古代文明のなかでも際立って神秘性が際立つのがエジプトではないかと思う。
これは、他の古代文明に比してピラミッドという今もその形を残す巨大な遺跡があること。またヒエログリフと呼ばれた古代エジプト文字がかなり解読されていることなどが大きく影響している。
黄河文明(長江文明もだが)は欧米には馴染みがなく、特段立派な遺跡があるわけでもない。インダス文明は遺跡こそあるが、その古代文字は未だ未解読であり、謎が多く一般的ではない。
そしてメソポタミア文明は、その遺跡の大半が崩壊し砂の下に埋もれている上に、戦禍に曝されてきた歴史が長く、欧米には馴染みはあれども決して異世界ではない。
その点エジプト文明は、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教といった一神教の世界観とは異なる世界であり、それゆえに神秘的で魅惑的に思えてしまう。
興味深いことに、古代ギリシャのヘロドトスは、ギリシャの神々の源流はエジプトにありと書き残している。地中海を挟んで対岸の文明であり、交流も盛んであったはずのギリシャにとっても、エジプト文明は独特の存在であったようだ。
実際、古代文明のなかでも際立って観光の対象となっているのもエジプト文明の特徴である。それだけ欧米の人々を惹きつける神秘的な存在なのであろう。
その神秘的な象徴として扱われることが多いのが、所謂ミイラである。ミイラを作成する文化を持つ国は、意外と多いのだが、エジプト文明ほど豪華で神秘的なものはそう多くない。
少し前までは、ミイラといえば包帯で全身を覆った、蘇る死者というイメージであった。しかし、実際に発掘され、展示されているミイラの姿は、それとは程遠い。
そのせいだと思うが、最近の映画では実際のミイラに似せた姿で描かれている。私の記憶では、大ヒット作となった「ハムナプトラ」がその嚆矢であったと思う。表題の映画もその流れに乗って、リアル・ミイラが魔術を駆使して大暴れ。
どちらかといえば、包帯だらけのミイラのほうが怖かった記憶があるのだが、最新の特撮技術を使った映像は十分に堪能できる。ただ、主役はミイラではなくて、そのミイラに魅入られたトム・クルーズである。トム氏、ミイラにまでモテて嬉しいのか?しかも、ご丁寧に次回作があることを予感させるエンディングである。
相当な予算を掛けたのだから、次回作へつなげたい気持ちは分かるが、正直気持ちは萎える。ホラー映画としては、たいして怖くない。さりとて、娯楽性というか、笑いを取れる場面も少ない。だから、なんとなく中途半端な印象が辛い。ここが最大の難点だと思う。
とはいえ、夏休みのお楽しみとして、映画館で楽しい時間を過ごせたのも事実。辛口採点なのは、私がホラー映画に厳しいからでしょう。余計な知識抜きで、肩から力を抜いて楽しめば、十分おもしろいと思いますよ。