噛みつき評論 ブログ版

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メタミドホス5倍は怖くない、トマトなら200倍でもOK・・・不安を煽る集中報道

2008-09-16 09:35:28 | Weblog
 三笠フードによる事故米転用事件によって、食に対する不安が広がっています。朝日は「給食米にメタミドホス」(9/13)などと連日一面トップで取り上げ、NHKも連日トップニュースで報じています。報道量の多さは問題が深刻であるとの印象を与え、その中の「現在のところ健康被害は報告されていません」という表現は健康被害の発生する可能性があるのだという認識を与えます。これでは不安が広がるのは当然です。

 メタミドホスが基準の5倍というだけで危険なものと受けとるのが一般的でしょう。しかしこれがどの程度危険なのかという点についての詳しい説明はありません。実は食品によってメタミドホスの基準値は大きく異なり、キャベツやレタスは米の100倍、トマトやピーマンでは200倍、セロリでは500倍となっています。

 具体的に言うと、米の基準値0.01ppmに対してバレイショは0.25ppm、トマト2.0ppm、セロリ5.0ppmとなっています(日本食品化学研究振興財団の農薬等の基準値表)。問題の米は0.05ppmが検出されたので5倍とされたのですが、なぜ米の基準値がこれほど厳しいのでしょうか。トマトと米では摂取量が違うというものの200倍の差は説明できません。その理由は06年に施行されたポジティブリスト制度にあります。

 ポジティブリストとは食品ごとに、適用される農薬の残留基準を定め、それ以外の農薬については一律に0.01ppmという基準を適用するものです。メタミドホスは米の栽培に適用されないので一律基準の0.01ppmとなります。従ってトマトでは2.0ppmでも安全とされるのに米ではその40分の1の0.05ppmで大騒ぎとなるわけです。

 つまり基準の5倍のメタミドホスを含む米を食べた場合と比べ、同じ量のトマトを食べた場合は最大で40倍のメタミドホスを摂取することになります。われわれは汚染米からよりずっと多くのメタミドホスを野菜や果物から日常的に摂取している可能性が十分あります。したがって米の5倍や2倍は決して不安を感じるようなレベルのものではなく、報道は極めて不適切です。近畿農政局は消費者相談窓口を近畿2府4県の農政局・農政事務所に設置し、不安に煽られた消費者の相談に追われています。無用の不安を煽るばかりで、同時に危険性の程度を明瞭に知らせない報道は、歪曲・虚偽報道と言っても過言ではありません。

 食品の偽装事件が誇大に報道された結果、食の不安が社会に広がりました。ひとつの指標に過ぎませんが、食中毒による死者は1955年の554人から減少傾向が続き70年には23人、ここ10年間はほぼ数人となっています。原因物質もほとんどが感染症とフグなどの動植物毒です。統計上からは安全性が低くなっているという事実は見あたりません。これは殺人事件などの凶悪犯罪が減っているにもかかわらず、報道によって増えていると感じている人が多いということによく似ています(参考記事)。

 われわれは食の不安が増大し、凶悪犯罪の不安に脅える暗い社会に住んでいる、というのがメディアが作り出したイメージですが、どちらも統計の事実と異なります。むしろ、より安全な社会に住んでいるという方が適切です。

 このような歪曲報道の結果、生じた社会不安は野党の政府に対する攻撃材料になりました(民主党鳩山氏の談話)。韓国のBSE騒動を生み出した歪曲・虚偽報道は政治的な意図が指摘されています。こちらは意図的かどうか知りませんが、不安の蔓延が政治的な不安定を促すという効果はあるでしょう。

 しかしこの歪曲報道の背後にある最も重要なことはメディアの認識能力の低さだと思われます。もし危険性の程度を理解していたならばこのようなレベルで大騒ぎし、社会に不安を与えることに良心の呵責を感じるでしょう。世の中には深刻に受けとる神経質な人もいるわけで、大きな不安を抱え込むことになり、大変不幸なことです。私の知る限りポジティブリストの基準値を解説したメディアはありません。認識能力に加え、勉強も不足ならちょっと救い難い話です。

 16日の報道ステーションでは加藤氏が、政府はなぜ汚染された米を輸入したのか、と憤っておられましたが、その理由は06年のポジティブリスト制が施行される前の輸入であったからです。やはりもう少しお勉強をお願いしたいですね。

 それに加え、事実を正確に伝えるという意識の低さ、報道の結果に対する責任感の薄さも気になるところです。読売、毎日、産経は購読していないので知りませんが、日本を代表するメディアである朝日とNHK(恐らくは他のメディアも)がそろって事実を正確に伝えることができないという事態を憂慮します。私にとっては食品よりも、犯罪よりも、このようなメディアが日本をリードすることが一番の「不安」であります。
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 虚偽または事実を歪曲した報道によって物質的・精神的な被害を被ったとして、韓国の視聴者は集団でテレビ局に対して損害賠償を訴えましたが(参考記事)、日本でも訴訟が起きれば、メディアも少しは慎重になるでしょう。