日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

郵政の“大家業”進出は、官僚改革の足かせにならないか

2013-03-28 | その他あれこれ
先週オープンで話題を集めた、日本郵政(以下JP)が初めて手がける商業施設「KITTE=キッテ」の話を少ししておきましょう。

旧東京中央郵便局局舎を一部保存、再生し建設されたこと(いつぞや、旧建物の解体時に鳩山弟が大騒ぎして余計なカネのかかる一部保存建築に変更させたなんていう話もありましたっけ)、地下1階地上6階に98の店舗から成る豪華絢爛な商業施設がオープンしたこと、フロアごとに木材や瓦、織物、和紙 など日本古来の素材を使用してコンセプトである「Feel JAPAN」が表現されていること、等々話題に事欠かない新施設に関する報道が先週末にかけて展開されておりました。

施設の良し悪しはまだ見ておりませんのでなんとも申し上げようがないのですが、実は私はこのJPの商業施設運営事業に関してはちょっと嫌な懸念を抱いているのです。

商業施設運営事業と聞くと、似たようなケースですぐに思いあたるのがJRの駅ビル、駅ナカ事業です。JRの駅ビル、駅ナカ事業は確かに交通機関利用者にとっては大変便利なものであり、その部分だけを見るならありがたくかつJRも潤って良いことづくめであるかのように思えています。しかし、先月件の雪予報前日間引運転決行事件の時にもそのあまりに自己中な対応の杜撰さを指摘させていただきましたが、JRの施策の目線の高さは相変わらずで顧客目線には程遠いというのが現実なのです。

原因の一端は、企業としての競争意識のなさということが広く指摘されてはいるのですが、私はもう一つの原因として不動産テナント事業がJRの利益の大きな部分を担うようになったことも少なからず影響があるように思えています。不動産テナント事業とは言ってみれば“大家業”です。モノを売るのはテナントであり大家は直接消費者とは相対しない。かつ、日本の大家というものは古くから根付いている地主文化を踏襲して、偉そうにするわけです。「貸してやっているんだ」と。

実際、JR駅ナカに出店しているお店のお話を聞くと、「売上が落ちれば撤退命令が出る」とか、売り上げが下降線に入ろうものなら「何にやってるんだ」ぐらいのことは平気で言われてしまうとか。もちろん、これは他のショッピングモールでもよく聞かれる話で、JRだけがテナントに対して横柄であるということではないのですが、JRにおけるこの点をあえて問題視するのは、以下のような理由があるからです。

モールはイオンでもヨーカドーでも、そもそもが消費者目線のビジネスを生業として発展してきた企業ですから、多少テナントに厳しく当たろうとも、それが顧客目線への変化を及ぼすと言ったことにはならないだけのしっかりとした顧客目線風土が出来上がっているわけです。ところが、JRはもともとが親方日の丸の国家事業三公社の一角である国鉄なわけで、根本の文化そのものに顧客目線がないのです。ただでさえ、競争相手のいない顧客目線欠如文化がいつまでも抜けきらない彼らに、“大家業”を新たな事業の柱としてやらせたことで、ますます顧客目線は遠くなるばかりであると実感することしきりなのです。

JPはどうか。こちらは三公社どころではなく国家直営事業として、長らく運営されてきた超親方日の丸事業です。「郵便局は庶民的で十分、顧客目線だよ」とおっしゃられる方がいるかもしれませんが、それはあくまで現場末端の話。JRのケースにしても問題の焦点は、現場の行動ではなく本社の意識と行動です。雪予報の間引き運転にしても、一向に改まらないスイカによる新幹線利用の不便にしても(駅ナカ改装に次々投資をするなら、先にやるべき利便性向上は山ほどあるはず)、全て本社の顧客目線の欠如が原因であるのです。私の懸念は、同じことがJPにおいても、今回の“大家業”への進出で起きうるのではないのかということです。

「KITTE=キッテ」に味をしめてJP本社が“大家業”の楽さ加減と横柄の心地よさに安住するなら、次々と大所JP施設のテナント化の流れは容易に想像できる展開であり、そうなれば本業における施策の顧客目線欠如も目に見えて表れることは確実な気がするのです。それを阻止するためにも必要なことは、民営化郵政の民間競合他社、すなわち銀行、保険会社、宅配便会社とのイコール・フィッティングによる健全な競争環境の確保であったはずなのですが、郵政法案の“改悪”にそれすらも実現はほど遠くなってしまったという現実があるわけです。

官僚制度改革に向けた官業的なるものの改革は、まず何より消費者との接点を多く持つJRやJPの顧客目線の基準化によるサービス姿勢の改善にこそあるはずです。今回の「KITTE=キッテ」オープンによるJP“大家業”進出は、最終的には官僚改革をまたしても遅らせる要因になるのではないかとの懸念の色を濃くさせられて、なんとはなしに気分が悪いというわけなのです。そんな懸念が杞憂に終わることを心より祈ります。