風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ある中国人留学生の激白

2011-12-07 03:00:10 | 日々の生活
 数日前、田村耕太郎さんが日経ビジネス・オンラインに寄せられたコラムに、東大の駒場祭で行われた「東大生よ、海外へ出ていけー」というタイトルのパネルディスカッションの模様が紹介されていました。北京大学研究員の加藤嘉一氏、東大理事の江川雅子さん、そして田村氏の三人が「若者の海外展開」について熱く語り合った際、中国人留学生から鋭い指摘があったそうで、印象に残ったので紹介します。

 「中国なら『若者よ世界へ出ろ』なんてパネルは成立しません。だって、大人から言われなくても、みんな猛烈に外へ出たいんですから! 中国人には日本人と比べてたくさんのハードルとリスクがあります。情報は政府に統制されているし。ビザを取るのも大変だし。お金も日本人よりないです。それでも皆、海外へ出たいんです。私たち中国人から見て日本人は、留学するにも恵まれています。なのに、なぜ出ないのですか」
 「私たちの夢はお金持ちになって移民すること。中国を出たいのです。本気ですから、語学だって真剣に勉強するのです。だから中国人は何語でも速くうまくなるのです」
 「中国は、いつ何が起こるか分からない。政府が何してくるか分からない。とても政府が強くて、怖い。成功しても、いつ何されるか分からない。本当の情報はありません。我々が生き抜くためには脱出しかないと思っています」
 「今後、中国はさらに発展する可能性があります。しかし、いかに中国が成功しようが関係ありません。私たちは中国から脱出したいのです」
 「中国では公務員以外に長期雇用はありません。定年まで安泰なんてまずありません。公務員だっていつライバルに刺されるか分かりません。よく汚職がリークされて、関係者が逮捕されたり極刑にされたりしてます」
 「良い会社に入って、いくら頑張っても、いつ解雇されるか分からない。失業保険も生活保護も年金もあてにできない。死ぬまで自分で稼がないと生きていけない。それくらいの覚悟はできています。だから頑張るんです。日本人は本当にうらやましい」
 「私は一人っ子だから、溺愛してくれるお父さんやお母さんが、本音では私と中国で暮らしたがっているのが分かる。でも私のことが本当に好きだから、お金をかけて留学させてくれた。そして『自分たちに海外で暮らす力はない。お前だけでも自由に暮らして。帰って来ちゃだめだ』と言います」。
 「日本人は世界中で好かれているから、ビザが簡単に取れたりする。ビザが要らないこともある。円高で有利だし、情報は自由に取れる。私たち中国人から見たら、すごく恵まれている。首相を代えたり、政府を批判できたりすることも、中国人から見たらうらやましいことです。『政府が強権的に経済を進める中国のやり方がうらやましい』という日本人がいて、びっくりしました」
 「日本人は、自分たちがどれだけ恵まれているかを知らなさすぎる。日本の政府やメディアは、中国のそれに比べたら全然ましです。私たちは死ぬまで政府から何もしてもらえないことを知っている。一人っ子で甘やかされても、そこだけは厳しく家庭教育されていますから」。

 最後から三人目のコメントに対して、田村さんは次の質問をぶつけたそうです。「自由を欲する人たちはこれからもっと増えるのではないですか? ご両親もあなたも中国から脱出するだけでなく、中国を良い方向に変えるべく行動を起こしたら?」 するとこんな答が返ってきたそうです。「中国の治安部隊の怖さと力は半端ではないです。そんなことをしたら、何をされるか分かりません。仕方ないんです」 田村さんは、さらに切なさが増した、とコメントされていました。
 このコラムには、2011年、米国の大学で学ぶ外国人留学生が過去最高の約72万人に達し、その中で、中国人留学生は16万人と最大勢力で18%を超え、二位にインドの10万人、三位に韓国の7万人が続くといった話も紹介されていました。この順位はまさにグローバル社会で元気がある国の序列そのもので、暴走国家・中国は勢いを増すばかりです。
 ちょっと古いですが、10月5日のニューズウィーク日本版に「世界の機密を貪る中国スパイ」という特集記事が載っていたのをご記憶の方もいると思います。その中で、「中国の諜報体制は世界最大で、最も姿が見えにくく、しかし最も活発」(国際評価戦略センター上級研究員リチャード・フィッシャー)と述べられています。「何しろ中国の情報当局は、国外に住む自国民や国外で活動する自国の団体、国外に根を張る中国系マフィア、祖国に対して一定の郷愁と愛着を持つ華僑のすべてを『工作員候補』と見なしている。『学生から企業経営者まで、中国から来た人間は工作員の可能性があると疑ってかかるべきだ』(フィッシャー)」
 そこで感じたのが、中国脅威論がかまびすしく、そんな風潮の中で、中国恐るべしと思い込んでいた私に、田村さんのコラムは、強烈な一石を投じた・・・ということでした。ある意味で当たり前のことですが、中国は一枚岩ではない。むしろ中国人は伝統的に政権を信用して来なかったと言うべきかも知れない。中国スパイと言っても、もしかしたら本心は別のところにあって、独裁権力の前に、やむを得ず順応して見せているだけかも知れない。ニュースにはなりませんでしたが、中国の銀行の支店長クラス以上のマネジメント層が大挙して(何百人という単位で)海外にカネを(何千万円とか億円の単位で)持ち逃げした話を聞いたことがありますが、案外、そうしたところが中国という異形の国家の現実なのかも知れないと思います。そうすると、暴走する中国を動かす権力マシーンとは、一体、何なのか。空恐ろしくなります。
 それからもう一つ感じたのが、日本はやはり良い国だということです。戦後、戦勝国に押し付けられ左翼系知識人に煽られた自虐史観に囚われ続け、今なお謹慎を続けている私たちですが、第一回バンドン会議では日本は非白人諸国の独立のために戦った雄として称えられたという話を聞いたことがあります。ウサギ小屋に住むエコノミック・アニマルと蔑まれたことがありますが、原則として軍を否定し、ODAで新興国に対し見返りを期待しない多大なる貢献をなし、無垢なる皇室を戴いて、権力政治から無縁な潔さを貫いてきて、経済規模で世界第三位に転落したとはいえ、また長いデフレに悩もうとも、おしなべて自由で人の好いコミュニティを維持し続け、非白人からは案外尊敬を集めている(11月16・18日のブログでも触れたブータン国王の演説のように)というのは、ある意味で世界の驚異と言えるかも知れない。西欧の文脈からは、ちょっと(かなり?)変わっているかも知れませんが、これが我々のありのままの姿であり、昨今のユーロ財政危機や、金融資本主義で疲弊し社会が分断されたアメリカなどと比べても、もっと自信をもっても良いのかも知れません。
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