息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

女友達

2012-10-20 10:31:57 | 著者名 な行
新津きよみ 著

29歳。自分の生き方についていろいろと考えてしまう年齢だ。
特に女性は、結婚や出産が人生に与える影響が大きいだけに揺れる。

主人公・千鶴はインテリアコーディネーターとして働いているが、
恋人と別れて以来満たされない想いを抱えている。
ふとしたことで知り合った美容師の亮子は、近所のアパートに住み、
あらゆる面で千鶴よりも格下に見えた。
仲良く過ごしながらも育っていく屈折した感情。
それは3ヶ月間仕事でNYへ滞在した亮子が見違えるように洗練されて
帰国したことから暴走し始める。

表向きはあくまで穏やかに、それでいて激しいものを秘めた付き合い。
女性特有の、と思われがちだが男性にもあるのでは?
つまり手が届きそうな距離のライバル的存在というのが、もっとも
劣等感を刺激し、自分にもあとひとつ何かがあればと思わせてしまうから。

そのあとひとつは、運であったり美貌であったりコネであったり。
自力ではいかんともしがたいものが多い。

歪みに歪んだ感情は制御を失い、思いもかけない方向へと進む。
攻撃性をあらわにした亮子の行動は本当に怖いし、千鶴の幼稚な感情も
それに拍車をかけてしまう。

ラストはこう来たか……という感じ。
意外とも納得とも思える、それでいて思いのほか穏やかな印象を受けたのは
千鶴の心情に変化があったからか。

人間のマイナス感情を突きつけられる作品。

虞美人草

2012-10-19 10:30:01 | 著者名 な行
夏目漱石 著

著者が朝日新聞社に入社して初めて書いた小説。
思い入れも大きかったようで一字一句丁寧に書かれたという。

自分の気持ちに正直に生きる女・藤尾と、彼女に翻弄される男たち。
文明開化はされても時代は明治。
藤尾の行動は周囲にさまざまな摩擦を引き起こす。

主人公・小野はインテリだがやや流されやすい。彼は学問の道を追求するため
藤尾の財力に魅力を感じる。しかし彼には小夜子という恩師の娘との約束がある。
藤尾には亡き父が決めていた許嫁・宗近がいたのだが、真面目な彼よりも
詩的世界を解する小野に魅力を感じている。

思いが錯綜する中に経済的問題が絡み合い、物語は進むのだが、
これはきっぱり勧善懲悪の話である。

藤尾は悪。それ以外のなんでもない。
というととても単純でつまらない感じがするが、そうでもない。
シンプルなストーリーを独自の世界観で描き出しているのはさすが。

脇役なんだが、糸子の家庭的ながら強いキャラクターは魅力的。

好き嫌いは分かれると思う。
私は読むたびになぜか秋の透明な空気を感じる。
別に虞美人草が秋に咲くわけではなく、物語が秋というわけでもないのにね。



白蓮れんれん

2012-10-18 10:13:17 | 著者名 は行
林真理子 著

昨日に引き続いて、林真理子の歴史もの。
歴史ものが決して得意とはいえない著者だが、これはいい。
女性の心の揺れや周囲の人々との関係などの描き方は
流石だなあと思う。

モデルとなった柳原白蓮は、華族出身の才媛で、福岡の炭鉱王に嫁ぎながら
大学生と駆け落ちをするという激動の人生を生きた人だ。
写真を見ると華奢でたおやかな美女。上品な雰囲気はとてもそんな
熱い情熱を秘めているようには見えない。

東京の文化の香りの中で生まれ育った彼女が、いくら金があるとはいえ、
九州に嫁いだ違和感は痛いほどわかる。
現代でさえも、とくに男性の考え方は東京と九州では大きく違う。
彼女の存在そのものが夫の自慢であったろうし、大切にはされただろうが、
それはきっと床の間の宝物としてであり、人格などないものとされただろう。

もちろん恋物語はおとぎばなしではないからそこで終わらない。
人生はその後も続いていく。
駆け落ちした相手とやがて再婚し家庭を築いた。
しかしそこには、何不自由ない暮らしを捨て、自ら家事をする苦労や、
せっかく産み育てた我が子を兵士として喪うという哀しみもあった。
そんな現実を踏まえても、やはり自ら選んだ人生は幸せだったと思う。
大騒ぎになった事件だが、もとにあるのは一人の女性が自分に正直であったこと。

惜しいのはもう少し時代背景や書簡など、事実が描かれていたらなあ。
テーマそのものがドラマティックでスキャンダラスなので、そっちに
引きずられて、やや下世話感が漂ってしまう。
文化の香り高い人物ばかりが登場するのに、あとひとつ品格が足りないような。
だから読みやすくて面白いともいえるが。

ミカドの淑女(おんな)

2012-10-17 10:03:21 | 著者名 は行
林真理子 著

明治時代の皇室を襲ったスキャンダル。
文明開化の時代に翻弄された下田歌子の運命を、当時の風俗や社会情勢などを
交えながら描写する。

平民新聞が暴露する記事はどれもショッキングで、歌子が置かれた立場の苦しさ、
難しさがわかる。

幼い頃から賢く、宮中に上がってからもその才能から皇后に愛され、
歌子という名を賜ったというこの女性は、決して幸せとばかりはいえない人生を送った。

才色兼備ともてはやされても、男性優位の社会で生き抜いていくためにはそれが
弱点にもなった。
皇室における彼女の立場、華族女学校、東洋のラスプーチンと言われた飯野との関係、
事実はいったいどうであったのか。

明治が決して女たちに望まれたものではなかったという記述があるが、
時代に翻弄される彼女たちの姿を見ると納得できる。

しかし歌子はそれをも乗り越えた。彼女は教育を生涯の仕事とし、とくに軽んじられていた
女子のために力を尽くした。

周囲の男性たちは怖かったのではないか。この行動力、判断力。
すべてを持っている上に美しい女である彼女が。
時代は彼女を理解するには早すぎた。しかし、だからこそ生まれた多くの学校や
優秀な女性たちがいる。