つれづれ

思いつくままに

夏美のホタル

2020-12-13 00:02:44 | 

季節外れの題で、自分でも戸惑っている。
森沢明夫著『夏美のホタル』(角川文庫)を読んで、どうしても伝えたくなって、これを投稿した。

優しさについて である。
世代を超えた人と人との間に通う優しさを ホタルに託して、作者は こんな題名をつけたのではないか、そんな気がする。
わたしにいちばん欠けている優しさを、息子のような年齢の作者が この物語を通して、わたしに判りやすく語ってくれた。

この物語の主人公は、芸術大学の写真学科に在籍する“写真家の卵”の慎吾と 幼稚園教諭の夏美のカップル。
慎吾の卒業制作のロケハンがてら バイクで訪れた 千葉・房総の山奥で、彼らは 運命的な出会いを果たす。
トイレを借りるために飛び込んだ 古びた雑貨店「たけ屋」で、84歳のヤスばあちゃんと 彼女の息子で体が不自由な62歳の恵三(愛称「地蔵さん」)と知り合ったのだ。

この物語に登場する人物は みんな優しいのだが、「地蔵さん」と呼ばれている恵三は 優しさの象徴だ。
父を知らずに育ち、ある悲しい出来事が原因で半身不随になり、それがもとで妻とひとり息子と離れ離れになってしまった恵三は、地蔵さんのように いつもニコニコ顔で、周りの人たちに訥々とながら優しい言葉をかける。
和顔愛語が 身に沁みついている。
弱さと不幸せの代名詞のような存在の恵三が、どうしてこんなに優しいのだろうか。

ほんとうの優しさは、伝播する。
まわりの人たちを優しくする。
この物語を読んで、そう確信した。

伝播する優しさの発信元には、わたしは 到底なれない。
優しい気持ちになるために、ほんとうの優しさにめぐりあいたい。
いや、とっくの昔に 有り余るほど めぐりあっていたのに、気づかなかっただけなのだ。

作者の森沢明夫氏が、自身のあとがきの最後に、こう述べている。
  人生は、ひたすら出会いと別れの連続です。
  どうせなら、別れがとことん淋しくなるように、
  出会った人とは親しく付き合っていきたいですし、
  そのためにも、
  いつか必ず訪れる別れのときを想いながら、
  自分の目の前に現れてくれた人との「一瞬のいま」を
  慈しみたいと思います。

小説『夏美のホタル』は、その「一瞬のいま」を わたしに気づかせてくれた。

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