ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

漂泊の牙 熊谷達也

2010-10-12 16:06:00 | 
止められない、止まらない。

いや、お菓子のCMではない。表題の本のことである。とにかく頁をめくる手を休ませない。通勤電車の車内でなければ、終点まで読んでいたい気持ちにさせられる。

熊谷氏の本には、以前徹夜読みを強いられた記憶があるので、警戒して帰宅しても、本は鞄のなか入れたままだ。しかし、読みたい気持ちに変りはなく、いつもよりも一時間早く起きて、早めの出勤途上で読み切った。

まったくもって感服、完敗、感謝である。こんな本こそ待っていた。脱線好きの私は、小説を読みながらも、ついつい余計な事を考えって、思索の回り道に入り込むのが通例だ。しかしこの本の場合、先が読みたくて考えに閉じこもる隙さえもたせてくれない。

ただ、ただ作品のなかに引き摺りこまれた。ブナの木の生茂る仙台の山々の美しさ、孤独な幼年期から解放され、ようやく得た妻を謎の獣に食い殺された夫の苦悶と追撃。その姿をドキュメンタリーに納めようとする野心家の女性ディレクター、そして一匹狼の刑事。

複数の死体にめぐらされた複雑な人間関係の糸と、絶滅したニホンオオカミの影に錯綜するサンカ伝説。舞台は整った。後は頁をめくるだけ。

秋の夜長を満喫させる時間が訪れることは約束できます。どうか、お楽しみあれ。
コメント (1)
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