雑談をバカにしてはいけない。
税務署が、その納税者の申告状況に疑いを持った時に行われるのが税務調査である。税務署から派遣された調査官が、納税者を質問漬けにして、資料を出させて脱税を見つけ出す。
納税者にとって実に嫌なものである。その際に、納税者の側に立って、調査が適切に行われるように立ち会うのが、税理士の大きな役割である。私の師匠であるS先生は、この税務調査の立会いの名人であった。
税務署出身であることも一因だが、本人の資質も大きかったように思う。守秘義務に抵触するので詳細は書けないが、税務署の調査官が嫌がる様な、それでいて合法適法な調査の邪魔をするのが上手だった。
そのS先生が一番嫌がったのは、税法に詳しい調査官でもなければ、強面の調査官でもない。話し上手で雑談を盛り上げるのが上手い調査官を一番警戒していた。
上手な調査官は、話し上手である以上に聞き上手。納税者が身を乗り出すような雑談で盛り上げ、さりげなくその雑談の中にキーワードを潜ませて、納税者の反応を見る。そしてさり気なく、それでいて断固たる姿勢で本丸に切り込んでくる。
納税者は、少し前の雑談のなかで大事なことを喋っていたことに気が付いた時には、もう手遅れである。しっかりと自白していたことに気が付かせなかった調査官の勝ちである。
だから、この手の切れ者の調査官がふってくる雑談に対して、私は決して納税者を挟ませない。私が割り込んで、雑談を別の方向に向けてしまい、調査の邪魔をする。
このやり方こそ、S先生に学んだものである。ただし、税務署出身でない私は、そのままS先生の真似は出来ない。だから自分なりの方法で、雑談の主導権を握って、税務調査を調査官の思い通りにはさせない。
この経験があるからこそ、表題の漫画の主人公タチバナ刑事のやり方が、より面白く感じられた。
TVドラマ化されたせいで、今ではけっこう知られるようになった表題の漫画だが、掲載していた雑誌が「アサヒ芸能」という一流とは言いかねるゴシップ雑誌なだけに、当初はあまり知られていなかった。
でも「牛丼問題」や「立ち食いソバ」論議などは、B級、C級グルメ好きには無視できない魅惑的な話題であった。警察の取り調べ室で、こんな雑談を振られたら、黙秘します!と頑なな容疑者だって雑談に応じてしまうってもんだ。
めしばな(飯話の略でしょうね)刑事の面目躍如ですね。もっともタチバナ刑事、あまり事件解決には熱心でない。本当は本庁の敏腕刑事だったはずなんですけどね。
ドラマは知りませんが、漫画はけっこう面白いです。機会があったら是非どうぞ。
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