日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

東電の値上げは、他社の値上げとは意味が違うと認識した対応が必要

2013-03-29 | 経営
昨日夕刻、新橋駅前を通がかりに某テレビ局の取材クルーに呼び止められ、コメントを求められました。テーマは「電気料金の値上げについてどう思われますか?」。私は持論展開でこれにお答えしました。先方は恐らく単に「困りますねぇ、まだ収入が増える前の支出増先行は苦しいです」的な答えを期待されていたようなので、使われることはなかったのでしょうが、せっかくですから昨日コメントした私が思うこの問題のポイントについて少し書いておきます。

今回の電気料金の値上げは、円安で液化天然ガス(LNG)の輸入価格が急上昇したためのもの。東京電力の標準家庭では前月比180円超となるなど、大幅な値上げと言っていいレベルであります。電気料金やガス料金は、政府の認可が必要な料金改定とは別に、制度上、直近3か月の燃料輸入価格の変動に応じて毎月見直されるシステムになっており、この値上げはその類のものです。今回の値上げ対象は電力10社と都市ガス4社でありますが、東電だけに関しては、公的資金注入企業かつ昨年福島の事故処理関連コストの利用者負担を料金値上げの形で既におこなっているのであり、「円安ですからね、しかたないですね。はい、分かりました」と易々と受け入れていいものではないと思っています。

原則論で言うなら、公的管理下かつ利用者負担を実行済みの企業であるのなら、原料価格増を理由の値上げするにしても、再建計画にある削減計画に対してどこまで努力をしているのかを明示し最低限でも計画の進捗においてそれが順調に達成されているか否かを政府がしっかりと確認した上で、国民に開示して世論に可否を問うという従来とは別の手続きをとる必要があるはずです。理由のひとつには、今回の値上げの一部に目標未達分の埋め合わせ分が紛れ込んでいる可能性も完全には否定できないわけですから。

読売新聞によれば、一般的な家庭をモデルにした今回の値上げ幅を見るに、14社中なんと東電が値上げ幅では前月比183円増でトップです。これはLNGの使用比率にかかわる問題なので、他社に比べた東電の怠慢が原因であるとは申し上げませんが、値上げに次ぐ値上げで東電が自社の至らなさを利用者に対し本当に申し訳ないと考えるのなら、183円のうちの幾ばくかでも抑えて「企業努力で吸収します」という姿勢を見せるのが筋なのではないかと思うのです。いささか穿った見方にはなりますが、公的管理移行後も一向に改まらない横柄で嘘つきな同社の企業姿勢を見るにつけ、どうしても原材料費増加理由だけではない値上げ分がもぐりこんでいるのではないかと思えてしまうのです。

いずれにしても、昨年あれだけ公的管理、値上げ等々で大騒ぎした話も、のど元過ぎればでその後の進捗がどうなったのかを忘れてしまったかのような、メディア、世論の動きもこれではいかんと思います。このような再度の値上げ局面においては、あのとき話題になった施設の売却はどこまで進んだのかとか、給与の削減は予定通りに行われているのかとか、年金カットは実行できたのかとか、そう言った具体的な部分の進捗を正していく必要があるのです。

これは一般企業におけるリストラ策の進捗管理においても全く同じこと。企業におけるリストラ計画の進行中の部門に新たな出費が発生する事態になるのなら、その段階でリストラ策の進捗を確認しその進み具合が思わしくない場合には、新たな出費の前に計画の抜本的な見直しも検討する必要が出てくるわけですから。東電に関していうなら、再建計画が計画通りに進んでいないのなら、破たん処理による抜本的な再建方針の見直しを検討する必要があるのです。

健全な公共的企業がおこなう値上げと、破たんの淵に立つ公共的企業がおこなう値上げとは、それに対するチェックの厳しさに大きな差をつけることは当たり前のこと。政府は早急に現状の東電の再建計画進捗状況を調査・開示し、値上げ時期を遅らせてでもメディアを通じて東電再建方針見直しの要否について、世論の判断を仰ぐべきであると考えます。東電を健全企業と同様に扱っての平時と同じ自動的料金値上げには、大きな疑問を感じる次第です。