超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

空洞です/ゆらゆら帝国

2011-11-14 19:20:52 | 音楽(名盤レビュー)





またも1ヶ月ぶりの名盤レビューです。今回はゆらゆら帝国の「空洞です」を7回目として。




このアルバムが出てから4年経ちますけど、4年も経つと心身も身の回りの状況も
それなりに変わったり
変わらなかったり経験も良くも悪くも重ねて、色々と感受性の違いもあの頃と比べて出てきますけど
特にこのアルバムは初めて聴いた時と今では印象が全然違っていて
当時はものめずらしい作品っていうか
変り種って感覚で捉えてたものが
今ではすっかり「身に沁みる」アルバムになってしまった、というか
それは言い方を変えると心が擦れてきた、って事なんでしょうけども(笑)。ただまあ、どう考えても
ある程度年代を重ねた方が歌詞の意味も分かってくるから経験してる事が殆どになってくから
その意味じゃ音楽って歳を重ねてからが本番なのかもしれないですねえ。
若い時は若い時の捉え方があるんでしょうけど
それもまた比較出来て面白い事には間違いないですね。

哀しい音楽に楽しい音楽、愛のある音楽に怒りを露わにした音楽・・・そんな感情表現が
音楽の大きな醍醐味って言うならば
このアルバムは哀しくもないし楽しくもない、愛もなければ怒りもない、完全なる空虚だとか
空しさの塊のような音楽で、その中間っぷりだとか、どこにも当てはまらない感覚っていうのは
正にオルタナティヴ以外の何者でもないんですが
そんな暖簾に腕押し感覚だったり
心に渦巻く虚無感や
色々な感情を諦めて放棄する気持ちだったり、
他では得られない独特のカタルシスが詰まってるのがこのアルバムであり
Syrup16gとはまた違ったやるせなさだったり空っぽな感情の移ろいが表現されてるのが
この「空洞です」っていう名盤なんだと今は感じます。
無気力無感情無感動その他諸々
ここまで究極的に空虚で素晴らしい音楽っていうものは他にはないとあくまで経験上ですが断言出来ます。
本音を出せば無条件に軋轢を生む日常なだけに
本音だらけの世界に浸るのが快感みたいな。そういう風に形容はしつつも、結局は音楽は
音を楽しむものでしかないので、結果的に楽しんでいるのは間違いないと思う。
行き場のない気持ちをここまで表現し尽くした音楽は貴重ですからね。



「何も求めず 何も期待せず
 全てをあきらめたあとで まだまだ続く」 (おはようまだやろう)

「適度にフリーな奴隷が俺だよ お前だってそう」 (できない)

「楽しみもなく 悲しみもなく
 なんとなく夢を 求めている」 (なんとなく夢を)

「純粋なクソがいい」 (美しい)

「意味を求めて無意味なものがない」 (空洞です)


このアルバムの中で特に好きなフレーズたち。
やりきれない感情や
ただ思うだけで変わらない事実、全部どうでもいいやって思う気持ち
投げやり・自棄・諦め・放棄・思考停止その他諸々
全ての無力感を詰め込んで
一まとめにして
その代表格とも言える作品を作り上げたポテンシャルは見事。こういう音楽が何をもたらすかって言うと
感情の発散、行き場のない気持ちの行き場、一時的な精神の拠り所、そこからまた次に向かう気持ち。
マイナスやゼロが聴き手に与えるものって
実はプラスになってると思うんですね。
マイナスをマイナスにぶつけて相殺され
ゼロにゼロを加えると
そこに何かが生まれる、っていう。その何かは人それぞれですけど、そこで得たものは大きくて
音楽の中で本音でぶつかれた事は大きくて、それが生きがいになって生きていける、という。
所詮娯楽だと言われればその通りですし
事実娯楽だとも思いますが
それが受け手に与える力は時に大きく、時にはヒントになり得て・・・そういう生き方も感じ方も悪くはない。
何もかも捨てたい、目の前の持ち物をぶちまけたいって思うのは
ある種何かを強く願う気持ちがあるからでして・・・。

それが証拠に、このアルバムには前述の形容に当てはまらない曲が2曲ほど入っています。
「まだ生きている」と「ひとりぼっちの人工衛星」。
前者はそんな自分でも
まだ感じれるものがある、受ける印象がある誰かの声も響くと
そんな残り物に歓喜するような歌で
後者は「静まれ暴力 静まれ意味のない争い」と現状からの脱却を願う曲で
それもまたリアルっていうか
空っぽの状態だったとしても、まだ捨て切れてない部分があるのがとても人間らしくて
素敵なスパイスとして効いてるとも思います。
完全に空っぽな人間なんていないけど
そうやって孤独や無意味に苛まれた時にこそ、心に強く作用するような・・・
そんな唯一無二の効能がとてもいとおしく、頼りにもなるアルバム。って事をここ最近聴いてて強く思いました。


ファンならご存知の通り、このアルバムで完成してしまった為に、事実上のラストアルバムになった訳ですが
その時のファンの反応を一通り当時チェックしてたら納得する意見が多数のように見えて
自他共に認めるゆらゆら帝国の到達点だったんだなあ・・・と
当時も今もしみじみ思います。
同時に、表現に対して妥協のない、必要以上にストイックなその姿勢にもまた
音楽とは関係のない部分ですが感銘を受けるのでした。
オルタナティヴ・ロックのファンにも是非薦めたい、薦めなくても聴くかもしれませんが
個人的にはこういう音楽の良さもあるんだよ、って風にその他大勢の音楽ファンにも薦めたいような・・・
そんな完全にキャラクターの立っている、目的をやり切れた傑作アルバムですね。
ちなみに先行シングル「美しい」は
シングルでは大きくアレンジが違っていて、アルバムオンリーの方にも是非そちらも聴いてみて欲しい所ですね。
「なんとなく夢を」も同じく。
気持ちからっぽな時には劇薬のように作用する、そんなアルバムです。「空洞です」は。





ちなみに、これの前作のアルバム「Sweet Spot」も個人的には大好きなアルバム。
以前レビューも書いたので、興味があれば是非。
Sweet Spot/ゆらゆら帝国
特に「ソフトに死んでいる」は」名曲中の名曲ですね。




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