日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「強行採決≒経営者実質独断」という決め方に関するリスク

2013-12-10 | 経営
沈黙をしておりましたが、特定秘密保護法案について思うところを私の領域から書いておきます。すなわち法の善し悪しの観点ではなく、物事との決め方の観点からのお話です。法案の決定に際しての「強行採決」というやり方に関する問題です。

ポイントは、物事を決定する時に関係者で十分な審議をせずに、特定の人間の意向で決めてしまうリスクがどこにあるのかということ。私の仕事に置き換えてみると、会議の運営において物事の決定方法には細心の注意を払います。もっとも注意すべきは、実質的な決定権を持つ者がその一存で決定を急ぐことのリスクです。オーナー企業における経営者リスクです。

経営者が早期に結論を出してしまうと、物事は十分な審議がなされずに決定へと動いてしまいます。十分な審議がなされないことで事案の詰めに甘さが生まれ、コンプライアンス違反をはじめとした様々な不祥事のタネが生まれやすくなるのです。ファシリテータ役を務める私や、社外取締役はそうならないように、十分な審議がなされたか否かを見極めつつ、実質的な決定権者が結論を急ぎすぎないように注意を払うのです。

今回の特定秘密法案における与党は、議会において安定多数を持ついわば実質決定権者です。野党からの問題提起のない法案でも、法の審議には慎重の上にも慎重を重ねる必要があるのですが、今回は国民も大きな関心を寄せていた重要法案。秘密に指定される事項の範疇の問題や、それを監視する第三機関のあり方などについて、十分な審議がなされないまま法案は「強行採決」されてしまいました。

先の私の仕事で言えば、会議において社外取締役が「一部コンプライアンス上の懸念があるので、リスクの極小化に向けた審議を続けるべき」と発言したにも関わらず、経営者が「もういい、商品化を急ぐのでこれでいく」と結論を急ぎ、実質経営者の一存で重要事項を決めてしまったのと同じことです。不祥事発生などの際に事後検証をすると、「なぜあの時十分な審議をしなかったのか」という疑問に対しては、「経営者が結論を急いだ」という事実が登場するのは珍しいことではありません。

法律の問題はさらに深刻です。万が一ヌケのある法が結論を急がれて決定させてしまった場合、その決定がなされた時点では為政者に悪意がないなら問題は生じないのですが、法というものは為政者が変わっても延々と生き続けるものです。何年か、あるいは何十年か先の為政者が、そのヌケを見つけて悪意を持って利用することも考えられるのです。だから、法の審議はなおさら結論を急いではならないのです。

今回は審議を重ねるべき点がいくつも指摘されていました。法の決定プロセスとして、強行採決はするべきではなかったと私は思っています。確かに悪意を持った強行採決でないのなら、今はリスクはないのかもしれません。しかし、審議が尽くされていないヌケのある法であるとするならば、いつか将来悪意を持った為政者が出てそのヌケを利用しないとは限らないのです。もちろんヌケがあると決めつけるのは早計かもしれませんが、最低限ヌケがないと確認できるだけの審議時間は必要だったでしょう。

経営者の実質独断という物事の決め方と、安定多数与党による強行採決という物事の決め方は、私から見れば同じものに見え同じリスクを負っていると思うのです。