旧約聖書を読む 45

2018-12-18 17:01:43 | 

 旧約聖書は、歴史記述としてどうなのか。特に、バビロン捕囚以降。

 吉川弘文館の「世界史年表・地図」によると、ユダ王国がバビロニアのネブカドネツァル(在位605~562年)に滅ぼされて、ユダヤ人がバビロンに連れていかれたのは紀元前586年。アケメネス朝ペルシアのキュロス(559~530年)によって解放されるのは538年。キュロスの次のペルシア王はカンビュセスで、以下ダレイオス(521~486年)、クセルクセス(486~465年)、アルタクセルクセス(464~425年)・・・と続く。これらを踏まえると・・・。

 たとえば、エステル記。美貌の女エステルがクセルクセス王の寵愛を得て、ユダヤ人を危機から救う、という話なのだが・・・。
 エステルのいとこで養父のモルデカイという人物が登場するのだが、彼は元捕囚民だという。バビロン捕囚が終わってからクセルクセス王が即位するまで、50年以上が経過している。いったい、エステルは何歳なのか。モルデカイとそれほど大きな差はないはずだが。
 これがギリシア語版エステル記になると、ペルシア王がアルタクセルクセスになっていて、さらにタイムラグが大きくなる。

 ダニエル書。バビロニアを滅ぼしたのは「メディア人ダレイオス」で、その次に即位したのがペルシアのキュロスなのだという(6)。この「メディア人ダレイオス」というのが、謎の人物だ。有名なダレイオスとは時代が違うし、少なくともヘロドトスの「歴史」には出てこない。しかも「クセルクセスの子」なのだという(9、1)。もう、わけがわからない。

 ユディト記。美女ユディトが、バビロニアのネブカドネツァルの軍勢を色仕掛けで撃退する話。この時ユダヤ人は、捕囚の地から帰って来たばかりだったというが(4、3)、言うまでもなくこれは間違い。ユダヤ人が解放されるのは、ネブカドネツァルの死後20年以上経ってからだ。

 まあ、いちいち細かい点を気にする方がおかしいのかもしれない。そもそも、ペルシアのキュロスによってユダヤ人がバビロン捕囚から解放されたという話自体、ヘロドトスの「歴史」には載っていない。少なくとも当時のギリシア人にとっては、どうでもいいエピソードだったのだ。
 

 
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