アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

「聖なる魂」

2009-12-12 17:38:09 | インポート
昨日はノヤ発送作業を終えるのが早かったので、疲れもありOKIライヴを諦めて帰宅しました。

読めずにいてちょっと気になっていた本「聖なる魂」(森田ゆり 朝日新聞社 1989)を読み進めています。
現代アメリカ・インディアン指導者デニス・バンクスの半生を綴ったもの。著者(翻訳者と言うべきか)は森田ゆりさん。森田さんは知る人ぞ知るCAPの創始者で、わたしも何冊か本を読んで共感していました。
翻訳と言っても本書は日本語のみの出版となっています。著者が東京立川市の砂川米空軍基地に情報部隊の一員として配置された時のとある経験からだそうです。
1956年、基地拡張反対の抗議デモを阻止する命令を受け、市民に銃を構えろと命じられた彼が、その時に見た光景は日本の機動隊がデモ中の無抵抗の農民や僧侶達に襲いかかり、棍棒を振り下ろしているものでした。そして、ただ平和を願っている人に対して銃を構えるために使われている自分のあり方を考え直さざるをえなかった、と。その時以来、自分に重要な影響を与え続けている藤井日達という僧侶との不思議な縁がこの本を日本語で出版させたのだ、ということです。
加えて英訳にしなかった理由として、英語を語る人々は過去何年もの間、自分たちアメリカ・インディアンの語る言葉を自分たちの都合のいいように解釈し続けてきたため、その抗議だと。

彼は1936年、ミネソタ州リーチ・レイク・インディアン居留地でアニシナベ(最初の人間の意)民族に出生(人々は自分たちをオジブワ(チペワ)・インディアンと呼んだ)。
ちなみに、ミネソタとはオグララ・ラコタ(スー)族のことばで「靄(もや)の立ちこめる水面」の意味だそうですが、州の名前を調べると先住民族の言葉が語源となっているところは多いですね。
自然に包まれて森や湖から豊かな糧を与えられて育ったことが語られています。しかし、そのうちに米政府の規制が自分たちの自由で自然な生活を奪っていきます。住むところを分断され、狩猟規制がなされ、父親は戦争に取られ、やがて寄宿舎生活へと送られて家庭も生活もばらばらに。
寄宿舎では規則で縛り上げられ、対インディアン教育を強いられます。このあたりに描かれるキリスト教はなんとも嫌になります。インディアンを野蛮・敵と教え、「イエス様はわたし達の友達」(Jesus Loves Meでしょうか)などの讃美歌を覚えさせたとか。

そう言えば、サンドクリークの大虐殺(1864)の指揮をとったチビングトン大佐はアメリカで教会学校運動を広めたメソジスト教会の牧師でした。一方ではキリストの愛を教会教育で諭し、他方で無抵抗の女こどもを大量虐殺して両立させていたわけです。(Wikipediaでも虐殺の情景を紹介していますし、映画「ソルジャー・ブルー」にも描かれています。映画では軍隊が奇襲する際、シャイアン族の長「まだら狼」が馬に乗って白旗と星条旗を掲げてきますが、実際は何も乗らずにじっと立ちつくし、白旗とリンカーン米大統領からもらった星条旗をかかげて、完全に不戦闘の意思と相手を受け入れる姿勢を示していたという記録もあります)。映画「ソルジャー・ブルー」も「小さな巨人」も先住民族虐殺の場面は目を覆いたくなります。



話を戻しますが、前掲書にはインディアン局(BIA)が陸軍省内に設置され、後に内務省の管轄に移管されたことや、これが全国各地にインディアン寄宿舎を設立したことなども分かりやすく記されていました。寄宿舎での差別的な教育や、体罰という名の虐待は教師が生徒の中から希望者を募って棒やベルトで殴らせることだったなどぞっとする証言もあります。

やっとの思いで脱出を成功した後、日雇いをしながら多くの人種差別にあいます。そして入隊し、数年後に日本へ来て、前述の事件を目の当たりにします。さらに、愛する人とこどもが出来、軍への不信感もつのらせ基地を飛び出して本国へ強制送還。帰国後はアルコールに蝕まれ、どん底に。
しかし、偶然にも牢獄で同じイジブワ族のトム・ジョーンズと出会い、人生が変わります。刑務所から出てからトムと仲間たちとともにCIAC(憂慮するインディアン協議会)をはじめ、後に、AIM(American Indians Movement アメリカ・インディアン運動)と改名されます。

AIMは様々な運動を展開します。学校の歴史教材に出てくるインディアン描写(無教養で野蛮な動物まがいの人種として)を使用不可にさせるなど、過日に紹介した台湾原住民族の「呉鳳神話廃棄運動」(09/7/9blog参照)に通じますね。
アルカトラス島占拠のことも述べられていました。かつて上村さんの本(「世界と日本の先住民族」岩波ブックレット)にも書かれていた内容と重なりました。アルカトラス島を強制撤去された後に米国はこの島を国立公園にしたのですね(これも台湾と同じで公園法により先住民族の追い出しを法的に位置づけたという事でしょうか)。

1973年のウンデット・ニー占拠も、「破られた条約の旅」、BIA(インディアン局)本部占拠も載っていました。若いインディアン戦士たちが命を掛けた闘いに出陣する際にその決意を固めるために行なう「我々はここを死守する。来い。死ぬには良い日だ」本の紹介はここまでにしますが、こうした証言などを聞いたり関連の解説を読んだりすることによって、少しづつ先住民族の闘いの歴史がつながって来ます。たくさんの資料があるのですね。


昨日、一日だけ晴れました。暑寒別の写真です。


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