息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

伊豆の踊子

2012-10-01 10:56:08 | 著者名 か行
川端康成 著

主人公の学生が、湯ケ島、天城峠で出会った踊り子。
重い心を抱えた旅路に加わった、鮮やかなひとときを描き出す。

20歳の“私”は自分が孤児根性で歪んでいると悩んでいた。
反省と憂鬱から旅に出ることを決め、伊豆へと向かう。
天城峠で旅芸人の一座と出会うシーンは、印象的だ。
深い山道に華やかな彩を添える人たち。
“私”は彼らと行動を共にする。

“私”はエリートである。
進学率の低い当時にあって、上級学校へ進み、おそらく将来も有望だ。
そんな意識の中、身分への偏見はあったであろうし、一座と同行する
ことを決めたとき、そんなものを打ち砕いたという思いはあっただろう。

共同浴場で全裸の踊り子が手を振る場面がある。
子どもなんだと“私”が笑い出したくなるような無邪気な光景であるが、
何かが吹っ切れた感が素晴らしい。
“私”は彼女へほのかな恋心をもっているのだが、それすら否定するような
幼さであり、微笑ましさだった。
わずかなときを共にした後、“私”は船で去ることになる。
一座と手を振り合い、涙を流しながら、何かが変わったことを感じる。

実際に“私”は自分の周りを囲んでいた殻のようなものを
脱ぎ捨てることに成功している。
そして、それは彼が大人へと進む段階の一つと思える。

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