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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

不便益のススメ⑦

2022年03月11日 | 現代の病理

『不便益のススメ: 新しいデザインを求めて 』⑦(2019/2/21・川上浩司著)の続きです。

 

 

不便益8種類の益

 

⑦ 私だけ感

 便利なものより不便なもののほうが、パーソナライゼーションを与えてくれる場合が多いです。このことを、不便益の一つに数えます。

ここで言うパーソナライズとは、D.A.ノーマンが『エモーショナルデザイン』で語った内容に準じます。

ノーマンは認知科学者であり、彼が『The Psychology of  Everydky Things』で提唱した人間中心設計は、機能性よりも使い勝手を重ネ見するデザインであり、今や世界のデザイナーで知らない者はいません。彼は,パーツナライズの例としてカップの汚れや家具の配置を挙げます。

 デザイナーがあらかじめ用意した選択肢の組み合わせを選ぶカスタマイゼーションとは違って、ユーザーとモノとのイッタラクションの痕跡として、ユーザーに「私だけ」のものと思わせるようになることを、パーソナライゼーションと呼びます。

 便利なオートマ車よりも手間のかかるマニュアル車のほうが、独自の運転を編み出しやすいです。不便な500円制約という不便があってこそ、選び抜いた遠足のおやつは、自分ならではのお菓子の組み合わせになります。服が汚れたりかすれたりすることは、一般には不便なことです。しかし、たとえばジーパンのかすれなど、自分が使い込んだインタラクションの痕跡ならば、美しくさえあります。便利な電子辞書ではなく紕の辞書でなければ、使い込んだ跡であるクタクタ感が得られません。

 

不便益8種類の益

 

⑧ 書能力低下を防ぐ

 便利な方式より不便な方式のほうが、人の能力低下を防ぐ場合が多いです.このことを不便益の一つに数えます。

 便利なバリアフリーではなく、意図的に段差や階段を住環境に組み入れるバリアアリーは、身体能力低下の速度を緩めると言われます。便利な電動車椅子ではなく、後述します自分の足でこがねばならない足こぎ車椅子に、リノヽビリ効果が期待されています。

 

懐古趣味でもなく,便利を否定するでもなく

 「不便益」は,便利さに囲まれた生活へのアンチテーゼで、も。「昔は良かった」といったノスタルジーでもありません。「不便だけど、我慢をすれば良いことがある」といった妥協ではなく、「不便だからこそ,良いことがある」という前向きな考え方をすることも特徴です。

 とはいえ、「ノスタルジーではない」という表現も誤解を招きやすいところがあります。「昔は良かった、あの頃に戻りたい」というところで思考が止まってしまうのは単なるノスタルジーです。「なんで昔は良かったの?」とその理由を掘り下げで考え、もしそこに「不便の益」があれば、これからのモノ・コトのデザインに活かしていく。こうした前向きで未来志向の考え方をしていくのであれば、ノスタルジーも不便益デザインを考えるための取っかかりの一つになります。

 

便利は人をダメにする

 便利は人の能力を衰えさせるという忠告は、様々なところで耳にします。講義で板書する時に漢字が思い出せず、「自分がバカになっている? ワープロ症候群だ」と思うことがあります。非常時には動物としての能力が問われ、電気が止まると何もできない。携帯電話がないと途方に暮れるという状況に危機感が募ります。

 ただ、不便益は「日常的に非常時に備える訓練をすべきで、そのために不便な生活をしよう」と主張するものではありません。結果的に、不便の効用を知る生活は、(ちょっとだけ)備えになるかもしれませんけど。(おわり)

 

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