ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「第三の男」 グレアム・グリーン

2008-08-01 12:30:43 | 
「君は正しい目的こそが、あらゆる手段を正当化するという。だが、私に言わせれば、正しい結果こそが、あらゆる手段を正当化するものだ。」

出典は忘れたし、誰の科白かも忘れたが、忘れ難い科白だった。いくつか、バリエーションがあったと思うが、私の脳裏に一番深く刻まれたのが、冒頭の科白でした。

ただ、非常に危うい考え方だとも認識している。結果を出すためなら、何をやっても良いとする考え方であるがゆえに、危うさも秘めている。

何をやっても良いのだから、結果を出す過程でちょいと一儲けを企んだとしても、要は結果さえ出せばいい。いつのまにやら、そのちょいと一儲けが本業になる連中は枚挙に暇がない。

スパイなどが活躍する諜報の世界では、しばしば行われてきたことでもある。日本だって、旧・満州や香港、上海などで暗躍した諜報員たちが、私財を蓄え戦後、右翼の大物としての活動していたことが知られている。

多額の金、物資が飛び交った冷戦下のヨーロッパも似た様なものだったのだろう。目的を忘れた手段の濫用が蔓延る世界に飲み込まれた友人を巡る、複雑怪奇な事件を描いたのが表題の作品だ。

元々は映画のシナリオとしての依頼なのだが、グリーンが小説は書けるがシナリオは書けないと言い出して、先に小説を書いて、それを元にあの名画が撮影されたとされる。

映画があまりに有名なため、原作は忘れ去られた不遇な作品でもある。グリーンの短編集にひっそりと納められているのが、私としてはいささか寂しい。

でも、映画の出来が非常に良いため、無理に読むものでもないと思う。それを敢えてわざわざ読む私も、相当なひねくれ者だな。
コメント (5)
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