息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

凍りついた香り

2015-02-03 12:16:24 | 著者名 あ行
小川洋子 著

ともに暮らしていた恋人が死んだ。
彼は調香師をめざしていた。

びんの蓋をあける。
ムエットをつまむ。
その美しい一連の動きを涼子は記憶している。
遺されたデータには
「岩のすき間からしたたり落ちる水滴。洞窟の湿った空気」
「締め切った書庫。埃を含んだ光」
「凍ったばかりの明け方の湖」
という言葉が並んでいた。

彼の生きてきた時間をさかのぼる旅が始まる。
彼の履歴書はでたらめだった。
少年時代、数学の天才ともてはやされていた彼は
高校中退後家出して、まったく別の人となった。
きっかけとなった数学コンテストの謎を追い、
涼子はプラハへと渡る。

生と死のはざまにあるような洞窟と孔雀の番人に出会い、
涼子は少しずつ、彼の死を受け止めていく。

どこまでが事実でどこからが夢か。
あるいはすべてが無なのか、わからない。
しかし、香水、スケート、数学などの小道具が、
一人の人間の輪郭をはっきりと描き出し、彼を愛した人々をも
映し出す。
何もかも秘密のままで死んでしまった彼のことを知る過程が
弔いの過程となる。

透明感のある、そして凛とした世界観がとても好きだ。

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