ヌマンタの書斎

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人口で語る世界史 ポール・モーランド

2024-08-29 08:50:37 | 

穏やかに衰退すること。

それが21世紀の日本に求められる課題だと私は考える。一応確認しておくが、日本の衰退は確定事項である。その原因は一言で云えば「人口減少」であり、もう少し詳しく云えば「高齢化社会の到来」と「少子化社会による社会負担の増大」である。

人類史において人口が減る原因は概ね戦争と飢餓であり、地震や大規模な気候変動であった。少子化による人口減少は近代以降に発生した特殊なものだと表題の書の著者は主張する。逆に言えば、人口の増大は軍事力と経済力の増加に他ならない。

実際、第一次世界大戦はもちろん第二次世界大戦の主要参戦国は、人口の増加が著しい国が中心であった。では、人口が増加する原因はなにか。

まず第一に幼児死亡率の減少である。近代前はどこの国でも幼子の死亡率が非常に高い。しかし国が経済成長を始めると衣食住の環境が整備される。特に上水道の整備が大きい。結果、無事大人へと成長する幼児が増える。加えて食料事情が好転すると、必然的に寿命が延びる。すなわち軍隊へ入隊する兵士は増え、そこである程度の訓練を受けた兵たちが除隊後に貴重な労働力となる。

日本は近代前から教育がかなり普及し、識字率も高かったので実感が薄いと思うが、多くの国の軍隊は教育機関としての役割をもっていた。軍隊で簡単な読み書きを学び、集団での行動訓練を培った人材が、民間に戻って経済発展の一助となる。軍事力と経済力は意外と密接な関係を持つ。

しかし、ある程度幼児死亡率が減り寿命が延びると、女性が産む出産数が減少してくる。近代社会は女性の労働の機会を増やし、学校教育の普及により教育訓練を受けた女性の増加は、結果的にだが沢山の子供を育てることを厭う傾向が強い。これは民族や宗教などにも影響されぬ不思議な傾向となる。そして、必然的に将来における人口減少を招く。

人類社会において、このような現象が起きたのは、産業革命以降すなわち生産力の飛躍的増大により社会が豊かになってからだろう。だからこそ、成長の限界点に達して逆に人口が自然減してくる事態は前代未聞のものとなる。

当然に先駆者はイギリスであり、既に20世紀中にこの人口減少は始まっている。しかし痩せても枯れても大英帝国であり、旧植民地からの人の流入が多いが故に人口減少はまださほど目立ってはない。ただ英国のEU離脱には大きく影響はあったようだ。

その英国に代わって人口減少が顕著に目立ってきたのが他ならぬ日本である。表題の書の著者も日本についてかなり詳細に研究している。詳しくは読んでみて欲しい。

現在の日本は外国からの人材導入に積極的ではなく、また少子化対策も小手先のものばかりで成果は上げていない。はっきり言えば少子化問題にお手上げ状態である。その一方で高齢化は着実に進行しており、ますます政治判断力は硬直化している。

茹で上がるカエルのように気が付かずに衰退するのが日本の未来である。幸いなのは島国であることだけだ。ただこの先、人口が減少すれば空き家は当然に増加し、不動産市場は暴落すると予測される。新築は大幅に減り、リフォーム工事が主流になると私は予測している。

政府と、その下請化しているマスコミの宣伝のせいで勘違いしている人が多いが、実は日本は金融資産を膨大に持つ超大国である。負債である国債、地方債のほとんどは国内にあるため金融危機に陥る可能性は極めて低い。

ただ金融資産にはかなりの割合で外国債、とりわけアメリカ国債がある。アメリカがデフォルトに陥れば日本も追随して金融危機が陥る可能性があることは頭の片隅に銘記すべきであろう。

それと人口減少に政府は無為無策ではあるが、現実には外国人との国際結婚の増加による夫婦が増えており、それに伴いファミリービザで入国してくる外国人が増えている。社会が安定して治安がよく、学校教育も充実し、医療制度も確立している日本で暮らすことを求める外国人は少なくない。インターネットの普及により情報が飛躍的に増えて、日本の良さを認識している外国人が増えている。

外国人が増えれば必然的に生活面でのトラブルは増加する。その先駆的役割を果たしている群馬の大泉や静岡の磐田などに日本各地の自治体が視察に訪れているのも当然だと思う。その現実を知りつつ目を逸らしているのが霞が関のエリート様と永田町の先生方である。

私は21世紀中に日本はかなり混迷すると予測しています。だが、この混乱を上手に乗り切れば衰退を穏やかに迎えることが可能ではないかと若干楽天的にみています。

コメント (4)
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