哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『これからの「正義」の話をしよう』(マイケル・サンデル著)

2010-08-10 23:19:19 | 
 今哲学書としては異例にベストセラーになっている本だ。ハーバード大学の公開講義がもとになっているといい、日本でもNHKで放映された。

 実は初めてこの題を見たとき、「これから正義の話をしよう」という題と勘違いした。公開講義がもとになったと聞いていたので、「これから始めよう」という意味だと思ったのだ。ところが「これからの正義」と、「の」が入っている。「これからの正義」ということは、「これまでの正義」があり、区別するということになるのか。池田晶子さんならきっとバッサリ斬りそうなところだ。「正義」に「これから」も「これまで」もないからだ。

 原題は単に「Justice」であり、そのまま題名をつけるとすれば「正義論」となってしまい、本屋の哲学の棚に並んだときにロールズの一連の著作と区別がつかなくなってしまうから、このような題を付けたように思える。「これからの正義」といえば、多くの人が手にとってくれそうだし、実際それは成功しているようだ。


 さて、内容の方だが、これは池田晶子ファンでも好感が持てる内容であり、お薦めといえる。哲学者については、カントとロールズとアリストテレスが主に語られるが、考える素材が現代において実際に起こっている生々しい出来事ばかりであり、あくまで自分の頭で考えさせようとする姿勢であることもよい。公開講義では学生との対話によるソクラテスメソッドで行われていたというから、まさに講義から生まれた本に相応しい。


 著者は上の3人の哲学者の中では、アリストテレスに近い立場をとるようだ。正義は善に通ずべきだし、誰もが共通に同意できる公共善というものを考えようとする。

 「正義」や「善」とはどういうことか、その実現された結果をどう思い浮かべるかは各人様々でも、「正義」や「善」という言葉が本来意味するところは万人に共通である。でなければ、言葉として成立しえない。言葉としての「善い」が、「悪い」に決して入れ替わったりしないのだ。このラディカルな地点から考えるべきなのだろう。これは池田晶子さんの謂いでもある。