静聴雨読

歴史文化を読み解く

「利用者」ということばの響き

2007-12-13 03:58:13 | 現代を生きる
介護という体系、あるいは、介護システムは、介護保険制度に則って運用されています。介護保険制度は生まれてまだ日の浅い制度なので、いろいろと未熟なところがあります。その一例が、名前です。

介護をする側は、ケア・マネージャー、訪問介護士(ホーム・ヘルパー)、訪問看護師、などの名前がついています。

一方、介護を受ける側は何と呼ばれているか?
役所から、「あなたは『要介護2』に認定されました」という類の通知が来ます。すると、私は「要介護者」なのか、というわけです。介護保険という制度の利用者は、行政上は、「要介護者」です。しかし、誰も、自分のことを「要介護者」などといいません。

訪問介護の会社の人に聞いてみました。
「介護をうける人のことを何と呼んでいますか?」
「普通は、『利用者さん』とか『利用者様』とか呼んでいます」
やはり、介護保険という制度の利用者という意味合いが強い呼び名です。
しかし、介護を受ける人は、誰も、自分のことを「利用者」などと呼びません。ここにも、介護をする側と介護を受ける側との認識のギャップがあります。

それでは、介護を受ける人は自分のことをどう呼んでいるのでしょうか? そう、「病人」とか「患者」とか、呼ぶことが多いのです。これは、医療システムに擬えているのに違いありません。

省みれば、医療システムは中世の「施療院」以来の伝統ある制度で、この制度が発達する中で、医療を施す側を「医師」「看護師」と呼び、医療を受ける側を「患者」と呼ぶ習慣が確立してきたのでした。
医療を受ける人を「患者」と呼ぶことに、患者自身が何の違和感も抱かないほど、医療システムは成熟しているといっていいでしょう。

それに比べると、介護システムは成熟度の浅い制度といわざるをえません。「利用者」に代わる新しい呼称を、介護システムの利用者に付与するには、まだ時間が必要なのでしょう。 (2007/12)      


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