新津きよみ 著
29歳。自分の生き方についていろいろと考えてしまう年齢だ。
特に女性は、結婚や出産が人生に与える影響が大きいだけに揺れる。
主人公・千鶴はインテリアコーディネーターとして働いているが、
恋人と別れて以来満たされない想いを抱えている。
ふとしたことで知り合った美容師の亮子は、近所のアパートに住み、
あらゆる面で千鶴よりも格下に見えた。
仲良く過ごしながらも育っていく屈折した感情。
それは3ヶ月間仕事でNYへ滞在した亮子が見違えるように洗練されて
帰国したことから暴走し始める。
表向きはあくまで穏やかに、それでいて激しいものを秘めた付き合い。
女性特有の、と思われがちだが男性にもあるのでは?
つまり手が届きそうな距離のライバル的存在というのが、もっとも
劣等感を刺激し、自分にもあとひとつ何かがあればと思わせてしまうから。
そのあとひとつは、運であったり美貌であったりコネであったり。
自力ではいかんともしがたいものが多い。
歪みに歪んだ感情は制御を失い、思いもかけない方向へと進む。
攻撃性をあらわにした亮子の行動は本当に怖いし、千鶴の幼稚な感情も
それに拍車をかけてしまう。
ラストはこう来たか……という感じ。
意外とも納得とも思える、それでいて思いのほか穏やかな印象を受けたのは
千鶴の心情に変化があったからか。
人間のマイナス感情を突きつけられる作品。