ジャイアント馬場は、本当は強いのか?
長年にわたりプロレスファンを悩ませてきた疑問である。これは、かなり難しい問題であった。その身体能力に関しては、明白である。2メートル9センチの身長と、長い手足、屈強な下半身は類いまれな才能である。
しかも、野球選手として二軍とはいえ、読売巨人軍の投手であったほどだ。嫌というほど走り込みで鍛えた身体であることは、間違いのない事実である。単なるノッモナはないのだ。
それでも疑問に思われてしまうのが、格闘技の経験が皆無であったことだ。これは当の馬場本人が争いを嫌う温厚な性格であったことも影響している。それゆえに、どうしても強さに関しては疑問を持たれてしまう。
そこで問題になるのが強さの定義である。これは、はっきりと断言するが、プロレスは格闘技ではない。鍛え上げた肉体を持つ大男たちが演じる、格闘演技により観客を喜ばす興業である。
格闘技としての強さではなく、強いと見せて、観客を喜ばせる演技が出来ることが重要となる。単に喧嘩が強い、格闘技に長じているだけではプロレスラーとしては失格なのだ。
この観点からすると、ジャイアント馬場は間違いなく強者である。あの大きな体を、より大きく見せるスローな動きは、格闘技の素人でも分かりやすいものだ。そして、野球で鍛え上げられた強靭な下半身を土台にして繰り出す技は、迫力満点であり、観客を納得させられるだけのパフォーマンスであった。
誤解されると困るが、プロレスラーの中には、見かけだけで人気を得たり、チャンピオンを演じるものもいた。特に善玉レスラーには少なくなかった。しかし、馬場は違う。
アメリカでの修業時代のあだ名は東洋の鬼であり、ちょび髭を生やし、下駄をはき、似合わぬ着物を羽織ってリングに登場し、観客から「リメンバー、パール・ハーバー!」と罵声を浴びる悪役レスラーであった。
それも、全米屈指の実力を持つ、極めつけの悪役レスラーであった。実力が落ちてきた力道山が、観客を呼ぶ目玉として、馬場を無理に帰国させなければ、アメリカにおいて、100万ドルを稼ぐ売れっ子レスラーとして活躍できただろう。
馬場には二つの武器があった。一つは長身で、長い手足を持つが故に、相手の頭頂部を容易に攻撃できることだ。あの脳天チョップと呼ばれた、頭頂部への空手チョップは、見かけよりも遥かに威力があった。
頭頂部は、人体のなかで鍛えることが出来ない部位であり、そこを直接攻撃できる馬場は、130キロを超える巨漢レスラーの突進を、この空手チョップで止めることが出来た。
その空手チョップはスローに見えたが故に、漫画などで「アボー!」と発しながらの攻撃は、ユーモラスなものと思われがちだが、実は極めて実戦的なものだ。嘘だと思うのなら、子供相手に試してみることだ。頭頂部への攻撃を受けると、ほとんどの子供は動きを止めてしまう。
もう一つの武器は、あの長い足による踏みつけ、通称ストンピングである。馬場の代名詞は、あの16文キックと称された前蹴りだが、あれは見た目を重視したプロレス的な技だ。蹴るというよりも、押し飛ばすと評したほうが良いと思う。
しかし、あの踏みつけ攻撃は別格であった。本気で怒った馬場は、あの長く巨大な足で、相手を踏みつける。ただ、踏みつけるだけだが、体重145キロの重さに、野球の投手として鍛え上げた脚力が加わると、恐るべき必殺技となっていた。
ただ、この踏みつけは、馬場自身、滅多に使わなかった。使う時は、プロレスラー馬場ではなく、プロレスの興行主として、しっかりと仕事をしないプロレスラーを制裁するときに使っていた。地味な場面だし、見た目の迫力もないが、馬場に踏み潰されたレスラーは、大概これでグロッキー状態となる。
では、やはりプロレスラー馬場は強いのか。
それでも疑問が残るのは、馬場自身がプロレス最強とか、格闘技世界一などに興味がなく、その恵まれた体躯を利用する最上の手段として、職業プロレスを選択していたからだと思う。
実際、馬場は自らが強くなるための意思が希薄であった。その代り、プロとしてプロレスのリングで活躍することには本気で取り組んでいた。多少の怪我なら我慢してリングに上がり、決して観客を失望させないプロ根性の持ち主であった。
自らの人生を、プロレス一筋に賭けていた。だからこそ、裏切りには辛辣であった。メガネスーパーというスポンサーを得た天龍らが、全日本を離脱して、SWSというプロレス団体を作った時の、馬場の報復はえげつないものであった。
週刊プロレス誌の名物編集長であるターザン山本に金を渡して、SWSの試合を酷評させたのは有名な裏話である。観客動員力が低下したSWSは、必然的に倒産に追い込まれた。その時の馬場の、裏切ったプロレスラーに対する対応は、あまりに惨くて、この話は表沙汰にはならないほどであった。
実を云えば、私がプロレスから離れる一因でもあった。眩しいリングの裏側に、あれほど汚い大人の事情があるとは思わなかった。実際、SWS倒産以降、プロレス人気が低迷したのは、ある意味当然だった気がするほどです。
その馬場も亡くなり、最近はようやくプロレスも新たな人気を得るようになったようです。嬉しい気持ちはあるのですが、まだ見に行く気にはなれずにいます。
実を云えば、このブログを書き始めて10年。時折書いてきたプロレスネタも、この記事で100本目です。いい加減、ネタも尽きた気がしますが、探すと色々と出てくるので、以前よりはペースは落ちますが、今後も時折書いていこうと思います。
ヌマンタさん万歳!