アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

テッサ・モーリス=スズキ氏による講演「世界の先住権の常識で再考するアイヌ政策」集会声明

2019-04-02 12:11:45 | 日記

 東京では桜満開のようですが、留萌はいまだ時おり雪が散らついています。早朝の散歩も始めました。

テッサさん講演の後、アイヌ遺骨返還のために尽力くださっている市川守弘弁護士の報告、さらに、アイヌ民族のみなさんからの発言が熱く語られました。発言内容はすでに北大開示文書研究会のHPに掲載されていますのでご覧ください。

会場から質問や活動に対するエールが送られました。印象深かったのは、エンチウ(カラフトアイヌ)の方が、法案にはエンチウに関する配慮が全くないと言われたこと、また、アイヌの若者が勇気を出して意見を述べたことでした。

最後には集会声明を採択し、翌日には政府アイヌ政策推進会議や各政党本部、大手メディア各所に発送しました。

(毎回のことながらどこからも一切応答なし)。

これもすでに北大開示文書研究会のHPに掲載されていますが、ここであらためて引用します。

 留萌の浜で釣れたヒメマス(釣人に写真を撮らせて頂いた)

集会声明

政府は「「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」案を閣議決定し、現在開会中の国会に提出して成立をはかるとしています。  

私たちは、発表された法律案を読み、深い失望と疑念の思いに駆られています。

本日、私たちはアイヌ先住権をめぐる連続講座に集い、オーストラリア国立大学名誉教授テッサ・モーリス=スズキさんを招いて「法律案」の中身を吟味、学習しました。ここに、参加したアイヌと、アイヌと共に生きることを願う者たちの共同の意志として、以下の声明を発表し、政府と国会、並びに国民のみなさんに伝えようとするものです。

先住権を欠いた法律案をアイヌ新法とは呼べない

法律案は、アイヌを日本における先住民族と初めて表現しました。それであるなら、2007年に国連総会で採択され、日本政府も賛成した「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に明記されている先住民族が持つ権利である先住権が明記された法律を制定すべきです。先住民族が持つ先住権とは、自己決定権、自治権のことであり、国連宣言には「先住民族は、自己決定の権利を有する。この権利に基づき、先住民族は、自らの政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。」とし、自治の権利として「先住民族は(中略)自らの内部的および地方的問題に関連する事柄における自律あるいは自治に対する権利を有する。」と謳っています。    

しかるに、このたびの法律案にはアイヌの先住権に言及した文言は一切見当たらず、それに相当する条文も存在しません。世界の流れは先住民族の先住権の確立であり、拡充です。先住権を行使する主体はコタンを継承する地域のアイヌ集団です。政府はアイヌが求めている先祖を祀る権利や漁業権を行使する権利をはじめ、アイヌ自らが求める先住権に最大限配慮した法律を制定する責任があります。先住権に関する言及のない法律案をアイヌ新法と呼ぶことはできません。

法律案は政府主導の観光政策であり、アイヌの自立と尊厳を促さない  

法律案が検討される過程で、2017年から行われた「アイヌ政策再構築に係る地域説明会」で北海道各地の286人のアイヌが意見を述べました。その場での意見は、先住民族としての立場を明記すること、国有地などでの活動の権利、漁業権の復興など自律的な経済活動、奪われた遺骨の返還、アイヌ語など文化と教育の充実、若者への教育支援、農業・林業・漁業などへの財政的支援、高齢者への福祉向上、差別と抑圧の歴史への謝罪などでしたが、その後の推進会議において、それらの要求はほとんど検討されることすらありませんでした。その代わり法律案から見えてきたのは政府主導の観光政策です。

法律案には白老に建設中の民族共生象徴空間構成施設に関して記述されています。民族共生象徴空間は2020年4月、白老町に開館予定ですが、オリンピック直前の開館であり、アイヌ政策推進会議座長である菅官房長官の指揮で年間100万人の来場者を実現すると繰り返し強調されています。法律案ではアイヌ政策推進本部を設けるとされていますが、本部長は内閣官房長官であり、副本部長、本部員は国務大臣であり、アイヌの意見が反映されるシステムではありません。管理運営に関する決定権はすべて日本政府が握っているのです。アイヌ政策推進地域計画が策定される場合も、決定主体は該当する市町村であり、アイヌは申告しても自主的決定権は認められないでしょう。このような法律案がアイヌ民族の自立と尊厳を促すとは到底考えられません。

アイヌの遺骨は「慰霊施設」ではなく元のコタンに返還すべきだ

さらに問題なのは民族共生象徴空間の中に慰霊施設を作り、全国の大学に留め置かれているアイヌ遺骨を集約するとしていることです。戦前から戦後にかけて人類学者などが少なくとも1600体を越えるアイヌ遺骨を研究のためと称して、アイヌコタンから持ち去りました。それはアイヌの先祖の命を研究材料にすることで、アイヌの宗教的精神を傷つけ、アイヌ自らが先祖を慰霊、追悼する権利を踏みにじる、人間として最も卑しい行為です。2012年以来、アイヌの訴えにより遺骨返還訴訟が起こされ、日高や十勝、紋別、旭川のアイヌコタンに遺骨返還が実現しました。しかし現在、一部のアイヌ協会が地域返還に反対し、白老の慰霊施設への集約を主張したため地域返還の動きが中断する事態になっています。開設されようとしている象徴空間がアイヌの自己決定権に基づく遺骨の地域返還と再埋葬を妨害する結果を招いているのです。

さらに、国立科学博物館及び山梨大学の研究者は2007年から、浦河町をはじめ道内各地で発掘された115体の遺骨からDNAサンプルを抽出し、研究材料としましたが、その際、発掘地のアイヌに対して何らの承諾も得ようとしませんでした。今も遺骨は無断で研究材料にされ続けているのです。私たちは全国の大学に留置されている遺骨が慰霊施設に移されることで、新たな研究材料にされるのではないかという疑念を払しょくできません。コタンから持ち去られたアイヌの遺骨は元のコタンに返還されるべきです。政府は地域への返還を認める見解と聞いていますが、それならばアイヌが求める地域への返還要求を最優先すべきであり、白老の慰霊施設への移管を実施すべきではありません。  

以上の問題点から、私たちは「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」案 に反対します。政府は速やかに法律案を撤回し、アイヌへの差別と抑圧の歴史を謝罪し、アイヌとの真摯な対話によってアイヌの先住権の確立を支援する新たな法律案を作成することを強く要求します。

2019年3月9日


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