「家政婦のミタ」というドラマが高視聴率を稼いでいるといいます。家内が録画をしていたので、私も何度か見てみたのですが実に不思議なドラマで、この人気の秘密は一体なんなのだろうと考えています。
主人公のミタは松嶋菜々子演ずる、決して笑わない家政婦。基本的に、雇い主からの命令は断らずに「承知しました」と返事をしてすべて行動に移す。コンプライアンス違反と思しき命令には必ず、「それは業務命令でしょうか?」と尋ね、「そうだ」との返答が返ってくれば「承知しました」とロボットのように答え行動する。その命令が暴力であったり、心中であったり、果ては殺人であったりしても「業務命令」であるなら実行に移す。そして大抵は、行動に起こしながらも寸でのところで雇い主から「やっぱりヤメ」の命令が出されて事なきを得る、というストーリー展開のようです。
最近のガバナンス不全の企業事件実行社員を見るかのような、主人公のキャラクター設定ではないでしょうか。オリンパスも大王製紙も、トップから「飛ばしをして損失を隠蔽しろ!」「俺の口座に金を振り込め!」と言われた部下は、「承知しました」と行動に移し企業を誤った方向に進ませる実行部隊として動いてしまった訳です。「家政婦のミタ」の放映が始まったのが、10月上旬。大王製紙の事件が発覚したのが、9月半ばの会長の辞任発表。オリンパス事件はウッドフォード前社長の解任が発表された10月上旬です。いずれも、実行者の「承知しました」が傷を深くしたことが分かったのは、ドラマの放映開始後です。
主人公ミタの言動から、上司からの命令に対して「イエス」と言わざるを得ないサラリーマン社会の悲しい性(さが)がなんとなく連想される部分であり、ドラマの放映時間が22時からと比較的遅い時間帯であることも考え合わせれば、帰宅後の男性サラリーマンも番組にはまったのではないかという点は番組人気に少なからず影響しているように思えます。そして、あまりにタイミングのよい大王製紙、オリンパスの両事件の報道が番組人気に拍車をかけた・・・、というのは少し勝手な想像が過ぎるでしょうか。私には、なんとなくそんな気がしているのです。
ならば、この手の企業事件再発防止への番組からの警鐘はないだろうかと考えました。あるとするなら、「それってコンプライアンス違反じゃないの?」と思われる上司からの指示命令を受けた時には、「家政婦のミタ」よろしく「承知しました」と言う前に必ず「それは業務命令でしょうか?」と聞き返すことかなと。悪事指令に対する「それは業務命令でしょうか?」との聞き返しは、トップや上司の悪い企みに対して口にしにくい反対姿勢を示すことなく命令者を一瞬我に返らせ、「やっぱり、やめようか」という思い直しを呼び起こす重要な手立てでしょうから。この絶妙な詞回しこそが番組人気の秘密なのかなと思えました。