幸多かれと

 家内は心配する。
「あなた、明日話すこと考えてるの?」
「まだ考えてないよ」
「ちゃんと、言わなくちゃいけないことは言わなくちゃダメよ」
「わかってるよ」
「言わなくてもいいことは、言っちゃ駄目だらかね」
「なんだよ、それ」
「放っておくと、あなたって何を言うかわかんないから、心配なのよ」
「でぇじょぶだ。しがねぇながらも姐さんよりゃ場数を踏んでる俺だ。任しといつくんねぇ」
「それ。そういう言い方するから、心配なのよ!」

 家内が心配しているのは、二人でやる媒酌人の、披露宴での私の挨拶だ。
①挙式の報告
②新郎新婦の紹介
③列席者へのお礼とお願い
--この三つが、昔から媒酌人が言うことだ。
 それははずさないで申し上げるつりである。
 結婚披露宴の目的は、二人をお祝いすることである。人生訓話を会場の人に聞かせることではない。楽しい場にすることである。
 その目標に向かっていれば、話に枠とか型とかなど有ろう筈もない。自分を信じて普通に話せばいいのだと思う。五十歳の坊主が、結婚二十五年の私が、等身大で普通にやればいいのだ。
 挙式する若い二人に幸多かれと、切に願う--それだけ思って喋ろうと思う。
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