春の雲ながめてをればうごきけり 日野 草城
「明治は遠くなりにけり」と詠んだのは中村草田男で、『なつかしい大正』を書いたのは杉浦明平である。平成も四半世紀を過ぎて、「昭和の匂い」がクローズアップされる今日このごろだ。地上にある人事や風俗、文化などはその時代の特性を色濃く写しだすが、それを包みこんでいる空や雲の表情は時代に左右されることなく悠久である。
永井龍男の『赤飯東京図絵』を読んでいたら、裏店住まいの子供たちに売る飴屋の話に出会った。たくさんの子供たちが、飴屋を取り囲んで騒いでいるが、飴を買うことのできるのはほんの少数であった。
「飴屋といっても、幾種類かあった。なんの曲もなく、割りばしに飴をまいてよこすものから、頭に盤台をのせ、太鼓をたたいてくるヨカヨカ飴、深い布袋の底のぎんなんをつまませて、赤く染めたものに当ると、太いさらし飴をくれるのがあり、しんこ細工と同じように、子供の注文に応じて狸でも鶴でも、飴のさめないうちに素早く細工して、食紅で色までつけてあった。この飴屋だけは、チャルメラ風の笛を吹いて子供を集めた。」
このような風景は、飴を売りながら子供たちに「黄金バット」などの紙芝居を見せる昭和の風景に通じるものがある。こどもたちが駆け回る広場の上には、変わらぬ表情の青空があった。
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