてみるのもよいと思います。

 例えば新自由主義に染まった経済学。この30年間、新自由主義は社会に大きい影響を与えました。むろん功績もあったでしょうが、格差拡大や経済システムの不安定化という大きな問題を残しました。異論はあると思いますが、これを推し進めた経済学者たちの責任がないとは言えません。

 次は政治学ですが、政治学が得た知見によって日本の政治システムが改良され、政治がよくなったとは寡聞にして存じません。それどころか政治の劣化が目立ちます。素人の私でも知っているただひとつの成果は、政治学者たちの強い働きかけによって実現した小選挙区制が"あの"鳩山民主党政権を誕生させたことと、その小選挙区制が政治家の質の低下をもたらした可能性があるということだけです・・・失礼ながら。

 我々が地震学以外の自然科学、つまり物理、化学、生物学、医学などから計り知れない恩恵を受けてきたことを考えると、経済学や政治学の有効性に疑問を感じずにはいられません。むろんそれは扱う対象の違いによることはわかりますが。

 経済学と政治学を含む法学は文系の実学の中では代表的なもので、恐らく日本だけで毎年10万人を超える経済学や法学の学士様が誕生していると思われ、学者・教職員も多数に上ります。はたして経済学や法学には膨大な数の学生が学ぶだけの、そして多数の学者が研究するだけの価値があるのでしょうか。

 もしかすると経済学や法学の最大の存在理由は大学にあるのかもしれません。多数の大学の存立とその教職員の雇用のために大いに役立っていることだけは疑いのない事実であります。

 すべての学問が世の役に立たなければならないなどと言うつもりはありません。探求すること自体が楽しいものもあり、好奇心を満たしてくれるものも数多くあります。しかし実学である経済学や法学を楽しく学ぶ人は少数であると思われます。

 大学の数は800ほどもあるそうです。それぞれが特徴をだす必要があり、そのためにはなんとか学が多いほうがよろしいわけで、学士の種類は以前の29種類から580種類ほどにも増えたそうです。つまり、学問というものは何よりも大学のためにある、と言っても過言ではなさそうです(少なくとも文系に関しては)。

 まあ地震学者の言うことを信じた方も悪いわけですが、その背景には学問や専門家に対する過剰な期待・信頼があったように思います。地震学に限らす、信頼できない学問や専門家は決して少なくありません。そのような認識が広がれば大学への過大な期待も是正されることでしょう。

 メディアもこのように表現したらよいと思います。
「〇〇学の権威、□□教授は△△であると主張していますが、信頼できるとは限りません。各自で判断してください」