息をするように本を読む

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ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

町から来た少女

2013-04-11 10:17:40 | 著者名 あ行
ヴォロンコーワ 著

ロシアの物語はなぜか懐かしく、心惹かれるものが多い。
厳しい自然の中で暮らす人たちは、生けるものへのまなざしが優しいからだろうか。

本書の舞台は第二次世界大戦時、ドイツ軍がロシアへと侵攻した頃だ。
それまでのどかな風景が広がっていた農村地帯に、戦火を逃れて都会から難民たちが
流れ込んできた。

家族を失い、近所の人と共に逃げ伸びてきた少女ワーリャ。
彼女の境遇を哀れんだ農家の“おかあさん”は、自分の子としてひきとる決意をする。
2人の娘と息子、そしておじいさんが暮らす農家で新しい生活を始めるワーリャ。
これまでの暮らしとの違いに戸惑いは多いが、“おかあさん”の愛情を注がれ
少しずつ馴染んでいく。
しかしどうしても“おかあさん”と呼べない。
無理はさせまいとしながらも、“おかあさん”も不安がある。
そんなある日、この春初めて咲いたマツユキソウを手にして、ワーリャは
「これを“おかあさん”にもってきたの!」と叫ぶ。

シンプルな話なのに、戦争の哀しみ、悲惨さ、そしてそんな中でも他人の子にでも
愛情を注ぐ人がいるという喜びがあふれている。
かわいそうだから、といってベタベタ甘やかすのではなく、家族としてのあり方を
毅然として守る姿もいい。
だからこそ、少しずつ心を癒し、少女はゆっくりと家族になっていくのだ。

マツユキソウはとても象徴的だ。
ロシアの話では春、雪解けの喜びとともに咲く花としてよく登場する。
そんな嬉しい花を小さな花束にして駆けてくる少女、“おかあさん”は世界で一番
幸せだったに違いない。

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