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つれづれ

思いつくままに

キス・オブ・ファイア

2018-01-31 10:14:33 | 
丸善からの帰り道、たまたま立ち寄った喫茶店で耳にしたBGMが たまらなく懐かしい曲で、どこで知ったのだろうと 家にかえるまでずっと考えていました。
玄関をはいって、ふっと思い出しました。
八つ年上の長姉が、何べんも何べんもSPレコードをかけていた曲でした。
幼いころの耳が覚えていたんですね。

ジョージア・ギブスが唄う「キス・オブ・ファイア」が、その曲です。
YouTubeで確認しました。
わたしがこんなに懐かしく思うのだから、姉が聞いたらどんなに喜ぶことだろう と。

いま この長姉は、埼玉の老人ホームに入っています。
その長女、わたしの姪の顔すら、定かではないようです。
投函するのを迷いましたが、長姉を訪ねるときスマホでこの曲を聞かせてあげてくれないか との手紙を、姪宛てに送りました。

投函してから、後悔しました。
自分が訪ねて聞かせてあげればいいものを と。
勇気のないことです。

キス・オブ・ファイアを聴いています。
65年前にタイムスリップしています。
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昭和の店に惹かれる理由

2018-01-19 23:49:54 | 
今年から、なるべくアマゾンで本を買うのはよそうと思う。
本との出会いを大切にしたい、と思う。

ミシマ社という、小さな出版社がある。
代表者は、三島邦弘氏、1975年京都生まれ。
現在、東京自由が丘と京都川端丸太町下ルの二ヶ所に小さなオフィスを構え、『一冊の力』を信じ、「明るく面白い出版社」を目指して頑張っている。
応援したくなるような出版社だ。

この出版社刊の『昭和の店に惹かれる理由』は、フリーライター・井川直子が「尊敬できる」昭和の店を十軒選び抜いて、その店に惹かれる理由を 一言で表すキーワードを通して描く、ルポルタージュである。
この本の帯に書かれたキャッチコピーが、この本と出会うキッカケであった。
ーーー昭和の店には「覚悟」があります。誰かのせいにもしない「責任」も。それが世の中から消えそうな今だから、人はそこに通うのでしょう。ーーー

東芝をはじめ、大手企業の不祥事が続いた。
一番ショックだったのは、神戸製鋼のデータ不正であった。
神戸製鋼は、社会人になりかけの頃 就職したい会社の一つだったからだ。

日本の製造業を代表する これら問題会社の、いったい何が原因で、こんな不祥事が起こるのか。
同じものづくりに携わる者の一人として、しっかり捉えておきたい。
そのヒントが、『昭和の店に惹かれる理由』の中に見つけられるのではないか と。


著者・井川氏が、料理人の取材でシンガポールへ行った時のことである。

日本をお手本にして発展してきたこの街は、もう誰も日本なんて目指していないような気がするほど、眩しく見えた。
その頃の日本は「長引く不況」という言葉にも飽き飽きした頃で、みんな うつむき加減だった。
何よりも、著者自身が、自分たちの国を尊敬できないでいた。
そんなことを、中目黒と見紛うようなワインバーで ぼんやり考えていた時。

カウンターからすべてが見えるキッチンは よく片づけられ、清潔だったが、ふと レンジフードが目についた。
拭いてはいる。
けれど 隅のところに、丸く撫でた拭き跡が残っていた。
昭和10年代の両親をもつ著者にとって、「撫でる」と「拭く」とでは 明確に違っていた。
大人になった今、布巾の使い方にやかましかった母や祖母の真意を、あらためて分析してみる。

「拭く」とは、綺麗にしよう 清潔にしよう という意識と、セットでなければならないもの。
単に布巾を動かすだけなら、それは「拭く」にはならないのだ。

シンガポールの拭き跡で気づいたのは、そういうメンタリティこそが、資源のない国・日本の資源、つまり命綱だったんじゃないか。
戦争に負けても、石油や土地がなくても、メイド・イン・ジャパンのものづくりが 世界と渡り合っていけたのは、高い精度を真面目に求める心。
四角いところを四角く拭くような「きちんと」が、フォーマットに組み込まれている人々の仕事だからではなかったか。


そう、「きちんと」がフォーマットに組み込まれている人々が 少なくなったから、神戸製鋼のデータ不正のような不祥事が頻発するのではないか。
「きちんと」がフォーマットに組み込まれている人々は、いったい どこへ行ってしまったのか。


著者・井川氏は、福岡で取材した 老舗のモツ鍋屋を思い出す。

今では業者で処理済みのモツをそのまま使う店も多い中、その店は新鮮なモツを買い、自分たちでさらに三度徹底的に洗っていた。
なぜそこまでするのですか、と訊きながら、臭みが取れるという答えを半分想定していた著者に、この店の女将は あたりまえのように言った。
「人さまの口に入るものだからですよ」
その女将は、戦前生まれだった。
戦争中、街から食べるものがなくなり、ついに肉をさばいた後に残る「放る(捨てる)もん」だった内臓が回ってきた。
まだ温かい胃や腸を、子どもだった彼女は流水で洗う。
何十年経っても、忘れられない。
消化物のこびりついた内臓が、どんなに汚く臭いか。
それを安全においしく食べられるようにするためには、その前に、人の口に入れられるものにするには、「きちんと」洗わなければならない。

結局「臭みを取る」という目的には変りはないけれど、その根底に 何があるのか。
それを知る人の仕事は違う。
今、われわれがカット済みの野菜や切り身の魚でどんどんリアルから遠ざかっていくことは、根底にある何かを失うことかもしれない と、著者は思う。

人の手で洗う、磨く。
それは、除菌や消毒とは別の清潔感である。
すべての菌を悪として 強い兵器で悪を滅ぼすという 征服の発想ではなく、本来の姿に戻してやる、大切に扱うという共生の在り方。
万物への敬意のようなものを、著者はこのモツ鍋屋の取材で、ひしひしと感じたのである。


今、日本人は除菌には熱心だが、そこに「きちんと」の思想は見当たらない。
神戸製鋼の不祥事にも、この「きちんと」の思想は感じられない。
いちばん大事にしなければならない この思想が、日本のものづくりから 消え去ろうとしているのか。


著者・井川直子は、その思想を探して昭和の店をわたり歩く。
「昭和なんて、そんなにいい時代じゃなかったですよ」との声も 十二分に頭に入れながら、経済が目的化したこの経済社会にあって、「きちんと」した仕事をしている 昭和のお店を求めて。


『昭和の店に惹かれる理由』を読み終えて思う。
「きちんと」がフォーマットに組み込まれている人々は、まだまだ健在である。
彼らが生き延びられる適正規模というものが、存在するのかもしれない。
小さな規模でしか 生き延びられないのなら、小さくていいじゃないか。
日本のものづくりが 尊敬される国になるためには、まずそのリーダーが 誰のせいにもしない「覚悟」と「責任」を持たねばならない。
政界の大平正芳や財界の土光敏夫のような 尊敬できるリーダーは、まだまだこの国の市井にはいる。
見捨てたもんじゃない、と。

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実盛と義仲

2018-01-17 19:40:35 | 
芭蕉の句に、「むざんやな 兜の下の きりぎりす」というのがある。
“奥の細道” の途中、石川県小松市にある 多太(ただ)神社に立ち寄ったとき 詠んだ句である。
ここには、伝説の兜が奉納されている。

平安末期、源平合戦の真っ最中、兜の持ち主だった斎藤実盛は、平家の武将として戦っていた。
倶利伽羅峠の合戦で敗れ、加賀の篠原に陣を張って再び戦ったが、木曽義仲軍の前に総崩れとなった。
実盛は、老体に鞭打って踏みとどまり、奮闘して討ち死にする。
時に実盛73歳、覚悟の討ち死にであった。
老いを侮られぬように と、白髪を黒く染めての出陣であった。

義仲がその首を池で洗わせると、墨で塗った黒い髪がみるみる白くなり、幼い頃に命を救ってくれた実盛だとわかる。
義仲は、人目もはばからず涙したという。
後に、義仲が戦勝祈願のお礼と実盛の供養のために、多太神社に兜を奉納したのである。

この兜にまつわる実盛と義仲の話は、『平家物語』巻第七に「実盛」として語られている。


粟津、山代、山中、片山津の加賀温泉郷は、関西の奥座敷とも言われる。
いまは、北陸新幹線の開通に伴って 東京方面からのアクセスも便利になったが、関西人にとって 今も加賀温泉郷は、有馬温泉や城崎温泉に匹敵する親しみがある。
しかし 山中温泉の一部を除いて、かっての賑わいは いまの加賀温泉郷にはない。

片山津温泉のある柴山潟は、その6割が干拓された 寂しい湖である。
バンという真っ黒な鴨がいっぱい、冬の柴山潟に浮かんでいた。
実盛の首を洗ったという池が、この柴山潟の近くにある。

夕食までまだ少し時間があったので、宿から歩いて 実盛の「首洗池」を訪ねた。
この地方では“雪起こし”と呼ばれる冬の雷が、小雪混じりの寒雨を横殴りに吹き付ける風を呼び起こしていた。
潟から日本海に至る放水路、新堀川に沿って、風に逆らうように傘を斜め横に差しながら進む。
宿の人に聞いた「15分くらいのところ」は、半時間くらい歩いたように感じた。
あたりは、夕暮れの暗さになっていた。



「首洗池」の西側は小高い丘で、「手塚山」という。
実盛の首を取った手塚太郎光盛から、名付けられたのであろうか。
この手塚山側の麓に、実盛の首を膝に抱え 天を仰いで涙する、木曽義仲の像があった。
薄暗い夕暮れの雨に濡れて、その像は誘蛾灯の明かりに光っていた。



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プレバト冬麗戦

2018-01-06 17:39:51 | 
ダラダラと見るしかなかった正月のテレビで、4日放映の人気番組『プレバト』の 俳句部門『冬麗戦』には、引き込まれた。
名人・特待生だけのタイトル戦である。

お題は、まっ白な雪とまっ青な空だけの写真、『雪の地平線』。
発想がポンポン飛び出すお題でしょ!と、夏井いつき先生。
生徒は、梅沢富美男 名人7段、FUJIWARA藤本 名人6段、Kis-My-Ft2横尾 名人2段、フルーツポンチ村上 名人初段、NON STYLE石田 特待生2級、Kis-My-Ft2千賀 特待生2級、中田喜子 特待生3級、千原ジュニア 特待生5級、の8名。

結果は、大番狂わせの順位となる。
一位 Kis-My-Ft2千賀、二位 FUJIWARA藤本、三位 梅沢富美男、四位 中田喜子、五位 フルーツポンチ村上、六位 NON STYLE石田、七位 Kis-My-Ft2横尾、最下位 千原ジュニア。

コミッショナーの浜ちゃんが、絶妙の順位取りをする。
だから、見ている方もハラハラ。
生徒の8人は、もっとハラハラだったろう。
皆、ものすごく勉強しているに違いない。
レベルが高い8名の争いは、夏井先生の鋭い批評とあいまって、俳句心に乏しい者にも興味津々であった。

冗長を避けて、三位までの作品のみを 夏井先生の解説とともに紹介する。

一位の本命だった、三位の梅沢富美男作品から。
ざくざくと 空切りひらく 雪下ろし
夏井先生 : 陳腐なオノマトペ「ざくざく」を、ちゃんと神経を使った語順で しっかりと組み立てれば、新しい句として成立できる、という見本のような句です。ただ、発想が二位の句に比べて貧弱、完成度は高いが発展性のない句。

二位のFUJIWARA藤本の作品、夢があって ほのぼのと かわいい句。
船長の 側にペンギン 日向ぼこ
夏井先生 : 『雪の地平線』の写真で、ペンギンを考える人はいると思ったが、何が私にとってびっくりしたかと言うと…「日向ぼこ」は冬の季語ですね。この季語は、むしろ じいさんばあさんみたいなイメージが強い、それが南極ですよ これ。南極へ行ってる船長と南極のペンギンが 確かに日向ぼっこするなぁと思って、その発想の飛躍は 褒めるしかないでしょう。「側にペンギン」の極寒の地で「日向ぼこ」、驚きました。発想が本当にすごい、さすがです。

そして、一位の句、誰も一位になるとは考えなかった作者、Kis-My-Ft2千賀の句。
雪原や 星を指す 大樹の骸(むくろ)
「さぁ これは どういう句ですか?」との浜ちゃんの問いに答えて…
千賀 : 「雪原や」で お昼のイメージになるんです。その後に「星」がくる、ということは 夜のイメージになる。その後に 雪の中に大樹がある、二つの発想を この写真の中に入れてみたんです。「大樹の骸」が「星を指す」と言うのが、僕の中で こう、大樹が死ぬ前に 星に憧れて死んでいくという ちょっとロマンチックなイメージを最後に持っていって、映像を残したまま発想を転換する というのを、今回すごくこだわって作ってみました。
夏井先生 : 自分の句を とても理論的に解説できましたね。あなたは今まで、自分の句のいいところをきちんと説明できない人だったですもんねぇ。
千賀 : 今までずっと背伸びしてて、いろんな技術を入れ込んで、全然すなおな句が作れなくて、今回 ほんとに いままで自分の中で一番すなおな句なんです。
夏井先生 : まさかあなたの句とは 思わないじゃない、ほんとに。さぁ いいところをもう一回おさえますよ。「雪原や」、広〜い雪の原ですよ。「や」で強調します。昼だと思います。昼だと思ったら夜になる。そして「星を指す」、星を指している人物がいるのかナと思わせる。すると「大樹」、大樹が星を指すように そそり立っている。だと思った瞬間に それは「枯れた骸」であると分かる。一語一語出てくる度に、光景が少しづつ動きながら、全部読み終わると、清浄とした冷たい世界の中に 大樹と星とが 美しい絵画のように一枚に入っていきますね。しかも調べも 5,5,7 なんです。この 5,5,7 という調べが 実は、美しい緊張感を一句の中に編みだしているんです。よく勉強したことを丁寧に…よくやった! あんたが泣くから、もらい泣きしちゃった。頑張った子は、偉い。ほんとうにエライ! 文句なしの一位ですよ。おめでとう!

千賀くんの 切れ長の細い目に、涙が溢れる。
目指す大学の入試に みごと合格したような、心底からの うれし涙。
爽やかである。
若いって、いいですね。
わたしも 思わず、もらい泣きしていた。
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