フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

11月10日(日) 晴れ(信州旅行2日目:後半)

2019-11-12 15:35:15 | Weblog

(承前)

 中通りに来る。

 「グレイン・ノート」は陶芸と木工の店だが、松本に来たときは必ず顔を出すことにしている。

 陶器を購入することが多いが、特に高橋一光という方の作るコーヒーカップやテッーカップ、ティーポットや湯飲みなどをよく購入している。

 ところが今回は高橋さんの作品の数が少ない。私が彼の作品のファンであることをご存じの店主さんが理由を説明してくれた。なんでも高橋さんは怪我をされたとかで、いま作品作りが出来ないのだそうだ。あらま。作品が入ってくるのは春頃になるのではないかとのこと。

 今回は知人の結婚のお祝いにコーヒーカップを購入しようと思っていたのだが、お目当てのものがなかった。ミルクピッチャーはいい感じのものがあったが、たぶんコーヒーはブラックで飲まれると思うので、差し上げる意味がない。今回は見送りだ。

 ホテルにチェックインするために向かう(荷物だけは町歩きを始める前に預けてある)。ホテルの手前にポール・スミスの店があって、ショーウィンドウに素敵なセーターが出ていた。でも、コーヒーカップを買わなかったお金で買える金額のものでないことは、店内に入って尋ねるまでもない。写真だけ撮って通りすぎる。

 ホテルにチェックイン。預けてあった荷物は部屋に運んでくれていた。

 ちょっと一服して、再び街に出る。「パルコ」の前にはクリスマスツリーが飾られている。

 「チーアン」(chiiann)へ顔を出す。いつもであれば松本に来たときは最初にここに来てランチをたべるのであるが、今日は「山山食堂」(明日が定休日)でランチを取ったのと、「ユキ・リ」が午後4時閉店なので、先にそちらを回ってからの訪問となった。

 テーブル席は全て埋っていたので、カウンター席に座る。目の前のご主人に小声で「夕方にしてはずいぶんとお客さんがいますね」と言うと、「たまにはこんなこともないとね」と苦笑された。

パンとスープを注文する。奥様が「パンの焦げ色がいい感じです」と写真を撮ろうとしている私に言った。

 リースの展示会を近々(11月22日~12月4日)されるそうである、そのDMを写真に撮る。ブログで宣伝しておきますね。

 「ついでにこちらもお願いします」と渡されたDM。「ユキ・リ」の向かいにあるゲストハウス「タビシロ」(tabi-shiro)で11月27日(19時から)開かれる「映画と旅城」というタイトルのトークイベントだ。映画好き(度を超えて)の「チーアン」のご主人が出演されるそうである。

 番宣ですから顔出しでお願いしますね(笑)。

 奥様が来年のカレンダーを持ってきて、12月のページを開いて、右端のドーナツを小指で示された。「この犬、ウチの子なんです」。知り合いの作家さんが描いたものだそうだ。「名前は?」「ふく、です」。これも一種の番宣(あるいは親ばか)ではないかと思うが、相変わらす奥様は顔出しNGである。

 「チーアン」には閉店の午後6時近くまで滞在した。奥様の手に見送られて店を出た。

「ガルガ」(gargas)へ行く。市民芸術館の裏手にある蔵を使ったギャラリー・カフェだ。一階がカフェとショップ、二階がギャラリー。ギャラリーの展示は月替わり。

リンゴジュースを注文すると、「ホットになさいますか?」と奥様に聞かれた。ホット?メニューをよく見ると「リンゴジュース(HOT/ICE)」とある。 私はリンゴジュースをホットで飲んだことはない。「ホットで飲むと酸味が増すんです」と奥様が言った。では、ホットで。飲んでみると、なるほど、という味わい。子どもの頃、カルピスを初めてホットで飲んだ時のような小さな驚きがあった。 

 リンゴジュースを飲み終えて、2階のギャラリーへ。「青木郁美の陶展」だ。 

ここでの個展は初めてとのことだが、私にはこのコーヒーカップは見覚えがある。「ユキ・リ」で使われているものと同じではなかろうか。

 下の写真は9月8日に「ユキ・リ」で撮ったもの。カップの持ち手が耳の形をしているところが同じだ。

その持ち手が耳の形をしたカップと、上段の八角形のカップを購入することにした。

チキンカレー(小)を食べてから店を出る。

本日最後のカフェは「想雲堂」。老舗のホテル「花月」の向かいにあって、夜11時ごろまでやっている。夕方に閉まるカフェが多い中、異色の存在である。 

ここの特徴は遅くまでやっていること(だけ)ではなく、古本屋を兼ねていることである。

三方の壁が書棚になっていて、ぎっしりと本が詰まっている。

本はきちんとジャンル別に分類されて、しかるべき棚に並んでいる。美しい光景である。

掛け時計の下の奥の二人用の丸テーブルが私の好き場所だが、今日はそこに先客がいたので(店内の写真は後から撮ったもの)、カウンター席に座った。

 レモンスカッシュを飲みながら、購入する本を決める。

 ロラン・バルト『小さな歴史』(青土社)。

 谷川俊太郎『うつむく青年 詩集』(サンリオ)。

 デヴィット・L・ユーリン『それでも、読書をやめない理由』(柏書房)。

そして雑誌を一冊。 『松本の本』創刊号(まつもと一箱古本市実行委員会)。実はこの雑誌を購入することが今日ここに来た一番の目的である。「想雲堂」のご主人が編集人となって松本市内の本屋やブックカフェを中心とした松本という街についての雑誌である。

店主の渡辺さん。先客がみな帰った後で、あれこれお話を聞かせていただけた。6年前に「想雲堂」を始める前は地元の広告代理店でサラリーマンをされていたそうだ。「広告代理店といっても電通みたいな大手ではありません。そうだったら脱サラはしていないと思います(笑)」。店内の本は人文系のものが大部分を占める。とくにご専門の日本史や民俗学の分野の本はかなり専門性の高い本が並んでいる。

私が「松本の古本屋さんには北杜夫の本がたくさんそろっていますね」と言うと、「うちにもありますよ」と言って、北杜夫の全集(全15巻)の中から一冊( 『月と10セント』だったかしら)を抜き取って、「これは北杜夫が望月先生という方に献本したものです」と示された。おぉ、「望月先生」と言えば、『どくとるマンボウ青春期』の中に登場する旧制松本高校のドイツ語の教授である(トーマス・マンの『魔の山』やリルケの『マルテの手記』の訳者としてたんなる語学の先生以上の何者かとして学生から一目置かれる存在だったと書かれていた)。私がそう言うと、渡辺さんは満足気に「そうです」と言った。「ご遺族が遺品整理で売却されたものですね」「そうだと思います」

渡辺さんは、当初、賃料を払ってこの店を始めたが、3年ほど前に購入したそうである。ローンを抱えることにはなるが、賃料をいつまで払っても自分のものにならないわけでで、それならいっそ購入しまおうと思ったそうである。開店して6年というとちょうど「栞日」と同じくらいで、「栞日」の店主の菊地さんとはタイプは違うが、こういう方の存在は頼もしい。

私は下戸なので夜の松本の街に繰り出すということがないのですが、「想雲堂」は例外で、次回もまた夜に訪問させていだたこうと思います。今日はいろいろお話が出来て楽しかったです。

 ホテルに戻り、『グランメゾン東京』をリアルタイムで観る。

ホテルの近所のコンビニで買ってきたおにぎり、うにせん、ストロベリーチョコレートを食べながら観る。

 風呂を浴び、今日撮った写真の整理などをしてから、1時ごろ、就寝。