田中ユタカ「初愛3~はつあい~」読了。
田中ユタカさんは昔から憧れの作家さんです
憧れというか、様々な思想やキャラの生き方に影響を受けてきた感覚が私の中ではありますし
どの時代のどのキャラクターも昔も今も自分の中でしっかりと息づいています
それは田中さんが過去作の後書きで語っていた「戦車に踏み潰されても殺されないもの」の一つであり
ピストルを突き付けられても「YES」と答えられるくらいに強い強い感情であります
完全に影響を受け切っています
私はネット上でこういう風に作品のレビュー・応援をするのが好きな人間なんですが
いつも消えないくらい強い想いを、手前の永遠の感情を吐き出せるように、と思いながら書いてます
それは間違いなく田中ユタカ作品を読んで影響を受けたことで更に膨らみ強くなった感情です
人生に於ける様々なポイントで田中さんの漫画の台詞が浮かんでくるくらい好きです
どこまでも誠実で、無駄な達観がなくて、目の前の「好き」に無我夢中で。
そういう他者に対して「誠実であろうとする気持ち」がこの3巻にはたくさん詰まってるんですね。
お互いがお互いを強く想い合い、不安や恥じらいをものともせず「二人の幸せ」に邁進していく
成年漫画の場合「苦手な人は~」って前置きをたまに付けるんですが
正直この作品にはそういう文句は似合いませんね
というか、出来れば偏見とか捨てて素直に読んで感動してもらいたいくらいに心洗われる作品集になってます
大人になって失ってしまった初めての気持ちや誠実な感情の気持ち良さを再び取り戻せるような作品たち
「行為」そのものを深く掘り下げている方向性は独自性に溢れている上に原始的な良さがあります
もはや漫画というか、「田中ユタカ」っていうジャンルのようにも個人的には思えるくらい。
自然と襟元を正したくなるような純然たる愛情の結晶、
「誰かを想う」ということは掛け値なく素晴らしく豊かなことだと信じ切っているような姿勢に感銘を受けました
登場人物たちの「好き」って感情がこれ以上ないくらい強い形で伝わって来る作劇に何度も感動出来る
今回もまた珠玉の作品集に仕上がってるなと私的には感じましたね。色々と涙線に来ました。
全話レビューします。
■第1章 初愛しようよ
特別な間柄ではない
所謂幼馴染でも同級生でもない、運命の出会いでもない
とてもありふれていて普通の二人
でも、そんなありふれている境遇がどうでも良くなるくらいにそこには「好き」が溢れている
ドラマチックさや運命に負けないくらいに人は理屈じゃない幸せを感じる事が出来る、という好例ですね
相手がイケメンだとか凄い金持ちだとかそういう打算に負けない誠実で無償の愛情表現が大好きです
誰だって、普遍的だって、とてつもない幸せや豊かさを感じる事は出来るものなんだ
そういう事実が描かれているような気がしてとても好きな短編です
指で、口で、身体で「心」を相手に伝える~っていう表現もいいなあ、と思いますね
普段は見えないものだけど実は形にする事だって出来るんだ、という。
あとこの作品は二人とも多少はしゃいでる風に見えるんですが
その初々しさ、限りなく幸せな香りもまた読んでいて楽しかったですね
ラストの表情もまた美しくて、可愛いです。
■第2章 こわくない
あかりちゃん可愛いなあ・・・っていうのが第1印象ですね
あんまり田中ユタカ作品では見ないタイプというか新鮮な感じです
田中ユタカさんはキャリアはかなり長いですが未だに絵柄が古くなってません
それは常に研鑽を重ねてるからなんだろうなあ、とか思いつつ
あかりちゃんが可愛い以上に
あかりちゃんを宝物のように思うシロくんの気持ちに個人的には心打たれました
行為中の描写からも「いたわり」や「気遣い」がしっかりと伝わって来るのがいいですね
おまけにされてるだけじゃなくあかりちゃんからも求めて一緒にひとつになる感覚も良かったです
彼女も彼女で成長してるんだなあ、って感じがして。
シロくんのドキンドキンを受け止めてる時の表情がまた色っぽくてイイですね。情感たっぷり。
■第3章 ジャージな彼女
これ個人的にすごく好きです
男からみた女子というものが端的に描かれてるなあ、と
そして確かにジャージ姿もこれはこれでちんまりしてて可愛いんですよね
主人公が落ち込みながらキスとかしない~って語った後のせわしない反応が良かった。
決して記号ではない作中で生きているキャラクターがそこにいるような感覚が好き
「バカ者」ってセリフも印象的かつ可愛さの演出に貢献してるな、と
サバサバしてるようで実は彼想いなのが堪らなかったですね。
■第4章 たいせつなもの
悠紀さんも好きだなあ(笑)。
なんでしょうね、若々しいからこその初々しい恋愛模様も大好きですけど
逆に年齢を重ねた人間の初々しい気持ちに触れるのもなんだか微笑ましくて大好きです
助走が長かったからこそ、むしろ感動出来る感覚というか・・・
ようやく女になれた悠紀さんの様子を眺めてるだけでニヤニヤ出来ました
こういういかにも大人な女性が結構ウブ~っていうのに自分は弱いです。
それと、悠紀さんは結構おちゃめな部分が多々あってコメディ的にも面白かったですね
「女の子ですとも」の表情なんか個人的にかなりツボでした
女の子はどこまで行っても女の子
男の子もどこまで行っても男の子
若さ、は身体的な事だけではないんだなというのがよく分かる短編に仕上がっています
この作品も男側がすごく誠実で見ていてハッとさせられます
「選んでくれてありがとう」
「男として最高にしあわせ」
達観とか妥協とかいう言葉が馬鹿らしくなるくらいに「純」な感情が描かれてるのにグッと来る
個人的に読んでいてこれくらい誠実な人間でありたいな、と思えるのが実に素敵です。
これくらい互いが強く惹かれあうような関係性が好き。
■第5章 ママゴトみたいな
これもまた素敵な作品だなあ
最後の嬉し恥ずかしいようなベタな空気が好きです
個人的にこれまで生きていていちばんうれしかった、とか
そういう台詞回しにいちいちグッと来ちゃうんですよね
それが「当たり前」「順当」ではなく
心から喜んで大切な糧にするような清々しい感情に心が洗われた気分になります
「ふたりで一緒に朝の空をみたい」
二人で色々なものをみたい、
二人で色々な場所に行きたい
二人の幸せに関して自覚的でありたい・・・という
能動的な気持ちが垣間見れるのもまた読んでて心証良かったです
どっちかが素敵、ではなく、どっちも素敵、なのが田中ユタカ作品の良い部分ですね
観ていて晴れやかな気分にもなれます。
それにしても「好きな人のいのちが~」のシーンはこっちも泣きそうになりますね(笑
なんつーか、もう、健気過ぎて本気でいとおしい気持ちになってしまいます。
健気なのって手放しで素晴らしいことのように思える。
■第6章 愛し合ってるんだもん!!
読んでると男性器が神聖なもののように思えてきます
女性からみた男性器の心証・・・考えてみれば生命の源ですもんね
決してギャグで使っていいような代物ではない、と同時に
そこすら丁寧に掘り下げて昇華してしまうセンスに脱帽
男をイカせて不敵に微笑む彼女の笑顔は確かに官能的、だけど同じくらいキュートでした。
ラストのラブラブな空気もまた読んでて微笑ましいですね。愛し合うのに余計な邪念は必要ない。
■第7章 「しあわせ」と彼女は言った
これは傑作・・・ですが
この作品の中では唯一毛色が違います
もう既に亡くなっている恋人との思い出に浸っている話ですね
その様子は物悲しく過去の憂いを含んだ叙情的な作品に近い仕上がりで
昔からのファンはきっとこういうものも待っていたと思う
何より、既にこの世にいないからこそ
その時の繊細な手触りや表情、感情が蘇って読み手にも伝わって来る
そういう塩梅も非常に素晴らしい作品 確かに彼女はいなくなったけど
大切な思い出が今も自分を落ち込ませると同時に突き動かしてくれるのもまた事実
最後に立ち上がった青年の姿にもまた胸を熱くしてしまう最高の作品ですね
素敵な瞬間は記憶の中で永遠に生き続ける・・・
そんな事実がありありと届く作品です。
その思い出の美しさにこれまた涙腺揺さぶられる漫画。
えっちいのを純粋に悦ぶ姿とか、エロい笑顔という言葉の通りの彼女の表情がとても活き活きしてますね
悲恋だからこそ逆に活き活きとしたシーンを描くことにより寂しさが増す演出も優れてたと思う
今作の中で一二を争うくらいに好きで印象に残る作品です。
最後の台詞がまた気持ち泣けるんだな・・・。
きれいごとかもしれないけど、きっと彼女は側で泣いてくれてたんだと思います。そう信じていたい。
■第8章 生きていてよかった
珍しく男子がちょっとゴツめのサバサバした人でこういうのもまた新鮮ですし
何気に照れ屋な性格も見ていて有り体にニヤニヤ出来て素敵でした
告白をした方がドキドキするだけじゃなく、
告白された方も泣いちゃうくらい嬉しかった、っていう
今時信じられないくらい純な気持ちに感動しちゃいますね
自殺したいと思ったときもあった
幸せなだけの人生では決してなかった
でも今はこうやって誰かと愛し合う事が出来る
だから、生きていて良かった
この瞬間に立ち会えて良かった
これまでの辛さを忘れるくらいの多幸感に溺れる事が出来る豊かな気持ち・・・
それはこの本の登場人物全般にも言えることでありさり気にまとめになっている気もしました
「わたしは人を愛せます。」
「わたしは人を愛せます。」
「わたしは人を愛せます。」
愛されない、とか、孤独、とかじゃなくて
「愛せます。」という考え方がとても心にきました
なんだか「愛人」のイクルくんの台詞を思い出してそれにもまたグッと来ちゃったな
立派な部屋以上に生活の中で抱かれたい、という気持ちは「好きのリフレイン」を彷彿とさせます
「行為」に対する明確な答えを理屈じゃなく感覚で出せてるのがとても堪らない一作です。
色々書いたけど、結局はただ単に私はこの本が大好きで読み続ける、
それが言いたいことのすべてですし読めばこの作品の誠実さは必ず伝わると信じています
読み終えた後、少し優しい気分になれるような、心の擦れた部分が元通りになっていくような・・・
そういう掛け替えのないピュアネスが宿っている相応の傑作です。
出来るだけ、届いて欲しい。
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