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超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

田中ユタカ「初夜2」 全話レビュー

2011-05-15 19:52:31 | 田中ユタカ






先日、田中ユタカの「初夜2」を真夜中に読み耽っていたら、久々だったって事もあって
いくつかの話で涙を流してしまった。
人間年を取ると段々涙もろくなっていく、とは良く聞くが
自分の場合でもさほど例外ではなかったらしい。まあ元々田中ユタカ作品ではよく泣かされるんですけど。

このブログを立ち上げた時の目標の一つとして、彼の漫画を、多大な影響を受けた彼の作品を
出来れば全作品レビューしたいと考えていて
その準備がようやく整った感じがするので、ここから今始めます。
ペース的にはすっごく遅くなると思うけど、これもまた最後までやり遂げるつもり。

もちろん新作のレビューもやりたいです。早く読みたいな。





これは10年前に出た本なんですが、今でも通用する絵柄とお話だと思います。
そもそもが成年漫画って表現自体が軽んじられている現在だからこそ(といっても実情は知らないが)
是非読んで頂きたいお話です。
体と体を繋ぐ事は、こんなにも温かくて、しっかりと意味のあることなんだと。
例えそれが幻想だとしても、ね。
こういう系統の作品としてはお手本のような短編集なのではないでしょうか。本当に傑作揃いで。
 ちなみに「田中ユタカ」ってカテゴリーを昔から用意してあるので、そこに配置。かつ成年作品なので注意。
では以下。




■夏物語。

「なんにも ブラブラしてるだけ ほぼ廃人」

「この歳で廃人かぁ」


無気力な若者・・・とはよく聞く文句ですが
当の本人たちにとっては、最初から無気力でありたかった訳じゃない。
様々な理由や、出来不出来による倦怠感だったり、負けに至った理由はいくらでもある。
そこから逃れようとしても、一時的な現実逃避に他ならない。
そんな状況を救うのは
誰かとの意志の疎通。分かち合い。
そんな根本的な人間の喜びが描かれている作品ですね。裸ではしゃぎあうシーンがまた無邪気で良い。

にしても夏のダルさや倦怠感は半端ではないですよね。
思考する事すら失いそうになる「あの感覚」。
それがこの漫画では大いに表現されています。それがまた好きです。好きと言うか沁みる感じで。



■恋の泡

「胸血だらけね 
 
 よかったね すてきな恋をしたんだね」


この作品で泣きました。
っていうのも上記のセリフがよく分かるっていうか・・・。
誰かに傷つけられた時、裏切られた時に畜生とか悔しいって思って泣きそうになるのは
逆に言えばそれだけ自分にとって大きな存在だった、っていう事実の確認にもなる訳で
皮肉にもそういう所で自分がどれだけ本気だったのかを思い知らされる、っていう。

でも、実際の所誰も悪くない。
本当に悪い人なんて誰も居なかった。
だからこそ、辛い。
泡みたいにキレイさっぱり消えてしまう想い。
何一つ残らないのはもっと辛い。
その為に・・・傷の確認作業っていうのは必要なのかもしれませんね。メソメソも必要だ。



■一緒に暮らそう

「おまえと生きていく」


一見素朴な生活物語。
でもその実、一つ一つの出来事が大切で真剣で。
中でも最重要なのが愛情の確認な訳ですが
涙を流し
叫び
名を呼び合って
絶頂に達する。何気なくも、命懸けの行為だ。それが思いっきり描かれている秀作。

生活に関しての覚悟も伝わって来ます。



■ふたりの日曜日

「だってねあたし 生まれてはじめて・・・ひとりじゃないって安心した!!」


名言多すぎる・・・
なんかもういちいちハッとさせられるというか、
こういうことだったんですね、的な。目からうろこの連続です。
しかもそれが考えてではなく
自然に出てきている(っぽい)所がまた最高ですね。
奇抜な設定や過激さがなくても、普通にしてるだけで物語はここまで面白いんだな。



■ハッピー・デート

「いつもぜんぜん手加減できなくなって 思いっきり 愛してしまう!!」


愛してしまう!!・・・じゃねーよ(笑)。と思いつつ、これも傑作ですよねえ。
ラブラブなだけ、愛し合ってるだけ
それだけでこんなにも温かい気持ちになれる。
お互いを隅から隅まで愛す、それによって生まれる幸福感、それだけでいい。
それだけがいい。

にしても、冒頭のカラーページの描写がことごとく私のストライクゾーンに入りまくり。



■きれいなおねえさん

「子供のころ 将来自分はいったい何になるんだろうとドキドキした」

「何かになれるかもしれないとドキドキした」


「ボクはいったい何になったんだろうか?」


何になった?
そう問われれば、正直何とも答えられないのは明白で
正直な話何者にもなっていない。
自分は結局自分のままで。
自分が嫌いな自分のままで。
そんな空しい気持ちが表現されている一作。これはどうしようもなくきてしまう。

幼い頃に感じた憧れだったり、生々しい気持ちだったり。
その描写の素晴らしさもさることながら
足りないもの同士がくっついて一つになる、って描写の儚さも表現されているのが
2重に素晴らしいと思います。
単なる幼馴染物語に収まってないのが素敵ですね。奥深いです。グッと来ます。



■西瓜の女

「小さな小さな 生まれたばかりの子供のような泣き声を ボクは聞いた」


これは大傑作ですね。
泣きました。
手放しで好きって言いまくりたいです。
そのくらい大切で濃厚な物語。トーン自体は暗いものの、描かれているのは間違いなく愛。
最後に笑顔で戻ってきてくれた彼女の笑顔が眩しすぎる。嬉しすぎる。
憑き物が落ちたみたいだ。

割と成年漫画といえば・・・ってイメージを覆す一作だと思います。
明るくもないし
単純でもない
かといってサービス目当ての作品でもない
どこにも当てはまらないような、そんな奇抜で美しく、ある意味で醜い作品。
でもだからこそ心に残るんでしょうけど。
大人の方がある意味ガキだったりします。
それを実感する今日この頃です。

この作品も「夏」の描写が素晴らしいですね。眺めているだけで郷愁を感じる。
本当に名作と言って差し支えない出来でしょう。
盲目的かもしれませんが、本音のつもり。




成年漫画=シリアス禁止みたいなイメージってあると思いますが
そんな固定観念を覆すのが彼の作品。

辛気臭い描写もペーソスも出まくりなんですが
それでも結局は愛だとか歓びだったりが最後に残る所がより素晴らしくて
その完成度の高さにはいつも舌を巻きます。
同時に物語り自体は未完成なんですよね。どの話もこれからこれから、っていう。
だからこそより先も楽しめるし、一本一本を丁寧に描いてるので使い捨て感もない。
そんな彼の傑作ばかりが詰め込まれている巻、という事で
読み応えもひとしおな「初夜2」でございます。
この人の作品のお陰で色々と偏見がなくなりました。そのきっかけとしては申し分ない一冊です。

彼の作品は言葉にし辛い部分もありますが、それでもコンスタントに語っていきたいと思います。




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