最上位に立つことは孤独を意味する。
あまり私には縁がなかったが、まったくないではない。高校の時、学力テストで学年最上位にランクされたことがある。ちょっとだけ誇らしかった。でも内心の複雑な思いのほうが重く、浮れはしなかった。
なにせ中学時代は学年で下から一けた台の落ちこぼれ君であった私である。上から見下ろされる気持ちは十二分に分かっている。妬みや嫉みがあることも知っていたし、陰口や根も葉もない噂が出るであろうことも知っていた。
なんとなれば、私自身がかつて口にし、やっていたことでもあるからだ。
もっとも最上位のランクは私自身の努力の賜物であり、カンニングなどの不正はなく、正真正銘実力であることも分かっていた。落ちこぼれであった自分でも、努力次第でこれだけ出来るとの自信をつけたことも確かだ。
でも思い上がる気はなかった。率直に言って私の高校は、あまり進学勉強に熱心ではなく、むしろ授業のレベルを落として生徒を付いてこさせるような姿勢があったことが窺えたからだ。
これは予備校などで他の高校生の話などから比較しても、おそらく事実だと思う。実際予備校の実力テストでは私なんざ、中位の上あたりでウロチョロしているのが精一杯であったのが実情だ。
大学進学が念頭にあった私は、たかだか実力テスト一回だけの結果なんざすぐに忘れるべきだと、自らを戒めていたぐらいだ。
ただ、その時はじめて最上位に立つ者は、周囲から浮き立ち、ある種の孤独感を感じざるを得ないと知ったことは、今も忘れずにいる。でも、その孤独感は優越感と裏腹であることを自覚していた。私に落ちこぼれの経験がなければ、ここで思い上がっていたかもしれない。
その後のことだが、私は勉強はほどほどにして、高2のクラスの仲間と遊ぶことを優先するようになり、成績も少し落ちた。落ちたといっても学年で一桁台の成績は維持していたので、それで十分と思い込んだ。おかげで浪人することになるのだが、あまり後悔はしていない。あの時の遊び仲間と過ごした時間は、一生で一度きりの貴重な時間であったと自覚しているからだ。
その後数年間は勉強への熱意は忘れ、留年しないで済む程度の成績に安住する堕落した大学生であった。ところが社会人になってから、間もなく難病を患い2年後には失職。自宅療養の退屈さにめげて、税理士試験を目指したことで、再び勉強を始めた。
病気が治った時の就職に有利だと考えていたのは確かだが、勉強をやり過ぎて再発を繰り返したあたりから目的が変わってきた。あの頃は精神的におかしくなりかけていた。寝ても覚めても自分の病気のことしか考えられなくなり、狂気の淵を彷徨う自分を自覚せざる得なかった。
だからこそ、勉強をしている時間は幸せだった。勉強に集中している時だけは病気のことを忘れられた。おかげで過労による再発を繰り返し、主治医から勉強を止めるよう勧告されたこともある。でも、従わなかった。ほとんど意地で勉強を続けた。
おかげで当時週一で通っていた某簿記学校の全国模試で一位になったこともある。勉強の成果が出ていることに満足はしたが、たかが模試である。参考でしかないと思っていたが、周囲の目線はだいぶ違ったようだ。
同じ教室の受験生たちからライバル目線で見られるのは構わないが、妙な憧れ目線で見られるのには閉口した。国家試験合格ならまだしも、模試での一位なんて途中経過を示すに過ぎないからだ。
ただ、久方ぶりで最上位に立つ優越感と孤独感を味わえたことに不思議な感慨を持っていた。同時に奇妙な苛立ちも感じていた。同じ教室で同じように勉強している受験仲間たちに対する苛立ちである。なんで、もっとしっかりと勉強しないのだ?
やるべきことを、適切な方法で十分時間をかけてやればいいだけだろう。なぜ、やらないのだと怒りにも似た苛立ちを感じていた。まァ、所詮他人は他人と割り切って、自分のやるべきことに集中するため、そんな苛立ちのことは押し隠したが、気持ちの奥底で燻っていたのは確かだ。
あれから20年ちかくがたった。今にして思うのだが、20世紀後半から今日に至るまで覇権国として世界に君臨する、自覚なき世界帝国アメリカも似たような苛立ちをもっているのだろうと、この本を読んで思い至った。
表題の書は、アメリカ政府の中核で仕事をし、その後ワシントンを離れた後に世界各地を回って気が付いた違和感を契機に、改めてアメリカという国を捉えなおしてみたプレストウィッツ氏の力作だ。
本の帯に「ブッシュとネオコンの陰謀を撃て」なんて刺激的な科白が並んでいたが、本の内容はだいぶ違うと思う。レーガン政権の内部に居た時は分からなかったことが、下野して世界をまわるようになって気が付いたアメリカの孤立。
アメリカが積極的にかかわれば係るほど嫌われ、逆に距離を置いて離れると憧れられる不思議。世界を知ったつもりのアメリカと、その世界を理解していないと思われているアメリカ。
このギャップこそがアメリカを孤立させるが、その孤立に誇りと確信をもっているが故に治せないアメリカの矛盾。良くも悪くも、アメリカにすり寄ることで繁栄を謳歌してきた日本にとって、理解しがたきアメリカの孤立を知る良きテキストになると思います。大作ですが、機会がありましたら是非どうぞ。
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