噛みつき評論 ブログ版

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ポストトゥルース

2017-02-20 09:12:42 | マスメディア
 ポストトゥルースとは「ポスト真実」と訳され、客観的な事実が重視されない時代を意味するそうです。その結果、客観的な事実より感情的な判断が重視され、それに基づいた世論が形成されると言われています。近代の合理主義とは相容れないものですが、英のEU離脱やトランプ大統領の誕生などの現象の説明には有効であるように思います。

 客観的事実の軽視は言葉にウソがあってもそれほど批判されないことを意味します。トランプの言説にはウソが多く含まれていますが、それでも支持率がさほど低下しないという現象はそれを裏付けているようです。オルタナティブファクト(もう一つの事実)という言葉がトランプ側近によって使われていますが、客観的事実がいくつもあるわけがなく、嘘の別名に過ぎないでしょう。

 古今東西、ウソは非難されるべきものとされ、当然ながら嘘つき人間は信用を失います。しかしなぜ今回は大統領が嘘をついても寛容に受け止められるようになったのでしょうか。もう少し細かく見ると、大統領のウソに寛容なのはトランプ支持者だけであると推定できます。

 ここで疑問なのは、なぜ客観的事実を軽視するような人間が大量発生して大きな政治勢力を形成するようになったのか、ということです。むろん移民や難民がナショナリズムを刺激したことは大きい要素です。しかし私見ですが、これには既存メディアの影響力低下とネットの普及が強く関わっていると思います。

 既存メディア、例えば日本のテレビは視聴率を最重要、つまり金儲けを最優先してメディアとしての役割を優先せず、その結果アホな番組の大量生産をしてきました。しかし少なくとも報道番組では概ね事実を尊重し、建前としては社会正義の下に編集されて読者・視聴者に届けられました。つまりメディアは一種の情報フィルターの役割を果たしていました(フィルターの性能によっては問題がありますが)。そしてこのフィルターは概ね知的レベルの高い人々によって運営されてきました。

 それに対してSNSなどのネット世界では裏付けのないウソ話や本音むき出しの差別主義、利己主義が蔓延することを防ぐ手段がありませんでした。言わば床屋談義や井戸端会議レベルの情報が全体に影響するようになったと見ることができます。社会正義などによって排除されてきた差別主義などが自由なネット環境の中ですくすくと育ってきたと考えられます。

 もしこの推測が正しければ米国やヨーロッパで見られる社会の分断現象はこの先も続くであろうと思われます。多くの先進国では分断・混乱が起きていますが、幸いなことに日本ではそのような大きな混乱は見られません。その政治的安定は多くの支持を集められない無能野党のおかげであるともいえましょう。しかし将来、賢い野党が現れて、不満層を取り込んで社会の分断を目指す、そんな日がやってくるかもしれません。

トランプ騒動から見えるもの

2017-02-06 09:42:03 | マスメディア
 このところ、テレビニュースが面白くてたまりません。トランプ大統領は次にどんな非常識なことするだろうか、それに対して世界の国やメディアはどう反応するのだろうと、興味津々の毎日です。同時に、臨場感豊かに繰り返し放送されるテレビに対して、このような刺激的なニュースにおける新聞のメディアとしての無力さを感じます。

 トランプ大統領に関する批判はもう出尽くしている感があるので今さら言うこともありませんが、ただそれらの批判の多くはトランプ嫌いのメディアから流された情報がベースになっているものであることを意識しておく必要があるでしょう。バイアスがかかっている可能性があります。

  中東・アフリカの7カ国を対象にした入国禁止令には世界各国で反対のデモが起きました。このデモ風景では、参加者それぞれが手製と思われるプラカードを持っていたのが印象的でした。プラカードの形や表現は様々です。日本や韓国のデモによく見られる、全員が同じプラカードを掲げて行進するのとはかなり様相が異なります。

 欧米で見られるデモでは参加者が自発的に参加したように見られます。これに対して日本や韓国でよく見られるデモは裏に組織や団体などがあって、主としてそれらが動員したデモであるようです。見かけは同じでも日本のデモは野党や野党系の市民団体による計画的な示威運動という色合いが濃いわけです。デモの規模が一定以上にならず限定されたものになるのはそのような事情があるのでしょう。一般人をも参加させるほどのデモがないことは社会にひどい分断がないことを示しています。

 ツイッターとトランプとヒットラーを合わせてトランプ大統領をツイットラーと呼ぶそうです。ヒットラーを思わせるところもあり、なかなかうまい表現だと思いますが、なぜかあまり普及していません。しかしトランプ氏は偶然出現したわけでなく、ごく簡単に言うと非インテリ層とキリスト教信者によって選ばれたと言われています。日本の鳩山由紀夫元首相は前代未聞の人物でしたが、彼をもってしてもトランプ氏の足元にも及びません。

 西欧諸国では宗教の影響力が徐々に下がっているが、アメリカだけは宗教の影響力が強くなっているとリチャード・ドーキンスは著書で述べています。いまだに半数の学校で進化論を教えていない事実はそれを裏付けているようです。進化論を知らない、あるいは否定するキリスト教右派がトランプ誕生に力を貸したとされています。

 非インテリ層と宗教信者が多数を占め、彼らの選んだ人物が国を支配する、これは「正しい民主主義」の姿です。ポリティカル・コレクトネス、フランス革命以来の自由や平等の価値など、彼らにとってはどうでもいいのかもしれません。民主主義だからとあきらめるしかないのでしょうか。

 時代が逆行しているような印象がありますが、これは稀なことではありません。ギリシャ時代に栄えた科学がローマ以後、主としてキリスト教支配の影響によって千年もの長き後退に陥ったこともあります。トランプ政権の誕生には白人労働者層ばかりが注目されていますが、キリスト教信者も一役買っているというわけです。