噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

大人の屁理屈

2018-01-28 23:21:28 | マスメディア
 朝日新聞に「異論のススメ」という月1回掲載されるコラムがある。筆者は佐伯啓思氏、保守の論客である。朝日には不似合いな人物であるが、保守の議論もちゃんと載せていますよ、というポーズ、あるいはアリバイとしての意味があるのだろう。しかし内容はまともで、納得できるものが多い。

 昨年の5月ごろ「平和まもるため戦わねば」という佐伯氏のコラムが載った。簡単に言うと、日本は北朝鮮やロシアとも平和条約を締結しておらず、中国との国交回復に際しては尖閣問題は棚上げされ、領土問題は確定していない。これらの諸国とは、厳密には、そして形式上はいまだに完全には戦争は終結していないことになる。そして朝鮮半島有事の可能性が現実味を帯びてきているときに、9条に自衛隊の合憲化を付加するだけでは十分でない。憲法前文には、日本国民は…平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してとあるが、もはや信頼しているわけにはいかなくなった。憲法は、国民の生命、財産などの基本的権利の保障をうたっているが、それらの安全を確保するにも自衛権が実効性を持たなければならない。つまり国防は憲法の前提になるわけで、憲法によって制約されるべきものではない。つまり平和を守るためには戦わなければならないこともある、といった趣旨である。

 難しいことを言わなくても他国の侵略を受けた場合、選択は二つしかない。降伏するか、反撃するかである。このコラムが載った後、同紙の「私の視点」という欄にある弁護士が反論を書いている。これが実にユニークな反論なので紹介したい。

 まずこの弁護士センセイは78年に結ばれた日中友好平和条約が結ばれ、日中間の戦争は終結していると述べている。これはその通りかもしれないが、佐伯氏の主旨からすれば些末な問題である。また、尖閣については平和を守るためにも、戦わなければならないという佐伯氏は、イギリスとアルゼンチンの間のフォークランド紛争のように戦争で決めるつもりだろうか、と述べ、日中双方に歴史的経緯のある尖閣問題の解決は「国際入会地(海)とする以外にない、とまで言う。フォークランド云々とあるが実力で奪われたものを実力で取り戻すのは当然だろう。国際入会地云々は中国寄りの現実性のない話である。竹島や千島を国際入会地にしましょうといって韓国やロシアが応じるだろうか。

 反論の中心であるべきものは佐伯氏が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼しているわけにはいかなくなった」と述べたことに対する反論である。一般に9条の会などの護憲勢力の主張は外国からの侵略がないということを前提にしている。この前提がないとこの議論が成立しないから、侵略がないということを示す必要がある。大変重要な論点であるが弁護士センセイの説明は次の通りである。

 憲法前文は諸国家でなく諸国民としていることに留意すべきだとし、国同士はどうあれ、民衆同士は戦争を望んでいない。国が、メディアが、反日、反中、反韓を煽らなければ、民衆同士は仲良くできる。外国人観光客の多さを見ればよい。このセンセイは国やメディアが煽らなければ戦争は起きないと主張されているのである。ずいぶんおめでたい方のようだが、もうこれは中学生レベルの議論であろう。もう少し歴史を勉強されたらよいと思う。戦争法案反対と騒いでいたシールズという学生団体の幹部は「中国が攻めてきたら僕らは中国兵士と友達になってうまくやる」と言っていた。とても大学生の発言とは思えないが、これとほぼ同レベルといってよい。

 このような反論を堂々と載せる朝日の見識にも疑問が生じる(これより優れた反論がないの?)。一般に9条に関する議論で気になることは護憲派と言われる人々が他国からの脅威、侵略の現実的な可能性に触れず、そんなことがないかの如く議論をしていることである。そんな夢のような前提では議論は決して噛み合わない。他国の侵略の可能性が少ないと思われても、ゼロでない限り備えるのが国の責務である。護憲派はゼロであると証明するか、現在の自衛隊で十分防げると証明する必要がある。まともな人にとっては無理な証明だと思うが。
コメント

有名人の欺瞞と無責任

2018-01-22 00:30:10 | マスメディア
 昨年の9月4日「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が結成された。結成の記者会見で強調されたのは「憲法改正の発議そのものをさせない世論をつくっていく」ことだという。これって憲法改正に対する国民の権利を奪うことにならないのか、という疑問が生じるが本題ではないのでこれは措く。

 この会の発起人は19名、下に記すがほぼ有名人ばかりである。カッコ内に生年月日を示すが超高齢者が目立つ。最高齢は1922年生まれの瀬戸内寂聴氏、もう少しで100歳である。一昔前の「九条の会」の呼びかけ人の平均年齢(結成時)は77歳なので似たような構成である。高齢は知的能力の低下をもたらす。似ているのは高齢ばかりではない。私の知る限り、九条の是非を問う団体に必要と思われる外交・防衛の専門家が一人もいないことも共通している。

 元祖「九条の会」のホームページは今も更新(更新日付が翌日になっていた)されているが、そこには「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」のことが一言も載っていない。同じようなものが二つもあるとややこしいと思うが、よくある仲間割れか、後ろ盾となる政治党派の対立による原水禁と原水協の分裂のように広言したくない事情があるのだろう。

 「いわゆる平和憲法だけで平和が保障されるなら、ついでに台風の襲来も、憲法で禁止しておいた方がよかったかも知れない」とは田中美知太郎氏の名言であるが、9条によって戦争を防ぐことができるか、は簡単な問題ではない。軍事的な空白域が戦争の誘因になることは明らかであるし、世界の大多数の国々は戦争を防ぐために抑止力(防衛力と報復攻撃能力)を重視してきた。9条によって平和を守るという方法はあまり例のない方法であり、失敗の危険が高いと思われる。したがってこれを主張するには十分な根拠が必要である。

 福祉予算の配分や地震対策の問題なら素人が賛否を言うのはいい。しかし9条の問題は戦争や国の存立にも関わる重大な問題である。9条の効果として、日本が戦争を仕掛ける危険を減らすことがあるが、逆に外国から仕掛けられる戦争を促進させる効果がある。高齢の作家や作詞家、宗教家、憲法学者、病院長などが外交・防衛問題について的確な判断が出来るだけの見識があるとは考えにくい。外交・防衛の素人ばかりが集まって、根拠もないのに9条があれば平和が保たれると断定・主張することはまことに無責任である。

 「流言は知者に止(とど)まる」という言葉がある。知者は根拠のない言説、怪しい話を聞いても他へ伝えないという意味である。別の言い方をすると「流言は愚者によって広められる」ということになる。「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」では9条の是非に関する判断能力のない人たちがどこかで聞いた話を自分で考えもせず声高に叫んでいるというわけである。有名人だけに広める効果は何百倍、何千倍もあるだろう。無責任さも何百倍、何千倍である。

 彼らの主張が正しいか、間違っているかはすぐにはわからない。それは恐らく何年も先になるだろう。多分その時、彼らの多くはこの世にいない。無責任さは完璧に全うできるというわけである。ただ、間違っていた場合、残された若い世代はたまったものではない。外交・防衛の十分な知識なしに広告塔になる行為はまことに軽率である。

 しかし彼ら有名人は広告塔に利用されているだけとも言える。彼らは流言を広めているが、彼らもまた信じ込まされているわけである。欺瞞を右から左へ流しているだけである。もっとも性質(たち)が悪いのはこの会を裏で仕組んだ連中、或いは組織であろう。健康食品の宣伝のように、見識のない有名人を利用して、根拠を示すのでなく感情に訴える方法には国民の判断力をバカにしている気持ちが感じられる。

 発起人は以下の通り(敬称略) ()内は職業・生年

有馬頼底(臨済宗相国寺派管長1933)、内田樹(神戸女学院大学名誉教授1950)、梅原猛(哲学者1925)、落合恵子(作家1945)、鎌田慧(ルポライター1938)、鎌田實(諏訪中央病院名誉院長1948)、香山リカ(精神科医1960)、佐高信(ジャーナリスト1945)、澤地久枝(作家1930)、杉原泰雄(一橋大学名誉教授1930)、瀬戸内寂聴(作家1922)、田中優子(法政大学教授・週刊金曜日編集委員1952)、田原総一朗(ジャーナリスト1934)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授1928)、なかにし礼(作家・作詞家1938)、浜矩子(同志社大学教授1952)、樋口陽一(東北大学・東京大学名誉教授1934)、益川敏英(京都大学名誉教授1940)、森村誠一(作家1933)
コメント

異文化の国

2018-01-14 23:44:07 | マスメディア
 「左(さ)れば斯る国人に対して如何なる約束を結ぶも、背信違約は彼等の持前にして毫(ごう)も意に介することなし」

「脱亜論」から10年余り、福沢諭吉が朝鮮に対して述べた言葉だという。これは11日付の産経抄に紹介されたもので、むろんこれは2016年の日韓の慰安婦合意では慰安婦問題を解決できないとした韓国政府に関しての引用である。明治の初期、朝鮮に強い関心を持っていた福沢がこのような見解を既に持っていたことは興味深い。これが信頼できるとすれば、韓国や北朝鮮における背信違約は昔からの伝統文化であり、両国と信頼関係を結ぶことが大変困難だということになる。

 文在寅大統領はそもそも慰安婦合意を再交渉することを掲げて大統領になった人物である。彼を民主的に選んだのは外国との約束を反故にすることを求めた人たちである。合意の破棄や再交渉は民意でもあるわけだ。約束を大切にしない風潮は多くの国民に共有されているようである。これは文化の違いとしか言いようがない。

 もっとも韓国では批判的なメディアもあり、保守系紙は文政権の対応を「合意を引っかき回し、元慰安婦と日本の不満ばかり増幅させた」、「日本の感情は悪化し、韓日関係は最悪になった」などと批判したそうである。

 日本にとっては従来からゴールポストを移動され続けてきた不満があり、「最終的かつ不可逆的」という文言はもう二度と繰り返したくないという気持ちが表われていたわけである。それをまたひっくり返そうという韓国の態度には日本のメディアもあきれたといった反応が多い。

 ただ朝日は少し違うようだ。10日の社説で、「理解に苦しむ表明である」「これでは合意が意味を失ってしまう恐れが強い」と批判しながらも、日本側も「1ミリたりとも合意を動かす考えはない」と硬直姿勢をとるのは建設的ではないと批判している。さらに「韓国側から言われるまでもなく、合意を守るためにその範囲内でできる前向きな選択肢を考えるのは当然だ」と日本側に合意以上の謝罪などの行動を求めている。合意を尊重せず、合意以上を求める点で韓国の主張と一致する。

 ゴールポストが何度も動かされてきた原因はこうした日本側の甘い対応が一因であると思われる。慰安婦問題に火をつけた朝日がなぜこのような優しい姿勢をとるのだろうか。日本の利益より韓国の利益を大事にしているように見える。朝日は慰安婦虚偽報道で、(仕方なく)国内向けには謝罪と訂正をしたが、世界に向けて訂正はしていない。ちゃんと謝罪・訂正をしていれば世界各地の慰安婦像の建設にも影響を与えていたかもしれない。韓国への暖かい配慮には感動する次第である。
コメント

鷲とライオン

2018-01-08 00:13:59 | マスメディア
 年末から正月にかけて、テレビはお笑い芸人の天下となる。どこの局も同じように見える。細かく見ると違うのだろうが、私にはわからない。その中で1日の朝、NHKのBS1が放送したドキュメンタリー「鷲とライオン」は大変優れたものであったのでつい紹介したくなった。昨年の6月頃から放送されものの再放送のようだ。制作は残念ながらNHKではなくフランスのRoche Productions、2016年の作品である。「鷲とライオン」の全後編、「アフターヒトラー」の前後編、それぞれ45分のものが合計4篇である。モノクロ映像の多くがカラー化されている。現在はユーチューブで見ることができる。

 「鷲とライオン」はヒトラーとチャーチルの対決を軸に欧州での戦争を描いたもので、「アフターヒトラー」は戦後の凄まじい混乱を描いている。ヒトラーのもたらした惨禍は想像を絶するもので、欧州での死者は4000万人とされる。腕利きの悪魔でもここまではできないと思う。ドイツ人の死者だけでも600万人、日本の310万人の2倍近い。当時の人口は日独ほぼ同規模なので、ドイツの惨状にも驚く。日本には何故あれほどひどく負けるまで戦争を継続したのか、という意見があるが、ドイツよりマシである。

 また日本軍の悪行についてはいろいろな機会で教えられてきたが、ナチスの蛮行には遠く及ばない。またソ連の赤軍も負けていない。ベルリンを占領して200万人を強姦したと番組では説明されるが、この数値には終戦時の人口280万人からしても誇張があるように思う。南京事件と同様、立場によって数値は変わる。正確な数はわからないからどうにでも言えるわけである。

 戦争終結までは描いたドキュメンタリーは多いが「アフターヒトラー」では戦後の大混乱にも目を向けている。欧州各地でドイツ人が集団で虐殺された例、何故かユダヤ人がまたも迫害を受けたことが描かれている。食料などの物資不足、故国に帰ろうとする膨大な人々の移動、混乱を極める様子がわかる。国と国、民族と民族の対立、憎しみ、無秩序が想像もできない惨禍を引き起こす。

 第二次大戦が起きた要因はいろいろとあるだろう。しかしヒトラーという特異な人物なしではこのような戦争は起こっていなかっただろうと思われる。条件が揃えば個人の力が歴史を動かすことがあるわけである。

 1938年9月のミュンヘン会議では、チェコスロバキアのズデーテン地方の帰属を要求したヒトラーの要求を英仏が受け入れた。ミュンヘン協定は英首相チェンバレンの宥和政策の失敗として有名だが、ヒトラーは数カ月後に協定を破った。宥和政策によって僅かな期間の平和を得たが、第二次世界大戦の原因のひとつになったとされている。ヒトラーによって騙されたのである。ヒトラーは初めから約束を守る気などなく、時間稼ぎに使ったのだろう。

 歴史は繰り返す、という。とは言っても当たるとは限らない。しかしいま直面している北朝鮮の脅威はミュンヘン会談の状況と少し似ている。北朝鮮は軍事力の増強を最優先し、支配しているのは平気で約束を破る人物である。対話ができるのかさえ、疑わしい。異常な人物が支配する全体主義の国は大変危険である。

 このドキュメンタリーは戦争のもたらす惨禍を説得力豊かに描いている。誰もが戦争はこりごりだと思うだろう。優れた反戦ドキュメンタリーでもある。その後、まもなく欧州はソ連の脅威に直面する。二度までも全体主義国の脅威に向かうことになる。そしてソ連の脅威に対しては北大西洋条約機構(NATO)を結び、集団的安全保障で対抗することになる。だが欧州で、平和憲法を掲げたら戦争は起こらないという楽観的な国は見あたらない。

 この優れたドキュメンタリーがNHKのBSで放送されたことは残念である。地上波ならもっと見られたに違いない。BSの影響力は小さく、ユーチューブの視聴回数も500を超えていない。NHKが民放の真似をしてお笑い番組を流す必要はないと思うが。
コメント