日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

大物アーティスト来日で得する人、損する人

2011-12-01 | ビジネス
70年代洋楽の人気アーティストであるエアロスミスが現在来日中。エリック・クラプトンも同時期に日本国内を回っているようです。60代半ばを過ぎて、日本で言えば“年金世代”ですから、「頑張っているなぁ」と感心しきりではあります。

エアロスミスに限らずですが、ここ最近70年代の大物アーティストが老骨に鞭打ちワールドツアーを組んで日本にもやってくるケースが増えているように思います。理由のひとつとして言われているのは、CDの売上不振。過去何十年にもわたって彼らアーティストの基本収入は、楽曲販売による印税収入でありました。それが、彼ら自身の老齢化による作品発表サイクルの長期化やリリースはしても新作売上の伸び悩みなどがあり、その収入は減少。加えCDからデータダウンロードへの移行による売上構造の変化も大きく影響をしているようです。

データダウンロードの影響をもう少し詳しく書くと、何と言っても購入パターンのアルバム単位から楽曲単位への移行があります。CD時代はアルバムがリリースされれば、アルバム単位で買うしかありませんでしたし、シングルで言うなら欲しいと思っていないカップリング曲まで同時に買わされていた訳です。当然、著作権料は1曲単位で発生する訳ですから、アーティストにとってはおいしい部分でもあったのかなと。それが、データダウンロード化の進展で、欲しい曲だけを安価にダウンロードできるという購買パターンが主流になってしまった訳で、これはけっこうな打撃になっているは確かなようです。

そこで所得減少のアーティストたちが(と言っても我々とはケタが違う世界ですが)、ツアーに出て現金収入を得ようと考えるのは当然の流れでもある訳です。加えて付随収入であるアーティスト・グッズ販売もバカにならないようです。確かに、エアロスミスで言うなら飛ぶように売れているツアーパンフ2500円(原稿なし、既存写真組み合わせ)は原価いくらよって感じですし、バンドロゴの缶バッジなんていうのもあって、これは原価なんてタダみたいなもの。普通なら100円もしないところがライブ会場のグッズコーナーでは500円!あまりにボロすぎるなと。自らも「記念に」と言い聞かせつつパンフは買ってはしまう訳で、5万人近くが入る会場で一体なんぼの売上になるのでしょうか。

エアロの場合で全公演の総動員数を少なく見積もって15万人。その3分の1がパンフを買ったとして5万人。ちなみに会場外にもライブ会場に入らなくとも買えるグッズ売り場が設営されていて、ここだけ目当てで来る人たちもけっこういるので、若干加えて6万人。パンフだけで、数日間の売上で1億5千万円!営業利益ベースでも相当な金額が入るわけでしょう(この世界の販管費構成がどうなっているのか詳しく知りませんので、具体的に数字は省略)。あくまでパンフだけでこれ。その他4500円~のTシャツやら1500円のバンダナやら多数のラインアップですから、売上で軽くこの2倍~3倍はあると思います。付随収入でこれですから、アーティストにとってツアーはおいしい訳です。

さて、海外大物アーティストの日本ツアーが増えているもう一つの大きな理由が、昨今の円高です。アーティストのギャラは基本的にドルで支払われる訳ですから、1ドル=70円代後半が定着しつつある現状は我々日本人にとってはとってもオイシイ状況である訳です。ただちょっと待って下さいよ。その円高メリット誰が享受しているのかです。ちなみに円=ドルですが、04年がだいたい1平均で105円台前後に対して今年が安めに見ても80円前後。単純に考えて30%以上も円高になっているのです。

しかし!チケット代金の推移を見ると、エアロスミスの場合前回の04年が東京ドームS席9000円に対して今回同じドームで10500円也。約16%アップ!うん?円高メリットどころか逆行してませんこれ?念のために、同じく04年以来7年ぶりで3月に来日したイーグルスを見てみると、前回がS席9800円で今回が12000円也。こちらは約22%の価格上昇です。この時代の円高メリットを誰が享受しているのかの「答え」は、呼び屋さんなのでした。すべてが呼び屋さんの利益であるかどうかは別としても、単純計算で前回比チケット単価で+15%、円高でギャラの支払いは△30%(アーティストへのドルベース支払いが変わっていないと言うのが前提)、かなりの利益増かなと思いますがいかがでしょう。

円高で大物アーティストがたくさん見れるようになって得したような気になっている音楽ファンは、実は円高メリットすら全然享受できず、7年も前に自分が払ったチケット代なども忘れて高い金額を「こんなもんかな」と無意識に支払っている。しかも、原価いくらでもないパンフレットを「記念に」と称して高い金額で買ってしまっている。「ああ、なんてバカなんだ」と、自虐的に思う訳です。まぁでも仕方ない、それでも本物を生で見たい聞きたいのが音楽ファンの性(さが)と言うものですから。

でも呼び屋さん、確かにリスクの大きいビジネスですし「チケット代値上げ+円高増収分」すべてが御社の増収とは思いませんが、少しは一般消費者に対して還元もらわないとやっぱり景気は良くならないと思いますが、いかがなもんでしょうか。

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