超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

カジツ/Qomolangma Tomato

2012-08-31 21:51:56 | 音楽





「無力と無関心は違う」 (スパイラル)







前作が大好きだったので、初め聴いた時は「ポップになってる?」って
若干違和感を受けてたんですけど
気が付いたら最近特にリピート数の多いアルバムになっていた、という・・・
中々スルメ的なアルバムでございます。
チョモランマトマトは、これまでは過剰な咆哮だったり濃すぎるくらいのオルタナ臭を撒き散らすバンドで
だからこそ、全体的にツルッとしていて気負い無く聴ける今作が異端に映った訳ですけど
じゃあ詞もポップになってるのか?って言えば間違いなく違う
どころか
少年青年が抱えるモヤモヤ感の表現はこれ以上なく肥大しているようにも思える
前作はもう少しシンプルな歌詞もあったように思うんですけど、このアルバムの歌詞に関しては
シンプルさなんてものはなく、殆どが焦燥感だったり温度差だったり、闇の部分を突き詰めたものばかり
逆に言えば楽観的になり切れない、安易な希望妥協を疑ってしまう人間にとっては
聴くだけで処方箋になり得るような楽曲ばかりですけど。
それが、沁みるんですよね。
「このままでいい」なんて思いながら暮らしてる訳ではないですから。
甘えた自分のケツを叩いてくれる音楽と言いますか、岩崎慧的に言えば正に「あったかいパンチ」ですよ。
本当にそれでいいのか?その選択や価値観は正しいのか?って問いかける言葉の数々には
頷いたり、でも全部が全部理解出来る訳でもなかったり
だからこそ楽しく聴けたり・・・
音はポップに、聴きやすいポストロック的なサウンドが多目のアルバムですが
時間を掛けて歌詞を咀嚼したり、自分なりに音を噛み砕いてみると味わい深い作品である事に気づく
初めは勿論戸惑った部分も多いんですが、今となっては過去作に負けないくらい好きな作品
買ってすぐにレビューを書かないで良かったです。
すぐ浸透するにこしたことはないけど
段々分かって深く聴けるアルバムも重要だし、
そうなっちゃえばぶっちゃけ他作品との差異なんてないよね。
と、言う訳でポップな音像ながら腰を据えて向き合える楽曲ばかりのアルバム
個人的に心から推したいタイトルの一つであります。

あ、勿論未体験的にはすっごく入りやすい作品です。メロディラインがどの曲もきれいだし。



「均一で効率的な安心を求めた
 集合的無意識は危険さ」 (AN ALLERGY TO THE FUTURE)

「誰か コンプレックスを解除して」 (翌朝)

「苛立ちの中で足元を滑らせてる」 (恐るべき子供たち)

「空気読むってそういうことかい
 死ねってぼくに言ってんのかい」 (NO TOKYO)

「無味無臭の風をいつまで胸に吹かすの?」 (目眩がして)

「君に自慢できること 少なくなってきた」 (プレイロット)


チョモランマトマトの歌詞って俗に言う「良い歌詞」っていうよりも
「障りのある歌詞」というか、物凄い危機意識と思考の中に身を置くような切迫感があって
一般的に言われる「良い歌詞」っていうものが聴き手に安心と快感を与えるものだとすれば
チョモはその真逆で、
でも、本当に胸に突き刺さるのはどっちか?って言えば
個人的には間違いなくチョモランマトマトの歌詞なんですよね。
それは自分の世代的なものもありますけど、
やっぱり「大丈夫だよ」なんて歌われても決して「うん、そうか」なんて思えないっちゅうか
前述の歌詞にもあるように他人と比べて良い部分も削れていくし
当たり障りのない考えが自分の中で蔓延してる中で
「お前、それで本当に大丈夫なのか?」って指摘してもらえる、っていうかね。
それも、メッセージなんてもんじゃなく
歌い手の実体験的な要素の強い歌詞ですから
押し付けなんてものでもない、等身大のモヤモヤ感ばかりが並べられてるので
同じくモヤモヤばかりを抱えて生きてる人間にとっては、響かない訳もないという。
コンプレックスは子供の時よりも大人のが肥大していく印象ですけど
その中で何を見て何を考えて生きるのか
勿論答えは自分で探さなきゃ、だけど
そこに向かうまでの糧やちょっとしたヒントになるような・・・自分にとってはそういう音楽ですね。
悩んで迷って苦しんで、のた打ち回って足掻くからこそ、逆に満たされるとも言える。
焦燥感や危機意識の他にもちょっとした「納得」が混じっているという
その塩梅も個人的には大好きです。
やっぱ、チョモランマトマトの歌詞って半分は自分自身に近いんだなあ、と。

また、このアルバムは今までと比べてポップになってる分
チョモのメロディメーカーとしての才能も徐々に開花しつつある、
そんな作品にも仕上がってるかなと思います。
とにかく「翌朝」と「目眩がして」の2曲がスカッとするギターロック(ポップ)調になってて
詞はシリアスながらも、サウンドとしては気楽にポンと聴けるような
そんな良い意味での手軽さがあって
それもまたギャップ的に面白いですし
そんな方向性も相俟って「翌朝」に関して言えば実直に聴いてて勇気が出てくるような
聴き手に作用する部分が多い決定打的なアンセムにもなってる気がして。
「プレイロット」は美メロ際立つバラッドで
「渋谷」は若干スタイリッシュな香りすらもしてたりと
どんどん垢抜けてくサウンドの方向性に関心をもちつつ、これはこれで一貫してるのでいいかな、と。
先ほどは初聴きの時は若干戸惑いもあった。って書きましたけど
今考えると下手にアクセントにするよりも、こっちのが中途半端さがなくていいかと。
当然「NO TOKYO」や「AN ALLERGY TO THE FUTURE」みたいなうるさ系の曲も完備されてますし
完全にシフトしないのもまたらしくて良かった。
慣れてみれば、完全にこれはこれで成功だなって思える
新たな可能性を指し示した傑作アルバム。また、ここからの展開にも期待してます。






「この運動会を中止して」 (NO TOKYO)

「カジツ」というのは「果実」「過日」のダブルミーニングだそうですが
おいしいおいしい果実ばかりをむさぼる行為に対しての反骨精神を大いに感じるような・・・
色々考えちゃうようなアルバムだったと思います。
だからこそ、大事に聴きたい。
スマートな傑作です。