日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

川崎重工の事件が示す日本企業のお寒いガバナンス&コンプラ事情

2013-06-17 | 経営
造船等輸送機器製造大手の川崎重工で、三井造船との統合交渉をすすめていたトップが取締役会から解任されるという異例の出来事がありました。

この問題にはいろいろおかしな点が存在します。まず何より、トップが秘密裏に折衝を進めることが常識であるハズのM&A交渉を、それをしたがためにトップの座を追われると言う不可解。川崎重工側のコメントによれば、「ガバナンス上不適格」との判断があったとのことですが、私から見るとトップ専管事項のM&A案件を公表前に内部分裂でつぶされたあげくに最悪の形で表になり、しかも折衝相手に一方的に破談を突きつけるというやり方こそ、「ガバナンス上不適格」の極みであるのではないでしょうか。

もちろん、解任された旧トップにも問題点は大いにあります。三井造船との統合問題は、4月に日経新聞により報道され各紙をもこれを追いかける展開となっておりましたが、この際に旧経営陣は「報道は事実でない」と完全否定。これは全くの虚偽発表であったと今になって判明したわけで、これこそ完全なるコンプライアンス違反であり、投資家、株主に対する経営責任をあまりに軽んじている由々しき問題であると思うのです。

同社取締役会は、この虚偽発表をもって早期にコンプライアンス違反故のトップ解任と統合交渉の事実公表を同時におこなっていたなら、同社のガバナンスはかろうじて保たれたことでありましょう。しかし同社は、統合交渉をおしすすめたことを理由にトップを解任するというあまりにもスキャンダラスなやり方をとってしまったことで、結果的に同社のガバナンス不在の経営実態を白日の下にさらすことになってしまったと言わざるを得ないでしょう。

川崎重工ほどの名門大手企業でもガバナンスに関してはこの体たらくですから、日本の企業のどれほどに胸を張れるガバナンスを保った企業が存在するのかと考えるに、グローバル化だ何だと世界に出ていく企業たちは大丈夫なのかと心配になってくるわけです。

ユニクロのグローバル戦略やワタミ渡邉美樹さんの言い訳に関するエントリーの際にも書きましたが、各業界を代表する企業、日本を代表して世界に出て行く企業は、中小企業的な御座なりのガバナンスや形式的なコンプライアンスに終始して「ガバナンスはできています」「コンプライアンスはバッチリです」では全くいかんと思うのです。そんな御座なりのガバナンス意識、コンプライアンス意識が、業界を代表する企業においてはおよそ恥ずかしい限りのこのような不可解な事件を起こすことになるのです。

川崎重工の一件は謀らずも、日本企業のガバナンス、コンプライアンスのお寒い状況を世間に晒すことになったと感じています。