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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

「感動ポルノ」と向き合う 障害者像にひそむ差別と排除②

2024年09月12日 | 現代の病理
『「感動ポルノ」と向き合う 障害者像にひそむ差別と排除』(岩波ブックレット・2022/1/7・好井裕明著)からの転載です。


リハビリテーションを賞賛するドラマから

 もう一つの事例です。新型コロナウィルスの感染拡大がまだ日本で起こっていなかった頃、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けての機運を盛り上げるドラマがテレビで放送されました。
 『太陽を愛したひと~1964あの日のパラリンピック~』(2018年8月22日放送、NHK)です。一九六四年に開催されたパラリンピックを中心的に推進した医師が主人公のドラマです。ドラマでは障害者がどのような状況で生きていたのかが、まず描かれています。当時は、障害者の自立についての意識や取り組みがまだまだ不十分な状況でした。整形外科医の主人公は、一九六〇年、研修先のイギリスで、スポーツを取り入れた障害者医療と出会います。彼は、車いすでバスケットボールに興じている障害者たちの熱気と活気に驚きます。そしてその熱気や活気を引き出しだのが、リハビリテーションという発想と治療であると現場の医師に教えられるのです。
 失った能力を嘆いても仕方がない。残っている能力を磨き、新たな生活や人生を拓いていくことこそ重要だと。失ったものを数えるな、残っているものを最大限に活かせ。その時出会った言葉が、彼のその後の人生を動かす力となりました。
 主人公は帰国し、自分か見てきた現実を日本でも作ろうと考え障害者スポーツの普及に奔走します。しかし当時はリハビリという言葉すらなかった時代です。同僚医師の冷たい言葉や無理解、家族や親族の諦めや怒り、障害を負った当人の諦めや怒り、抵抗などに直面します。しかし主人公はくじけません。彼の本気の思いに少しずつ共鳴し頑張ろうとする少年との出会いをきっかけとして、彼は車いずバスケットボールを少しずつ普及させ、リハビリテーションの治療も実現していくのです。
 その後、主人公は、見世物にするなという障害者家族の反対も含めた社会の無理解に粘り強く対応し、一九六四年の第二同パラリンピックとなる東京パラリンピックを成功に導くのです。
 ドラマはいい出来だと思います。なるほど、いま華やかに紹介されているパラスポーツや障害者アスリートたちの原点はここにあったのか、医師の本気とそれに応えようとする障害当事者の懸命な努力にあったのか、と多くの人は感動することでしょう。(つづく)
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