ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
現在、 フジロック ブログ と化しています。

アイク・ターナー逝く

2007-12-18 21:41:16 | ソウル、ファンク
IKE TURNER & HIS KINGS OF RHYTHM / IKE'S INSTRUMENTALS

07年もそろそろ暮れようとしている今日この頃、悲しいニュースが届きました。アイク・ターナーが亡くなられたそうです。12月12日、カリフォルニア州の自宅で。76歳だったそうです。死因についてはまだ公表されてないようですね。

アイク・ターナーと言えばティナ・ターナーの元夫であり、60年代から70年代にアイク&ティナ・ターナーとして「River Deep Mountain High」や「Proud Mary」など数々のヒットを飛ばしました。ティナ・ターナーが後にソロで大成功したこともあり、彼女のアグレッシヴ極まりない歌唱スタイルばかりが取りざたされがちなアイク&ティナ・ターナーですが、あれはまさしくアイク・ターナーのバンドなのです。音楽の核となるのはもちろん彼ですし、ティナ・ターナーの才能を見出し開花させたのも彼なのです。さらにティナやダンサーのアイケッツの振り付けや衣装まで彼が手掛けていたと言いますから、まさにアイクのプロデュース能力の結晶なのです。その魅力は先鋭的な黒人レヴューとしてのライブ・パフォーマンスで最も輝きました。いくつかの映像で確認出来ますが、アイク自身はバックに徹するものの、そのトータル的なエグ味と濃ゆさは相当に凄いです! そして70年には来日し「赤坂ムゲン」でライヴを行ったそうです。もう伝説ですね。あ~、行きたかった! でもその時私はまだ2歳…。しょうがないですね。

でもアイク・ターナーはアイク&ティナ・ターナーだけではないのです。むしろそれ以外こそが彼の本当の凄さなのかもしれないのです。

1931年ミシシッピはクラークスデイル生まれ。40年代末、ザ・キングス・オブ・リズムを結成しメンフィスに出ます。そして彼等の初録音と呼ばれるのが51年、ジャッキー・プレストン&ヒズ・デルタ・キャッツ名義の「Rocket 88」。アイク・ターナーの叩きつけるようなピアノと、全体のローリングするようなノリが印象的で、“ロックン・ロールの元祖”と呼ばれたりします。03年のブルース&ソウル・レコーズ誌51号に載ったアイクのインタヴューで彼はこの曲を指し「最初のロックンロールの曲は俺が作ったんだよ」と語っています。さらに「パイントップ・パーキンスが俺にブギウギ・ピアノを教えてくれた。俺はそこに自分なりのフィーリングを付け足したんだ。」と。なるほど~。

でもやっぱり「リズムの王様」を名乗るバンドの本領発揮はやはりインスト物。そこで写真のアルバムは50年代から60年代に掛けてのアイク・ターナー絡みのインスト曲ばかりを集めた編集盤、その名も「IKE'S INSTRUMENTALS」。ロッキンR&Bなゴリゴリなノリを存分に楽しめると同時に、アイクのギタリストとしての魅力が全開なアルバムです。とにかく彼のギターはソリッド且つアグレッシヴ。18番のトレモロ・バーを使ったプレイも随所に飛び出し、独創的なフレーズがトリッキーに駆け巡ります。もちろんリズム・プレイは言わずもがな。だてにキングス・オブ・リズムと名乗ってはいません。また、ラテンな味付けが効いた曲が印象的なのも味噌。

そしてそんな自らのバンド活動と平行して50年代にはモダンやコブラでタレントスカウトやプロデューサー的な裏方仕事に辣腕を振るっていました。その功績は当時のブルース・シーンにおいてしばしウィリー・ディクソンと並び賞されるほどです。と書いたら褒めすぎですかね?

でもハウリン・ウルフをモダン・レコードに紹介したのも彼だそうですし、エルモア・ジェイムスの初モダン録音(52年)でもアイクが重要な役割を果たしたようです。エルモアの代表曲「Please Find My Baby」はこの時録音され、アイクのピアノが重量級のノリに一役買っています。他にも数々の録音でアイクは引っ張りだこだったようです。

そしてコブラでは何と言ってもオーティス・ラッシュでしょう。アイクは彼のコブラでのラスト・レコーディング(58年)に参加しています。この時録音された4曲にはラッシュの代表曲「All Your Love」と「Double Trouble」が含まれます。特に「Double Trouble」はアイクの引きつるようなギターなくしてあの締め付けられるような味わいは成し得なかったであろうと思えるほどの大名演。名曲の影にアイク在りなのです。

その後はもちろんアイク&ティナ・ターナーでの活躍です。しかしここまで順調だったかのように見えたアイクも、ティナとのコンビ解消後は暴力やドラッグというダーティなイメージが定着してしまった感もありました。しかし91年には「ロックの殿堂」入りを果たし、ここ数年は自らがフロントに立ったキングス・オブ・リズムで完全復活を印象付けていました。06年の最新ソロ作「RISIN' WITH THE BLUES」はグラミー賞『Best Traditional Blues Album』を受賞しました。悔やまれるのは03年の来日公演です。私もチケットを買って楽しみにしていたのですが、アイクは入国許可が下りずキャンセル。過去のドラッグ関係が災いしたようですね。結局アイク抜きのキングス・オブ・リズムを観ました。アイクが手塩にかけたバンドだけありなかなか良かったですけどね…。でももう来日が叶わないと思うと今更ながらまたショックです。

アイク・ターナーさんのご冥福をお祈りいたします。




エリック・モングレイン

2007-12-12 23:32:44 | ジャズ
12月9日は新宿タワーレコードでエリック・モングレインのインストア・ライブを見て来ました。”ラップタッピング”と呼ばれる神業的な奏法で魅了するカナダのギタリストです。日本ではNHKの「世界音楽遺産」でゴンチチに紹介され人気に火が着きました。私もその番組を見てエリック・モングレインの存在を知り、世の中には凄いギタリストが居るな~と驚いたものです。

開演30分前程からリハーサルがスタート。2種類のアコースティック・ギターにいくつかのエフェクター。ギターにはシールドを2本刺していました。ステレオなのかな?それとも繊細な音を拾うためピックアップが2つ仕込んであるのか? ま、機材のことは良く分かりませんが、あの奏法であの音色を出すためにはそれなりの秘密が有るのかもしれません。

それにしてもリハーサルが長かったです。リハーサルと言っても曲を演奏するわけではなく、音作りとチューニングがほとんど。とにかく繊細なチューニング。ちょっと弾いてはチューニング、またちょっと弾いてはチューニングを繰り返していました。その響きは何か変則チューニングでした。そしてイコライザーやら何やらの摘みをいじっては弾き、いじっては弾くの繰り返し。機材的な問題でノイズが乗ってしまうことを気にしていたみたいで、なんとかそれをクリアしようと悪戦苦闘していた様子でした。

それにしてもインストア・イベントでこれだけ真剣に音作りをする人ははじめて見ました。いつ終わるとも知れないそのこだわりの姿に待ちくたびれた私などは内心「いや、インストア・イベントだから…、それぐらいで良いんじゃない? ノイズも弾いちゃえば気にならないし…。」とか思ってしまいましたけど、あのプロ意識は凄い!

で、結局ノイズについては諦めてインストアライブがスタート。ギターを寝かせて弾く“ラップタッピング”の曲を最初と最後に1曲づつ、間に普通のスタイルでギターを持つ曲を3曲程披露。普通と言ってもタッピングを駆使したテクニカルなものでしたけどね。でもやっぱり圧巻だったのはやはり“ラップタッピング”。右手の指で弦を叩きハーモニクスをポンポンと奏で、左手でタッピングを繰り返す。その速さたるや目が追いつきません。しかもただトリッキーなだけではなく、美しい音楽として完成されているところが素晴らしい! ほんの数曲でしたが、あの演奏を間近で見ることが出来て感無量でした。

間違いなくギターの可能性を一歩進めた怪人です。そして笑顔が可愛い。そう言えばかなりの人が集まった中、最前列にはずらっと女性が並んでいましたっけ。

デレク・トラックス・バンド@リキッドルーム

2007-12-06 08:12:46 | ジャムバンド/オーガニック
THE DEREK TRUCKS BAND / SONGLINES

11月27日、恵比寿のリキッドルームにてデレク・トラックス・バンドのライブを観てまいりました。やっぱりデレク・トラックスは凄かった! とにかくデレクのスライド捌きに目が釘付けでした。なにしろとんでもない速さとキレでネックの上をビュンビュンと滑らせます。そして適格にフレットを捕らえ独創的なフレーズを次々に繰り出す、まさに神業。愛器SGが鳴らす音色がまた良い!

そして多種多様な音楽スタイルを飲み込み消化したバンド・サウンドがデレクの神業を後押しします。ヨンリコ・スコット(ds)、トッド・スモーリー(b)、コフィ・バーブリッジ(key)、カウント・ムブトゥ(per)、そしてフロントを務めるマイク・マティソン(vo)。彼のソウルフルで暖かい歌声がデレクの強烈なギターと対を成すように芳醇な世界を作り上げていました。

さて、ほぼ定刻にスタートしたそのステージはスリーピー・ジョン・エスティス~タジ・マハールの「Leavin' Trunk」から始まりました。いきなり渋すぎる選曲ですが、考えてみればこの曲のタジ・マハール・ヴァージョンでギターを弾くのはジェシ・エド・デイヴィスとライ・クーダーですから、 スライド・ギタリストとして二人の先輩スライド・マスターへのリスペクトを込めた粋な選曲かもしれませんね。

そして「Soul Serenade」や最新作「SONGLINES」からの「I'd Rather Be Blind, Crippled and Crazy」でデレク・トラックス・バンドの世界へ引き込み、続くは早くも「Key to The Highway」。ビッグ・ビルやジャズ・ジラムと言うより、デレク&ドミノスのカヴァーと言ってしまった方が良いかもしれません。間違いなく前半のハイライト。観客も盛り上がりましたし、デレクのスライド・ギターもまるで火を吹くかのごとくでした。続いてアラン・トゥーサンの「Get Out of My Life, Woman」。これは意外な選曲。トゥーサンというよりアルバート・キングかな?

さて、デレク・トラックスはステージ中央の少し後ろに下がった辺りが定位置で、ギター・ソロだからといって特別前へ出て来たりとか、観客にアピールしたりとかは一切しません。それがまた彼の魅力でもあるのですが、そんな佇まいに少々物足りなさを覚え始めた頃、ステージ前方に2脚の椅子が用意されました。

ヴォーカルのマイク・マティソンとデレク・トラックスがそこへ腰掛けると一気に観客との距離が縮まった雰囲気。ここでデレクはギターをドブロとかナショナルとか、そんな感じのオールドなギターにチェンジ。このコーナーでは笑顔をこぼしながら親密な雰囲気でブルース・ナンバーが立て続けに5曲披露されました。ライブで観たときは直ぐにはピンとこない曲も多かったのですが、帰宅後色々なブログを拝見して判明したその5曲は以下の通りのようです。

1. Preachin' Blues
2. Soul of a Man
3. Get What You Deserve
4. 44 Blues
5. Done Got Over

どうですか?この渋さ。1.はサン・ハウス、2.はブラインド・ウィリー・ジョンソンですよ! オリジナルの泥臭さとアクの強さに比べれば、端正すぎる演奏でしたが、オーガニックなジャム・バンド的雰囲気で和みました。そしてギターをストラト系にチェンジしての3.ですが、これは誰の曲でしょうか? ローリン・アンド・タンブリン的なブギ調のナンバーでノリノリでした。4.は元々はルーズベルト・サイクスで知られるバレルハウス・ピアノ・ブルースの古典ですね。コフィの選曲かな? 5.はギター・スリム? ちょっと違った気もしましたけど…。前半の「Get Out of My Life, Woman」と言い案外ニューオーリンズが好きなんですかね?

この後はいよいよコンサートも終盤。ワルツ的なリズムが刺激的な「I Know」。そして愛嬌たっぷりのカウント・ムブトゥのパーカッジョン・ソロ。さらにコフィのフルートが聴けた「Mahjoun」を挟んでアグレッシヴなジャズ・アレンジが秀逸な「Greensleeves」へ。この辺りはジャム・バンドの面目躍如なスリリングなプレイの応酬。そして本編ラストは待ってましたの「Anyday」! デレク&ドミノスの名曲ですね。デュアン・オールマンの後継者としてだけではなく、エリック・クラプトンに認められた男としての付加価値まで付いたジャストな選曲。これは盛り上がりました!

アンコールは「Gonna Move」と「Freddie's Dead」。最後はカーティス・メイフィールドで締めました。1時間40分程度でしたでしょうか。ちょっと短い気もしましたが、十分堪能させていただきました。フロアではさらなるアンコールを望むお客さん達が相当粘っていましたが、残念ながらそれはかないませんでした。

いやはやそれにしても渋い選曲。オリジナル曲はほとんど演らずブルースのカヴァーが目立ちました。しかも他の日のライブではそれぞれで大幅に曲目を変えてるようで、マニアは全て見に行かなくては始まらないし終われない感じかも。


*既に記憶が曖昧なので、曲目等間違っていましたらごめんなさい。

*写真は現在の最新作「SONGLINES」。素晴らしい作品ですが、この日のライブではほとんど演奏されませんでした。このアルバムを必死に予習していた私の立場は…。DVD「SONGLINES LIVE」がカップリングされたお得なセットも発売されてるようです。