
尾花沢の二ツ森(695m)には、いまだ深い雪の中だ。牧場の上の山だが、駱駝のような二つ瘤の山だ。深い雪とはいえ、もうすぐ啓蟄、雪のなかで春が確実に始まっている。前日までふっていた雪もあがり、登山口の牛舎前の駐車場に着く頃には、日がさしてきた。青空の向こうに、懐かしい山容が雪化粧をして聳えている。夏道の登山口は、牧場のなかの道をぬけてすぐ麓にあるが、雪の季節は牧場の上の雪を踏んで行かなければならない。カンジキを付けた14名の一行が歩くと、たちまち雪の上に道ができる。誰も踏んだことことない雪の上に、道をつくる。実に雪の季節にしかできない、意義深い行動である。人は太古の昔から、こんな風に道を作り、一日の糧を求めて狩りをしてきたのだろう。
牧場を30分ほど歩いて、登山口につく。雪はすでに、融けかかったようにギシギシと音を立てている。沢沿いにある夏道を避け、雪崩の怖れのない尾根を登る。鞍部まで30分。夏道であれば、軽々と行けるが、雪の中は傾斜がきつく感じられる。鞍部に近づいて風が強くなる。牛舎付近ではおだやか気候が、急に風が強くなって、冷気も強い。鞍部から頂上までの20分、激しい風の呷られる。帽子を飛ばされる人。アイゼンに履き替えて、カンジキをリュックにくくりつけようとして、片方のカンジキが風に飛ばされる。体感では風速20mもあるように感じられる。身を屈し、風に耐えながら頂上に立つ。初めて参加した新人さんの言葉。「この風は一生忘れられない」
風のなか、灌木の枝につかまりながら下山。登山口に着く。あれほどの吹き荒れた風が嘘のように消えている。広がって三々五々、カップラーメンにお湯を注いで昼食。往復約2時間30分。徳良湖の花笠温泉で、身体の疲れを癒す。下山後の温泉も、コロナでずっと止めていたので、その効能を久しぶりに実感した。冬の期間、コアウォーキングとスロージョギングで準備した脚は、そこそこ雪の中でも使えている。下山の雪は、一歩ごとにぬかっていく。こんなことにも、春は感じられる。新緑と花の季節が待たれる。
枯山の背骨腰骨春めきぬ 林 翔
