噛みつき評論 ブログ版

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軍事援助できる日本へ

2022-04-17 22:15:54 | マスメディア
 1755年11月1日、ポルトガルのリスボンで、巨大地震が発生した。死者は最大10万人に達したとも言われ、街は壊滅した。啓蒙思想家ヴォルテールはこの罪のない子供まで被災した惨状を見て、神が慈悲深いわけがないと主張した。神による無差別攻撃であり、慈悲深い神などいないというわけである。その後、神はいなくなったが、世界は幾多の戦乱を経験した結果、国連などの仕組みが秩序と安定をもたらしたと考えられてきた。

 その世界の秩序がロシアのウクライナ侵略と無差別攻撃によって破綻の危機を迎えた。いまどきスターリンやヒトラーのような独裁者が現れ、国家が組織的に集団殺戮をするような事態を世界は予想もしなかったが、今、現実となり、国連が全く役に立たないことも明らかになった。そしてあろうことか、プーチン率いるロシアは国連の安全保障理事会の常任理事国であり、世界秩序に責任を持つべき立場の国である。凶悪な暴力団に治安を頼んでいたようなものだ。

 ロシアの蛮行が成功すればそれは隣国の領土を奪うだけに終わらない。長年築き上げられてきた世界秩序の破壊であり、混乱の時代を迎えるかもしれない。西側諸国が強い反応を示したのは当然である。ドイツは当初ヘルメット5千個の供与でお茶を濁していたが、途中で方針を変え小型兵器の供与に応じた。さらにベーアボック外相は「ウクライナが軍需品をさらに必要としていることは明らかだ。とりわけ重火器だ」、「言い訳を探している場合ではない」と発言した。

 ベーアボック外相は緑の党の党首から外相になった人で、きれいな女性である。緑の党は環境問題が専門だから、その人と重火器とはしっくりこない。しかしベーアボック外相の発言の背景には正確な現状認識があるのだと思う。プーチンに勝たせないためにはあらゆることをしなければならないという認識である。環境問題よりずっと優先すべきことであると。実に賢い人だと思う。もし立憲民主党や社民党がウクライナへの重火器供与を言い出すことは考えられない。過去のボケた現状認識の誤りをどう説明するのだろうか。

 ロシアは秩序の破壊者であり、西側諸国はそれを防ぐために結束している。気の毒だが犠牲になっているのはウクライナである。西側諸国を結束させているのは秩序の破壊がどれだけ恐ろしいものであるかが分かっているからである。スウェーデンやフィンランドまでNATO加盟や軍事援助に向かっている。多くの国が軍事援助をする一方、破壊者の登場に対応して自国の防衛費を増加させている。ウクライナは韓国にまで「防空システムと航空機、戦車、装甲車両、ミサイル発射装置、弾薬が必要だ」と武器の供与を申し出ている。またウクライナ外相はこう発言した。「欲しいものは3つ、兵器、兵器、兵器」

 日本は大きな経済規模がありながら、「人道援助」が中心であり、軍事援助は一切ない。防弾チョッキが精一杯である。平和憲法を盾にして、いつまでもこんな綺麗事で通るだろうか。国によっては弁解にしか思わないだろう。こういう姿勢を恥ずかしくさえ思う。ことは急を要する。ロシアにウクライナ東部の占領を許せば世界秩序は危機に瀕する。憲法も大事であるが、国の危機より大事なわけはない。「国破れて憲法9条あり」では困るのである。

 その気になれば赤軍派のハイジャック事件のように「超法規的措置」もあるし、使途に制約をつけない資金援助もある。第三国に資金を渡し、それで兵器を供与してもらうこともできる。日本がそこまでやれば世界の結束をさらにロシアに示すことになろう。ウクライナの東部戦線はいま天王山であり、侵略者達を追い払うことがもっとも望ましい解決である。またウクライナの苦難を一日でも早く終わらせることも重要である。このまま人道援助だけで終われば、カネだけで済ませたイラクのクエート侵攻のときと同じ非難を浴びるかもしれない。

 日本周辺には台湾問題や尖閣問題がある。「天は自ら助くる者を助く」というが、戦争になったらあなたは戦うか、という問いに、戦うと答える者が世界最低の15%しかいない日本に他国が助けに来てくれるだろうか。ウクライナに軍事援助をせず、世界秩序が破壊され、やがて日本が侵略の危機を迎えたとき、どの国が親身になって軍事援助に応じてくれるであろうか。

世紀の危険人物

2022-04-03 23:18:48 | マスメディア
 病気を経験するまでは健康の有難さはわからない。健康を失うと、健康さえあれば何もいらないとまで思う。平和や自由も同じであろう。ひと月あまり前、マリウポリでは美しい街並みを散策する親子の姿は日常の風景であった。それがロシア軍によって建物は居住者ごと破壊され、廃墟のような街が残された。僅かな手荷物と子供たちを連れ、あるいは猫や犬を抱き避難した人々の姿は冷静には見られない。納得できるような理由などなく、理不尽という言葉では言い尽くせない。

 ロシアの蛮行をほとんどの人が予想できなかった。プーチンの行動は合理的に予想できないものであったからだろう。行動が合理的に予測できない人をかつては狂人と呼んだ。附属池田小事件の宅間守、京都アニメーション放火殺人事件の青葉真司、大阪心療内科クリニック放火事件の谷本盛雄らの犯行は常人の理解できるものではない。予測不可能であるから、未然に防止することは極めて困難である。もし彼らの凶器が刃物やガソリンでなく、核兵器であったらと思うとぞっとする。

 プーチンは頭がおかしくなっているとか言われているが本当のことはわからない。しかしウクライナ侵攻を見ていると、少なくとも正常な判断力を失っているように見える。民間人に対する無差別攻撃などの残虐性は西側諸国の団結を一層強め、孤立化を招くと思われ、合理性があるとは思えない。ロシア兵の残虐性には歴史的な定評があるのでプーチンひとりのためとは思えないが、世界中が注視する中でそんなことをやればどうなるかの予測はつくだろう。プーチンが命令しているのなら、彼はサイコパスのような、共感能力を欠いた人間かもしれない。

 ウクライナ危機は、プーチンのような独裁者がおかしくなったときには人類の存亡にかかわるような核戦争が起きる可能性のあることを示している。青葉真司や谷本盛雄らの行為と同様、理解できない行動の可能性がないとは言えない。

 西側諸国の団結の強さはロシアの蛮行と残虐性の反映と見られるが、多くの国が経済的不利益より制裁を優先したこと、ポーランドなど周辺国のウクライナ難民に対する協力姿勢が強く印象に残った。逆にロシアに対する制裁に消極的な国は中国や北朝鮮などの独裁国が目立つ。それぞれの国益があるのだろうが、それは西側諸国も同じである。独裁国は政治的な正当性や道義を気にする必要がないし、自由や民主主義を守る動機もないからであろう。

 社会は将来予想される危険に対してどれくらいの注意を払うべきだろうか。大雑把であるが、危険の重大性とその起きる確率を掛け合わせたものと考えてよい。例えば、四国の伊方原子力発電所は9万年前の阿蘇山噴火レベルの噴火があれば危険だとして運転差し止めの仮処分を認めた広島地裁の決定はあまりにも確率を高く評価している例である。民主主義の先進国は大統領などが単独で重大決定をしにくいため安定性が高く、核を保有していても大きな危険はない。しかし独裁国は文字通り独裁者の意志がそのまま通りやすいから極端な行動を起こしやすく、今回もプーチンが脅したように核使用の確率は比較的高い。

 運悪く、日本は核を保有する三つの独裁国家に囲まれている。これらの国の独裁者が一人でもおかしくなったとき、核攻撃する相手は日本のような核非保有国である可能性が高い。おかしくなってとしても反撃されるのは嫌だろうから。3ヵ国もあるのだからその確率は低くない。