テンネンと炊飯器

 昨日は一番下の娘の卒業式だった。
 通学に利用する小田急線の運行が心配だったので、娘は一昨日の夜に出かけて友達のところで一泊した。
「こんな時に、着物に袴の晴れ着姿じゃ、なんだか申し訳ないよ」と言っていた。
 偉いとは思ったが、被災地の人なら尚更「そういう時は晴れ着をきなさい」と逆に励ましてくれるだろうと思ったので、「いいさ。堂々と着ておいで」と言った。

 レンタル衣装の娘の晴れ姿を一目見ようと、家内も昨日のお昼におでかけ姿で出かけた。
「お彼岸前日なのに、出かけていいかしら」と言っていた。
 たいしたものだと思ったが、「あなたが許してくれなかったから、最後の卒業式に出られなかった」と後々まで言われたのではかなわないと思ったので、「行っておいでよ」と言った。

 夕方家内からメールが入った。
「これから新宿を出て帰ります」
 おりしも、テレビで、このまま電気をつかい続けたら予測不可能な大停電になると緊急放送してたので、あわててメールを返した。
「予測不可能ナ大停電がオキルカモシレナイカラ、早ク帰ッテオイデ」
「電車モ止マルノ?」
「大停電ダカラ、止マルサ」
「何時ゴロ停電スルノ。」
「ソレガ ワカラナイカラ 節電シナサイッテ ニュース ガ ナガレテ イルンダヨ」

 しばらく返信がなかった。何か考えていたらしい。
 が、5分ほどしてメールが入った。
「停電シタラ大変ダカラ、ゴ飯ヲ四合焚イテオイテ」
「ダカラ、ミンナ ガ ソレヲ スルカラ大停電ニ ナルンダッテバ。アハハハハ。デモ ヤッテ ミルヨ」
 と返信した。それから家内からはメールはなかった。

 お米を研いで、炊飯器のスイッチを入れる時、手が一瞬止まった。
 私が炊飯器のスイッチを入れたとたんに大停電になったら大変申し訳ないと思った。

 「四合焚イテオイテ」という不思議なメールの意図は家内に聞いていない。
 自分勝手に、母親というのはこうも家族のことを心配しているのだなと、あらためて思う。その点、私はぜんぜん駄目である。
 
 被災地のお母さんたちの心配は如何ばかりだろう。テキパキとやることをこなしていく人たちの横で、我が家の家内くらいテンネンぶりを発揮してくれると、笑顔が増えるかもしれぬ。
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