日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「家政婦のミタ」と大王製紙事件、オリンパス事件との意外な関係

2011-12-09 | 経営
「家政婦のミタ」というドラマが高視聴率を稼いでいるといいます。家内が録画をしていたので、私も何度か見てみたのですが実に不思議なドラマで、この人気の秘密は一体なんなのだろうと考えています。

主人公のミタは松嶋菜々子演ずる、決して笑わない家政婦。基本的に、雇い主からの命令は断らずに「承知しました」と返事をしてすべて行動に移す。コンプライアンス違反と思しき命令には必ず、「それは業務命令でしょうか?」と尋ね、「そうだ」との返答が返ってくれば「承知しました」とロボットのように答え行動する。その命令が暴力であったり、心中であったり、果ては殺人であったりしても「業務命令」であるなら実行に移す。そして大抵は、行動に起こしながらも寸でのところで雇い主から「やっぱりヤメ」の命令が出されて事なきを得る、というストーリー展開のようです。

最近のガバナンス不全の企業事件実行社員を見るかのような、主人公のキャラクター設定ではないでしょうか。オリンパスも大王製紙も、トップから「飛ばしをして損失を隠蔽しろ!」「俺の口座に金を振り込め!」と言われた部下は、「承知しました」と行動に移し企業を誤った方向に進ませる実行部隊として動いてしまった訳です。「家政婦のミタ」の放映が始まったのが、10月上旬。大王製紙の事件が発覚したのが、9月半ばの会長の辞任発表。オリンパス事件はウッドフォード前社長の解任が発表された10月上旬です。いずれも、実行者の「承知しました」が傷を深くしたことが分かったのは、ドラマの放映開始後です。

主人公ミタの言動から、上司からの命令に対して「イエス」と言わざるを得ないサラリーマン社会の悲しい性(さが)がなんとなく連想される部分であり、ドラマの放映時間が22時からと比較的遅い時間帯であることも考え合わせれば、帰宅後の男性サラリーマンも番組にはまったのではないかという点は番組人気に少なからず影響しているように思えます。そして、あまりにタイミングのよい大王製紙、オリンパスの両事件の報道が番組人気に拍車をかけた・・・、というのは少し勝手な想像が過ぎるでしょうか。私には、なんとなくそんな気がしているのです。

ならば、この手の企業事件再発防止への番組からの警鐘はないだろうかと考えました。あるとするなら、「それってコンプライアンス違反じゃないの?」と思われる上司からの指示命令を受けた時には、「家政婦のミタ」よろしく「承知しました」と言う前に必ず「それは業務命令でしょうか?」と聞き返すことかなと。悪事指令に対する「それは業務命令でしょうか?」との聞き返しは、トップや上司の悪い企みに対して口にしにくい反対姿勢を示すことなく命令者を一瞬我に返らせ、「やっぱり、やめようか」という思い直しを呼び起こす重要な手立てでしょうから。この絶妙な詞回しこそが番組人気の秘密なのかなと思えました。

オリンパス事件調査報告とサラリーマンの「勇気」今昔模様

2011-12-07 | 経営
オリンパスの巨額損失隠し事件で、第三者委員会が調査報告書を発表しました。
◆ロイターによる報告骨子
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTJE7B500C20111206

問題の焦点は、当然“飛ばし”のスキームではなく管理の実態。98年当時に飛ばしを主導した幹部をその後重用し、トップとごく一部の経営幹部で問題をひたすら隠蔽し続けてきたといいます。その“飛ばし”主導の幹部は事件発覚時に一人が副支社長、もう一人が常勤監査役であった訳で、トップ了解の下この二人が隠ぺい役を務めてきたという、まさしくガバナンス不全の管理体制を絵に描いたような状況であったのです。

報告書はこの隠ぺいを堅持できた管理実態を称して「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成」と表現し、「トップがワンマン体制を敷き、異論を唱えるのがはばかられる雰囲気が醸成されていた」と、その原因に言及しています。大王製紙のトップによる特別背任事件も構図は全く同じですが、この種の企業事件の根底には「悪事を悪事として進言できない、日本のサラリーマン体質」が根深く横たわっているように思います。

オーナー会社は言うに及ばずサラリーマントップの企業においても、代表取締役が前任の指名を受け形式互選で“選出”され、取締役は基本的にトップの指名。監査役までもが実質同じ方式で選任され、取締役の延長のような位置付けて末席に名を連ねる・・・。古くから日本企業はこのような体制で企業運営をしてきました。もちろん、バブル崩壊後グローバルスタンダードの旗印の下、大企業に対する数々の新たな約束事の縛りが施され、コンプライアンス、ガバナンス等の考え方が表面上は浸透したかのように見えていたのですが、実態は大きくは変わっていなかった、この事件からはそんな印象を強く持たされます。

言ってみれば、形式がいくら整っていても「トップや前任が登用を指名する方式では、指名された者はその指名者に恩義を感じて逆らえない」「逆らえば自分のクビが危ない」という、江戸時代で言うなら「謀反」にあたるものは道を外れるかのような理解があり、「企業の正義」よりも「個人的な恩義」を優先してしまう日本的モノの考え方があるのではないかと思います(実際に、「恩義」で判断しなかった英国人ウッドフォード前社長はクビになりました)。このような文化は多かれ少なかれどの日本企業にも未だに存在するでしょう。もちろん、この日本的文化は良い面もあり全否定するつもりはありませんが、上司だけでなく株主や市場からの信頼をも考えバランスのとれた正しい判断こそが、企業経営者はじめ経営を担う人たちには求められていると思います。

ちょうどオリンパス事件の発端となった後の「常勤監査役-副社長ライン」による財テク運用の始まりが、プラザ合意後の80年代後半といいます。この時期に流行したCMソングに「リゲイン~勇気のしるし」というのがありました。「♪24時間戦えますか?ビジネスマ~ン、ビジネスマ~ン、ジャパニーズ・ビジネスマ~ン!」という、組織に絶対服従の「戦う企業戦士」を歌ったものです。このCMシリーズでは時任三郎演じるサラリーマンが、「会社=上司のために24時間戦う“勇気”」をあるべき企業戦士の姿としてカッコ良く描かれていましたが、20余年の時を経てサラリーマンは別の「勇気」を持つべき時代が来たのでしょう。

調査報告書にある「悪い意味でのサラリーマン根性」とはまさに古い意味での「勇気」であり、これを捨てて今の時代の「勇気」を持つべきであると報告書は社会に訴えているように思えます。大企業を中心とした多くの企業とそこで働く企業戦士たちにとって、オリンパスの事件は自社や自己に無縁な“彼岸の火事”ではなく、自社や自己の「勇気」を省みる“他山の石”なのだと思います。

大物アーティスト来日で得する人、損する人

2011-12-01 | ビジネス
70年代洋楽の人気アーティストであるエアロスミスが現在来日中。エリック・クラプトンも同時期に日本国内を回っているようです。60代半ばを過ぎて、日本で言えば“年金世代”ですから、「頑張っているなぁ」と感心しきりではあります。

エアロスミスに限らずですが、ここ最近70年代の大物アーティストが老骨に鞭打ちワールドツアーを組んで日本にもやってくるケースが増えているように思います。理由のひとつとして言われているのは、CDの売上不振。過去何十年にもわたって彼らアーティストの基本収入は、楽曲販売による印税収入でありました。それが、彼ら自身の老齢化による作品発表サイクルの長期化やリリースはしても新作売上の伸び悩みなどがあり、その収入は減少。加えCDからデータダウンロードへの移行による売上構造の変化も大きく影響をしているようです。

データダウンロードの影響をもう少し詳しく書くと、何と言っても購入パターンのアルバム単位から楽曲単位への移行があります。CD時代はアルバムがリリースされれば、アルバム単位で買うしかありませんでしたし、シングルで言うなら欲しいと思っていないカップリング曲まで同時に買わされていた訳です。当然、著作権料は1曲単位で発生する訳ですから、アーティストにとってはおいしい部分でもあったのかなと。それが、データダウンロード化の進展で、欲しい曲だけを安価にダウンロードできるという購買パターンが主流になってしまった訳で、これはけっこうな打撃になっているは確かなようです。

そこで所得減少のアーティストたちが(と言っても我々とはケタが違う世界ですが)、ツアーに出て現金収入を得ようと考えるのは当然の流れでもある訳です。加えて付随収入であるアーティスト・グッズ販売もバカにならないようです。確かに、エアロスミスで言うなら飛ぶように売れているツアーパンフ2500円(原稿なし、既存写真組み合わせ)は原価いくらよって感じですし、バンドロゴの缶バッジなんていうのもあって、これは原価なんてタダみたいなもの。普通なら100円もしないところがライブ会場のグッズコーナーでは500円!あまりにボロすぎるなと。自らも「記念に」と言い聞かせつつパンフは買ってはしまう訳で、5万人近くが入る会場で一体なんぼの売上になるのでしょうか。

エアロの場合で全公演の総動員数を少なく見積もって15万人。その3分の1がパンフを買ったとして5万人。ちなみに会場外にもライブ会場に入らなくとも買えるグッズ売り場が設営されていて、ここだけ目当てで来る人たちもけっこういるので、若干加えて6万人。パンフだけで、数日間の売上で1億5千万円!営業利益ベースでも相当な金額が入るわけでしょう(この世界の販管費構成がどうなっているのか詳しく知りませんので、具体的に数字は省略)。あくまでパンフだけでこれ。その他4500円~のTシャツやら1500円のバンダナやら多数のラインアップですから、売上で軽くこの2倍~3倍はあると思います。付随収入でこれですから、アーティストにとってツアーはおいしい訳です。

さて、海外大物アーティストの日本ツアーが増えているもう一つの大きな理由が、昨今の円高です。アーティストのギャラは基本的にドルで支払われる訳ですから、1ドル=70円代後半が定着しつつある現状は我々日本人にとってはとってもオイシイ状況である訳です。ただちょっと待って下さいよ。その円高メリット誰が享受しているのかです。ちなみに円=ドルですが、04年がだいたい1平均で105円台前後に対して今年が安めに見ても80円前後。単純に考えて30%以上も円高になっているのです。

しかし!チケット代金の推移を見ると、エアロスミスの場合前回の04年が東京ドームS席9000円に対して今回同じドームで10500円也。約16%アップ!うん?円高メリットどころか逆行してませんこれ?念のために、同じく04年以来7年ぶりで3月に来日したイーグルスを見てみると、前回がS席9800円で今回が12000円也。こちらは約22%の価格上昇です。この時代の円高メリットを誰が享受しているのかの「答え」は、呼び屋さんなのでした。すべてが呼び屋さんの利益であるかどうかは別としても、単純計算で前回比チケット単価で+15%、円高でギャラの支払いは△30%(アーティストへのドルベース支払いが変わっていないと言うのが前提)、かなりの利益増かなと思いますがいかがでしょう。

円高で大物アーティストがたくさん見れるようになって得したような気になっている音楽ファンは、実は円高メリットすら全然享受できず、7年も前に自分が払ったチケット代なども忘れて高い金額を「こんなもんかな」と無意識に支払っている。しかも、原価いくらでもないパンフレットを「記念に」と称して高い金額で買ってしまっている。「ああ、なんてバカなんだ」と、自虐的に思う訳です。まぁでも仕方ない、それでも本物を生で見たい聞きたいのが音楽ファンの性(さが)と言うものですから。

でも呼び屋さん、確かにリスクの大きいビジネスですし「チケット代値上げ+円高増収分」すべてが御社の増収とは思いませんが、少しは一般消費者に対して還元もらわないとやっぱり景気は良くならないと思いますが、いかがなもんでしょうか。