KAMASI WASHINGTON / HEAVEN & EARTH
カマシ・ワシントンの新作が素晴らしい。まさに”巨大”と呼びたい現行ジャズの頂。
フライング・ロータス率いるブレインフィーダーからリリースされた実質的なソロ初作「THE EPIC」の衝撃から3年、XX、SBTRKT、FKAツイッグスらを擁するUK気鋭のレーベル、ヤング・タークスへ移籍しての新章「HEAVEN & EARTH」。
[EARTH]と題されたディスク1、[HEAVEN]と題されたディスク2からなる、外的世界と内的世界、現実と理想、表裏一体の2面性を描いたコンセプチャルな2枚組。3枚組だった前作「THE EPIC」と比べればコンパクトになった?と思いきや、ジャケット上部のミシン目を切るともう一枚隠しディスクが出てくるという実質3枚組。
ブランドン・コールマン(key)、キャメロン・グレイヴス(p)、トニー・オースティン(ds)、ロナルド・ブルーナー・ジュニア(ds)、マイルス・モズレイ(b)、ライアン・ポーター(tp)、パトリース・クイン(vo)というライヴ・バンドそのままのカマシ軍団を中心に、盟友サンダーキャットやテラス・マーティンはもちろん、多数のゲスト・ミュージシャン達も絡む上に、クワイア、オーケストラも配するという、圧巻の大所帯。
オープニングからいきなりブルースリー映画「ドラゴン怒りの鉄拳」のカヴァー「Fists of Fury」をスピリチャル・シンガーのドワイト・トリブルに歌わせるという、聴く者の想像の遥か彼方をいく彼の宇宙。ただただ没入するしかありません!
そんな、これぞカマシ・ワシントン!!という壮大なスピリチュアル絵巻が繰り広げられる訳ですが、正直な話、ジャズとしてこの作品がどれだけ凄いかという論評は私には書けません。ただ、とにかく得体が知れなくて、ドロドロとした塊のように聴こえた前作に比べ、数度の来日公演などを通じ、バンドメンバー個々の個性をそれなりに知ったこともあってか、より、メンバーのプレイが耳に入ってくるというか、そういった個々のプレイの際立ちによる立体感のようなものが強く感じられ、そこに、前作以上に”ジャズらしさ”を聴いたりもする。
しかもそれが冗長にならないのがカマシの凄さで、それは楽曲とアレンジの良さゆえなのでしょう。ミュージシャンで有る以上に、作曲者でありアレンジャーであり、バンド・マスターであるというのが、カマシ・ワシントンの本性であり、その仲間達、それぞれがソロ作を出すような気鋭の猛者達がカマシの元に集まる所以でもあるのでしょう。その気鋭の猛者達がいかんなく”個”を発揮しつつ、それが一つの大きな和音のようにカマシの世界観に集約されていく。その壮大な高揚感は、何度聴いても興奮させられます!!
それと一つよく分からないのが、サンダーキャットやテラス・マーティンなどが、その立ち位置や作風で明らかにジャズの枠を超えた斬新な活動をしているのに対し、素人の耳で聞くカマシ・ワシントンは、「THE EPIC」にしろ「HEAVEN & EARTH」にしろ、ほぼジャズであるという点。それなのにフライング・ロータスやケンドリック・ラマーなど、時代を動かすほどの新しいブラック・ミュージックの旗手としてその中核を担うほどの存在感を示しているのは何故なのか? もちろんカマシのジャズは、ジャズと呼ぶにはあまりにもファンキーですし、ソウルフルですし、ロック・ファンにすらアピールするほどの”熱さ”に満ち溢れています。ジョン・コルトレーンやファラオ・サンダースなど先人達から学んだスピリットや、それを包み込むようなスピリチュアルなゴスペル・フィーリングが魅力なのは間違いないでしょう。でもそれだけではないはずなのです。ジャズやブラック・ミュージックが変革を迎えようとしている現行シーンならではの”新しさ”がそこにあるのです。それが耳を捉えるのです。ですがそれが何なのかよく分からない。少なくとも私はそれを言葉にすることはできませんし、納得のいく文章を読んだこともありません。でも分からないからこそ、魅力的なのです。分からないからこそ、カマシのジャズは巨大なのです。
さて最近は、ジョン・レジェンド、イベイー、セイント・ヴィンセント、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、など客演の幅を広げ、ますます目が離せないカマシ・ワシントンですが、そんななか、いよいよサマーソニックが近づいてきています。初日のビーチ・ステージのメインを務めるカマシ・ワシントン。果たして、カマシ・ワシントンの何が凄いのか?ライヴを体験すれば、少しは分かるかな?
KAMASI WASHINGTON / THE EPIC
新進気鋭のLAジャズシーンを一気に表舞台へと上がらせた、言わずと知れた3枚組の超大作にして大傑作「THE EPIC」。2015年のリリース。翌年にフジロックで来日した際にサインを頂きました。その前年の自己名義としては初来日となったブルーノート公演も素晴らしかったですが、フジロック最終日のフィールド・オブ・ヘヴンのトリを務めたカマシ・ワシントンは神がかってましたね。サマーソニック、ビーチステージではどんなライヴを見せてくれるのか?楽しみですね。
KAMASI WASHINGTON / HARMONY OF DIFFERENCE
「THE EPIC」と「HEAVEN & EARTH」を繋ぐミニ・アルバム。そもそも妹さんの絵が展示された、マンハッタンのホイットニー美術館の展示会のために作られた作品。映像作家A.G.ロハスによるヴィデオと共に会場で流されたそう。そんなアーティスティックな想像力をかき立てられる、スイートな作品。
宜しければこちらもどうぞ↓
夏フェスで体験するブラックミュージックの進化
カマシ・ワシントン@ブルーノート東京 2015年10月30日
カマシ・ワシントンの新作が素晴らしい。まさに”巨大”と呼びたい現行ジャズの頂。
フライング・ロータス率いるブレインフィーダーからリリースされた実質的なソロ初作「THE EPIC」の衝撃から3年、XX、SBTRKT、FKAツイッグスらを擁するUK気鋭のレーベル、ヤング・タークスへ移籍しての新章「HEAVEN & EARTH」。
[EARTH]と題されたディスク1、[HEAVEN]と題されたディスク2からなる、外的世界と内的世界、現実と理想、表裏一体の2面性を描いたコンセプチャルな2枚組。3枚組だった前作「THE EPIC」と比べればコンパクトになった?と思いきや、ジャケット上部のミシン目を切るともう一枚隠しディスクが出てくるという実質3枚組。
ブランドン・コールマン(key)、キャメロン・グレイヴス(p)、トニー・オースティン(ds)、ロナルド・ブルーナー・ジュニア(ds)、マイルス・モズレイ(b)、ライアン・ポーター(tp)、パトリース・クイン(vo)というライヴ・バンドそのままのカマシ軍団を中心に、盟友サンダーキャットやテラス・マーティンはもちろん、多数のゲスト・ミュージシャン達も絡む上に、クワイア、オーケストラも配するという、圧巻の大所帯。
オープニングからいきなりブルースリー映画「ドラゴン怒りの鉄拳」のカヴァー「Fists of Fury」をスピリチャル・シンガーのドワイト・トリブルに歌わせるという、聴く者の想像の遥か彼方をいく彼の宇宙。ただただ没入するしかありません!
そんな、これぞカマシ・ワシントン!!という壮大なスピリチュアル絵巻が繰り広げられる訳ですが、正直な話、ジャズとしてこの作品がどれだけ凄いかという論評は私には書けません。ただ、とにかく得体が知れなくて、ドロドロとした塊のように聴こえた前作に比べ、数度の来日公演などを通じ、バンドメンバー個々の個性をそれなりに知ったこともあってか、より、メンバーのプレイが耳に入ってくるというか、そういった個々のプレイの際立ちによる立体感のようなものが強く感じられ、そこに、前作以上に”ジャズらしさ”を聴いたりもする。
しかもそれが冗長にならないのがカマシの凄さで、それは楽曲とアレンジの良さゆえなのでしょう。ミュージシャンで有る以上に、作曲者でありアレンジャーであり、バンド・マスターであるというのが、カマシ・ワシントンの本性であり、その仲間達、それぞれがソロ作を出すような気鋭の猛者達がカマシの元に集まる所以でもあるのでしょう。その気鋭の猛者達がいかんなく”個”を発揮しつつ、それが一つの大きな和音のようにカマシの世界観に集約されていく。その壮大な高揚感は、何度聴いても興奮させられます!!
それと一つよく分からないのが、サンダーキャットやテラス・マーティンなどが、その立ち位置や作風で明らかにジャズの枠を超えた斬新な活動をしているのに対し、素人の耳で聞くカマシ・ワシントンは、「THE EPIC」にしろ「HEAVEN & EARTH」にしろ、ほぼジャズであるという点。それなのにフライング・ロータスやケンドリック・ラマーなど、時代を動かすほどの新しいブラック・ミュージックの旗手としてその中核を担うほどの存在感を示しているのは何故なのか? もちろんカマシのジャズは、ジャズと呼ぶにはあまりにもファンキーですし、ソウルフルですし、ロック・ファンにすらアピールするほどの”熱さ”に満ち溢れています。ジョン・コルトレーンやファラオ・サンダースなど先人達から学んだスピリットや、それを包み込むようなスピリチュアルなゴスペル・フィーリングが魅力なのは間違いないでしょう。でもそれだけではないはずなのです。ジャズやブラック・ミュージックが変革を迎えようとしている現行シーンならではの”新しさ”がそこにあるのです。それが耳を捉えるのです。ですがそれが何なのかよく分からない。少なくとも私はそれを言葉にすることはできませんし、納得のいく文章を読んだこともありません。でも分からないからこそ、魅力的なのです。分からないからこそ、カマシのジャズは巨大なのです。
さて最近は、ジョン・レジェンド、イベイー、セイント・ヴィンセント、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、など客演の幅を広げ、ますます目が離せないカマシ・ワシントンですが、そんななか、いよいよサマーソニックが近づいてきています。初日のビーチ・ステージのメインを務めるカマシ・ワシントン。果たして、カマシ・ワシントンの何が凄いのか?ライヴを体験すれば、少しは分かるかな?
KAMASI WASHINGTON / THE EPIC
新進気鋭のLAジャズシーンを一気に表舞台へと上がらせた、言わずと知れた3枚組の超大作にして大傑作「THE EPIC」。2015年のリリース。翌年にフジロックで来日した際にサインを頂きました。その前年の自己名義としては初来日となったブルーノート公演も素晴らしかったですが、フジロック最終日のフィールド・オブ・ヘヴンのトリを務めたカマシ・ワシントンは神がかってましたね。サマーソニック、ビーチステージではどんなライヴを見せてくれるのか?楽しみですね。
KAMASI WASHINGTON / HARMONY OF DIFFERENCE
「THE EPIC」と「HEAVEN & EARTH」を繋ぐミニ・アルバム。そもそも妹さんの絵が展示された、マンハッタンのホイットニー美術館の展示会のために作られた作品。映像作家A.G.ロハスによるヴィデオと共に会場で流されたそう。そんなアーティスティックな想像力をかき立てられる、スイートな作品。
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夏フェスで体験するブラックミュージックの進化
カマシ・ワシントン@ブルーノート東京 2015年10月30日