風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国・上海の旅

2015-12-06 20:06:11 | 永遠の旅人
 水曜日から上海と西安に出張して来た。先ずは上海の印象から。
 相変わらず一泊しただけの駆け足の旅だから、雑な印象に過ぎないのだが、この街を見ていると、得体の知れない中国という統治機構あるいは国家体制を論じることの難しさを思う。上海は、東南アジア諸国の開発独裁の大都市とさほど変わらない(結果としてそうなのではなく、実際にそのような発展を目指して来たのだろうが)。まったく国家というものの実体の不思議を思わざるを得ない。一つには、よく言われるように、中国の(北京を中心とする)北と(上海を中心とする)南とでは国柄が違うと言われるほどの違いがあるのだろう。もう一つには、それとも関連するが、私たちが普段、新聞・雑誌で目にする中国は、政治的には共産党一党独裁であり、経済的には国家資本主義で、対内・外政策は強権・覇権的であり、そんな硬い言葉で形容される中国を総称して中華帝国と揶揄され、そこでは13億の民の一人ひとりに完全な自由はないし国家権力のもとでは全く無力なのだが、国家を支えているのはそんな13億の民の日々の経済活動であり、西欧的な価値観としての選挙制度はないにしても、そんな13億の民の信認なくして国家(共産党の統治)はやはり成り立ち得ない、ということである。
 今の中国を象徴するようなエピソードを聞いた。この夏の上海株式市場の株価暴落で、影響を受けたのは株式投資できる一握りの高額所得者だけであって一般民衆には関係がなかったと話す著名エコノミストがいたが、話半分のようだ。実は民衆の9割方は多かれ少なかれ株式投資に手を染めているらしい(と聞いていたが、本当らしい)。ギャンブル好きな中国人の面目である。他方、彼らは株価が多少下がっても国が何とかするだろうと高を括っていたらしい。実際のところ、暴騰のあと暴落したところで、3月頃の水準に戻しただけで、その間、慌てて売り買いをして多少のボロ儲けをしたり損をこいたりということはあっただろうが、3月以前から株を持っていた大多数の一般民衆にとっては今の水準でも十分に高いままなのである。当時、習近平政権のなりふり構わぬ株価維持対策は、まさにこうした民衆の信認を失わないがためであったことと考えると合点がいく(と、当時もそのような議論があったが、まさにそのようだ)。
 しかし上海の人々の所得水準を侮ってはいけない。スタバのドリップ・コーヒーは、トール・サイズが17元(320円)、グランデ・サイズが20元(380円)と、為替によっては日本より高くなるほどである。以前、マレーシア(ペナン)に駐在していた頃、徒然なるままに訪問した東南アジア主要都市に所在するスタバのコーヒーの値段を調べたことがあったが、マック指数に似て、スタバ指数も実感として生活水準を反映していたことを確認した。上海で、この金額を払ってコーヒーを買う購買層が当たり前に大勢(店を成り立たせるほどには)いるというのは、やはり驚きである。
 習近平政権は、前の胡錦濤政権が2012年の共産党大会で発表した所得倍増計画(2020年の国民所得を2010年比で2倍にする)の旗をおろすつもりはないようだ。むしろ所得倍増ありきで経済運営しているように見える。7%成長を続けて行けば、計算上は10年後に1.967倍になる、7%というのはマジック・ナンバーである。しかし、今回訪問した西安のような地方都市でも高層マンションが立ち並ぶ様は壮観と言うより異様だった。売り出し中の垂れ幕が、長らく風に晒されて薄汚れて、所謂ゴーストタウン化しているのだ。この広大な中国で誰がどうやって計算したのか知らないが、今や13億の国民の約3倍の人が住める収容能力があると、西安・兵馬俑を案内してくれたガイドのお姐さんが話していた。観光ガイドのお姐さんが喋るくらいだから、人口に膾炙していることなのだろう。そこまでして頑張って維持して来た7%を(実際にはその水準すら疑われてきたわけだが)、今後も維持できるわけがないことは、もはや自明である。
 結局、「世界の工場」を返上せざるを得ないほどに、民心維持に汲々としているのが実態ではあるまいか。経済的な活力(あるいはGDP)を落とすことなく、いかにして内需主導のサービス経済にスムーズに移行(すなわちソフトランディング)出来るか、そしてその過程で、「世界の工場」は沿岸部のみが栄えたが、今後はその繁栄をあまねく国内に、とりわけ内陸部にも行き渡らせ、所得格差をそれなりに解消できるかどうかが、習近平政権に課せられた課題なのだろう。
 フォルクスワーゲンの偽装問題は、中国では問題ではなくて、VW車は相変わらず売れているそうで、数少ないながらも話をした中国人はモノともしないと話していた。そんな中国をしたたかと見るか、品質の低い薄っぺらな社会と見るか、意見は割れようが、少なくとも上海の人々の、中共という異形を感じさせないほどの日々のごく当たり前の力強い経済活動や自信を見ていると、私たちは中共を過大評価しているのではないか・・・そんなことを思わせるほどの繁栄だった。
 なお上の写真は、上海ではなく、西安・兵馬俑の前に軒を連ねるレストラン。右手看板にあるけったいな文字は、中国で最も画数が多く、58画あるとされるが(私には57画にしか思えないが、旧字体としてカウントする部分があるのだろうか)、どうやら正式の漢字ではないようだ。陝西省で一般的な麺「ビャンビャン麺」を意味する。もともと水の乏しい同地域の田舎で食された貧民食だったが、近年ではその風変わりな表記が注目を集め、西安市などの都市でも提供されるようになったという。ラーメンと言うよりきし麺に近いが、唐辛子や刻み葱やピーナッツ油をかけた中国的な味付けは、ラーメン好きの日本人にも受け容れられるなかなか美味い麺だ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« TPP | トップ | 中国・西安の旅 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

永遠の旅人」カテゴリの最新記事