平家物語・義経伝説の史跡を巡る
清盛や義経、義仲が歩いた道を辿っています
 



平家が壇ノ浦で滅んだ翌年の文治二年(1186)、比叡山の顕真(けんしん)が
大原の勝林院に法然を招いて、浄土念仏の教理を論議・問答しました。

比叡山の俊才や東大寺の重源とその弟子達、さらに大原の上人たちも
参加して行われた論戦は、一日一夜に及びましたが、
法然は、どのような難問にも経典の根拠を挙げて理路整然と論破しました。
これが有名な大原問答です。貧しい、学がない、難しい修行もしない
一般の民衆に法然のまなざしは向けられ、
いかなる人間、
例え罪人であっても一心に南無阿弥陀仏(阿弥陀仏におすがりします。)を
称えれば必ず極楽往生できる。と説く教えは多くの人々の心をとらえました。

これによって法然の名は広く知れ渡り、庶民だけでなく、
大原問答後まもなく、後白河法皇の姉の
上西門院(じょうさいもんいん)が、法然に説戒を依頼します。
その縁で後白河法皇やその皇女式子内親王、それに摂政九条兼実らも
熱烈な信者となり、のちに兼実は法然を戒師として出家します。

討論の会場となった魚山(ぎょざん)勝林院は、慈覚大師円仁が中国で学び
比叡山に伝承されていた声明を広めるために、長和二年(1013)に
左大臣源雅信の子、寂源によって創建された天台宗延暦寺の別院です。

大原問答で知られる勝林院の本堂



法然上人が大原問答の際に法華堂の前、来迎橋の袂にある
この石に腰かけて休息したといわれています。


三千院の近く、律川に架かる橋の畔に
熊谷直実腰掛石と鉈捨藪跡があります。


鉈捨藪(なたすてやぶ)跡 
文治2年(1186年)の大原寺勝林院での法然上人の大原問答の折に、
その弟子の熊谷直実(蓮生坊)は、
「師の法然上人が論議にもし敗れたならば法敵を討たん。」との
目的で袖に鉈を隠し持っておりましたが、
上人に諭されて鉈を藪に投げ捨てたと伝えられています。
なお、勝林院は橋を渡り50メートル先です。京都大原里づくり協会
(現地説明板より)

熊谷直実が法然の門を叩いたのは、所領争いの御前裁判が行われた
建久三年(1192)以後のことですから、
大原問答の時、
直実が法然上人のお供をしたというのは、史実とは異なります。
大原問答にまつわる直実の史跡は、直実の武勇や激しい気性、
法然によく仕えて信仰に一途な僧となったことが結びつけられて、
生まれた伝説の史跡と考えられます。

『アクセス』
「勝林院」京都市左京区大原勝林院187 京都バス、市バス「大原」下車徒歩15分
『参考資料』
梅原猛「法然の哀しみ」(上)小学館文庫 梅原猛「京都発見」(3)新潮社 
別冊太陽「法然」平凡社 「昭和京都名所図会」(洛北)駿々堂


 





コメント ( 2 ) | Trackback (  )


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コメント
 
 
 
関東武者の直情径行な気性を代表しているのですね。 (yukariko)
2014-03-06 23:11:26
源氏の御家人として必死に生きぬいた武人の複雑な生き様ながら、その後の政治の世界での流れは単純すぎる直実の頭では理解できなかった。
その後所領に引きこもっていた彼が、法然の教えに納得したからこそ、出家し、法然に仕えて信仰に一途な僧として後世を生きた訳ですね。

敦盛の遺骸、衣装や笛に子細を記した書状を添えて父経盛の許に送るのはなかなか出来ないことですね。
でもだからと言って出家の大きな原因の一つに敦盛を討った事を数えるのは行き過ぎのような気もします。
戦いや所領争いに明け暮れた武人の神経はもっと荒縄のように太いと思うのです。
それは後世の読者が『こうあって欲しい』と思い描いた直実の姿ではないでしょうか?
 
 
 
戦功に命をかける小領主の悲哀 (sakura)
2014-03-07 11:26:03
熊谷直実は、合戦で手柄を立てて所領を増やし、少しでも一族の生活を楽にすること。
そのためには家と所領を命がけで守り、武芸で頼朝を支えてきたはずです。
しかし、時代が変わり、文官たちが活躍し、嫡男直家に幕府への奉公を任せられるようになると
直実は自らの役割が終わったことを自覚したのではないでしょうか。
直実は勇猛な武士にしては、意外なほど人間臭く、功を求める姿と
息子小次郎直家や敦盛に向けられた父親の姿が印象的です。
敦盛の遺骸、衣装や笛に子細を記した書状を添えて父経盛の許に送ったという過程や
出家の動機は、実際の直実の人柄があってこそ平家物語の作者も
そのように記したように思われます。読者も直実が後に出家したこと、
一心に仏道修行したことなどと結び付けて、
直実なら敦盛の菩提をきっと弔ってくれたであろう。とひそかに期待します。
 
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