日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

渡辺美樹氏の言い訳では償えない「未必の故意」という罪

2013-06-03 | 経営
ワタミの渡辺美樹氏が自民党からの参院選出馬を前に、「ワタミはブラックじゃない」という弁明をネット上でしたそうです。これは氏が予定している参院選出馬をにらんで少しでもイメージを向上させておこうという狙いがミエミエではあるのですが、どうも何か違和感を覚えずにはいられないものでした。
http://blogos.com/article/63429/

そもそもが「ブラック」の定義そのものが決まりきったモノがあるわけではなく、あやふやな状況下での言い訳に過ぎないわけで、あくまで渡辺氏個人の基準に照らしての弁明。かいつまんで氏の弁明の要旨を記すと、①離職率は同業平均以下であり問題ない、②年収は同業平均を上回っており問題ない、③時間外労働は36協定の範囲内であり問題ない、④メンタル面理由による休職・退職者も多くなく問題ない、というものです。

それぞれに対していちいち細かい指摘をするつもりはありませんが、この4つの言い訳が正しいモノであったとしても、これをもって「ブラック批判」に対する抗弁とするのはいかがなものであるのかと考えさせられてしまうところです。

個人的にはそもそも「ブラック批判」というものは、法令違反であるか否かを問われているのではないと思っています。もちろん法令違反があるのなら、それはもうその段階で完全アウトであり、法令違反がないという前提においてなお企業経営としておかしいと言うモノに対して今「ブラック批判」が起きているのではないでしょうか。

さらに言えば、なぜワタミやユニクロが「ブラック批判」のヤリ玉にあげられているのかと言えば、それは上場企業であるからに他ならないわけです。法令は上場企業であろうが、大手企業であろうが、中小企業であろうが同じように同じ法令を守る必要があるわけですが、企業モラルという観点からは企業の置かれた立場によって求められるモノは自ずと違ってくるはずなのです。

すなわち、上場企業や大手企業が中小企業と同じ感覚で「法令さえ守っていれば問題ない」とするのは、企業モラルからから言って明らかに間違った判断であると思います。その意味で言えば、渡辺氏の言い訳は中小企業レベルでは通用するものであっても、上場企業、業界を代表する大企業のリーダーが申し述べるモノとしては、いささか物足りないものであると言わざるを得ないでしょう。

ワタミやユニクロがなぜ「ブラック批判」を受けているのか。よく考えてください。立場的に強い者が、大幅な残業をしなくてはこなせないだけの大量の業務を与えながら、残業に対する制限を加え(評会と言う形である場合を含みます)、実質労働時間と賃金のバランスが崩れた理不尽な労働環境やサービス残業が発生せざるを得ない状況に追い込んでいることにこそ問題があると指摘をされているのだと思います。こういう状況を犯罪などで使われる用語では「未必の故意」と言います。起きてはならないことが起きることが十分想定できるような状況にありながらそれを放置すること、それが「未必の故意」です。すなわちそれは「クロ」ですよということなのです。

渡辺氏はいろいろな場所で「夢」を多く語っているようですが、それはあくまでご自身の「夢」です。ご自身の「夢」の実現のために、それを支えるどれだけ多くの人たちが結果として無理な労働環境を強いられ「夢」を感じることなく敗北感の中で打ちひしがれていったのか。ご自身の新たな「夢」の実現である国会議員をめざされる前に、「ブラック」批判に対して形式的な言い訳をするのではなく、今一度胸に手を当ててご自身の組織内における従業員が被害者になっている「未必の故意」の解消に向け何をなすべきなのかお考えになられた方がよろしいのではないかと思います。