ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「サハラに舞う羽根」 A・E・W・メースン

2007-05-22 09:28:34 | 
私は冒険小説が好きだ。でも、いつの頃からだろう、冒険小説には活劇(アクション)の場面が増えてしまった。格闘の場面であったり、自然災害の場面であったりして、いかにも冒険といった雰囲気をかもし出す。

別に間違いではないが、どうもハリウッドの映画の影響を感じることがある。誰とは言わないが、映画化を前提に書かれた冒険小説が増えた気がしている。

なぜ、このような疑問を抱いたかというと、表題の本を読んだからだ。冒険小説であることは間違いない。しかし、活劇的な場面は、ほとんどない。厳しい自然や、異民族のなかで暮らす緊張感は描かれているが、格闘の場面も、戦闘の場面もない。ある意味、退屈さを感じるかもしれない。

しかしながら、凡俗の冒険家には到底不可能な、絶望的な冒険であることは間違いない。成功報酬は、輝く財宝でもなければ、美女のキスでもない。ほんの小さな迷いから、臆病者の烙印を押された主人公の名誉回復だけが、唯一の報酬なのだ。

ひたすらに気高く、現実の栄誉を求めない。ただ、己の信念にのみ忠実に生きる厳しさ。冒険というより、求道の修練と評したくなる。だからこそ、凡百の冒険小説では得られない、誇り高き冒険者に出会える。

18世紀後半、電話も飛行機もなく、海を渡れば隔絶された世界への旅立ちとなる雰囲気は、現代の感覚からすると、退屈さを感じるほど緩やかに時が流れる。だからこそ、冒険には現代以上に厳しさと恐ろしさが付きまとう。

ハリウッド風冒険活劇に飽きたなら、古典的冒険をどうぞ。お金には代えられない、名誉を求める勇気ある冒険が待っています。
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