読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『還れぬ家』

2023年10月22日 | 作家サ行
佐伯一麦『還れぬ家』(2013年、新潮社)

認知症が始まった父親と、彼を取りまく母親や「私」や妻の日常を父親の死まで描いた私小説。

昨日の『朝日新聞』のなんでも相談室みたいなコーナーに50歳代の女性がこんな内容の投稿をしていた。自分の母親は認知症で、娘である私のことも孫のこともわからなくなり、たぶん自分自身のこともわからなくなっているのではないか、そんな母親にやっと面会できたが、そんなふうになった祖母を見て、娘が「こんなになってまで生きていたくない」と言ったのでショックを受けて、「そんなことを言うものではない」と諌めたが、心のなかでは自分も同じことを考えていた。どうしたらいいのだろうか、というものだった。

回答者の姜尚中は、人間の命は自分で決めることができない、人生をまっとうするのが人間としての努めだから、みたいなことを答えていたが、この小説でも描かれているような悲惨な老後を果たしてまっとうしなければならないのかどうか、そもそもそんなことももうわからなくなってしまっているのに。

本当に尊厳死というものを真面目に検討しなければならない時代になっていると思う。つまりそのための法的な整備をしなければならないという意味だ。一番厄介なのは、認知症によって、まったく判断ができなくなってしまった場合だろう。そうなる前に自分の意思表示をしておくにしても、そこで指示された状態が今の状態だと判断するのは他人になるからだ。

これから十年先・二十年先の日本は、病院や施設に入ることができなくて、自宅でのたうち回って死ぬという人が続出することになるのではないか。まぁ自分ひとりのことなら、それもいいかと思うが、やはり身内がそういう事態になるのは、つらいだろう。

すでに人口の三分の一が65歳以上。ピラミッド型どころか、寸胴鍋型の人口配分になっている。最近では、身内が惜しんでくれるうちに、早く死ぬのが一番いいという考えになってきた。

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