ヌマンタの書斎

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戦争なんて 風船爆弾

2013-07-12 11:51:00 | 社会・政治・一般
世界初の大陸間弾道ミサイルは日本が作ったという。

まァ、正確に言えば弾道ミサイルではなく、風船爆弾である。とはいえ、人類史上、初めて大陸を超えての大長距離攻撃であることは間違いないので、欧米の軍事専門家の間では、多少の異論はあるようだが評価は高い。

これは太平洋戦争末期に、なんとかしてアメリカ本土への攻撃を目論んだ日本陸軍の苦心の作であり、9000個を超える風船がジェット気流に乗せられてアメリカ本土まで飛来して、360余の爆弾を落として山火事を数件起こしたとされる。ちなみに当時は気球爆弾と呼ばれている。

それにしても9000個の爆弾で、わずか数件の山火事しか成果がなかったのだから、なんとも効率の悪い兵器である。当然ながら日本軍内部でも評価は低く、その資料は奥深くしまわれてしまった。

だが、当のアメリカ側の評価は違う。なんといっても人類初の大陸間攻撃であり、実際に成果もあった。人的損傷なしに敵地を奥深く攻撃できるのだから、もし飛来させる風船爆弾を十万単位として攻撃するば、十分成果を得られただろうと推測している。

これは生産余力にあふれるアメリカだからこそだろうが、少なくてもそのアイディアに対する評価は低くはない。あまり知られていないが、安全な超高空からの爆撃を繰り返したB29の絨毯爆撃だが、目標破壊率は2%に満たない。

日本の家屋が木造であったがゆえに、絨毯爆撃は延焼により大いに効果を上げたのは確かだが、軍事拠点などを狙った精密爆撃には不向きなのが現実。実際、迎撃されて墜落したB29の損失を思うと、アメリカ軍首脳としては風船爆弾とて決して無駄には思えなかったのだろう。

ただ、この風船爆弾の評価が高い理由は、大気圏上層部のジェット気流を活用した点にある。これは高層気象学の研究所長の大石和三郎氏が発見し、いくつもの実験を得てデーターがあったからこそ可能なものであった。

ジェット気流という高高度の偏西風の存在を発見し、その現象を解明していたからこそ軍事転用が可能であった。もっとも発見当初、国外ではこの重要性に気が付かなかった為、大石論文の存在は忘れ去られていた。その後、高高度を飛行する航空機が開発され、上空で不思議な気流の存在があることが分かってからドイツの学者が発表(1939年)していた論文が注目を集めた。

その後、アメリカ軍がB29による高高度飛行にジェット気流が有益だと分かってから、一気に研究が進み、現在でも旅客機の飛行ルートはジェット気流を大いに活用するようになっている。それほど有益な発見であったが故に、この風船爆弾の評価は低くないのだろう。

大石氏の論文はドイツ、アメリカよりも20年近く前に発表されているので、現在ではジェット気流の発見者は大石氏のものとされている。このような気象学の基礎研究あってこその風船爆弾であった。

もっともアメリカも風船爆弾自体は使おうとは思わなかったようだ。そのかわり、多くの観測気球を飛ばしてジェット気流の研究を重ね、それを飛行機をより早く飛ばすことに活用するように努めた。そのデーターは、今日でも航空業界で活用されていることを思えば、大石和三郎の名はもっと知られても良いと思います。

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